第4話|ディートリヒ、彼女を守る決意
馬車の軋む音が静かな夜道に響く。
星明かりに照らされる道は長く、森の匂いが混ざる冷たい空気が、二人の呼吸を白く染めた。
リリアーナは胸元の石をそっと触れ、揺れる鼓動を感じる。
「……もうすぐ伯爵邸です」
ディートリヒの声は低く、穏やかだった。
目の前のリリアーナを見据え、ただ彼女を守るという覚悟が漂う。
リリアーナは小さく息を吐く。
胸元の石がじんわりと温かく脈打つのを感じ、鼓動を整える。
恐怖はもうなく、ただ静かに心を落ち着けるだけだった。
馬車が伯爵邸の門の前で静かに停まった。
夜の静寂に混ざる馬のいななき、軋む車輪の音。
ディートリヒは短く息を吐き、視線をリリアーナに向ける。
「……俺は、君を確実に守る」
言葉は短く、揺るがぬ誓い。
冷静な強さの中に、わずかな温かさが宿る。
リリアーナは胸の奥でその言葉を受け止め、静かに頷いた。
ディートリヒは少しだけ距離を詰め、低く呟く。
「……側にいて、支えたい」
馬車の扉がゆっくりと開かれる前の、静かな間――
二人の間に甘さはないが、確かな意思が存在していた。
馬車の扉が開かれ、二人は石畳に足を下ろした。
夜風が二人の頬を撫で、伯爵邸の石畳に冷たい音を響かせる。
ディートリヒはリリアーナの手を最後に軽く握り、温もりを伝える。
「いずれ、また近いうちに」
言葉は短いが、決意に満ちていた。
リリアーナは胸元の石に手を触れ、静かに頷く。
その時、伯爵邸の扉が開き、煌びやかなドレスに身を包んだセリーナが現れた。
後ろから慌てて、ヨハンが出て来た。
そんなヨハンの戸惑いを他所に、セリーナは優雅に笑みを浮かべる。
そしてリリアーナの存在など、まるでないかのように、前を通り過ぎ、ディートリヒに花のように微笑み、その腕に擦り寄る。
「ディートリヒ様……お帰りなさい!」
セリーナの胸がディートリヒの腕に押し付けられる。
その光景を目にし、リリアーナの胸がぎゅっと締め付けられ、息が詰まる。
その瞬間、リリアーナに見せる普段の優しさとは真逆の、冷徹で強い視線がセリーナを捕らえる。
セリーナは身体を震わせ手を引き、表情を強張らせる。
少しずつ後退りし、踵を返してゆっくりと去っていった。
「嘘よ!こんなはずじゃ……」
来たるべき断罪に向け、ディートリヒは静かにリリアーナに視線を戻す。
報告を受けたセリーナの性格を思えば、ディートリヒに近付くのは、容易に想像出来た。
だが――
汚らわしい……リリアーナに、あのような顔をさせるとは――
「安心しろ」
声は低く、静かだがその瞳は優しさに満ちている。
リリアーナは胸元の石を握りしめる。
光は穏やかに輝き、彼女の覚悟を静かに映す。
ディートリヒは静かに手を取り、視線をリリアーナに向ける。
「……俺は、君を守る」
言葉は短く、揺るがぬ誓い。
冷静な強さの中に、わずかな温かさが宿る。
リリアーナの手をそっと握り、名残惜しさを含ませるように一瞬だけ握ってから、静かに離す。
その静かな間に、二人の意思は確かに通じ合っていた。
リリアーナが屋敷に入ったのを見届け、馬車へ戻る。
馬車が静かに走りだす。
ディートリヒの側に黒い影がそっと降り立つ。
「あの屋敷の者は、古くから使えてる者以外は信用ならん…リリアーナを守れ」
「はっ!」
男は闇へと消える。
誰にも気づかれぬよう、邸内の見張りと連絡を整える。
リリアーナには見えない、しかし確実な守りの影がそこにある。
ヴァネッサはリリアーナの胸元のネックレスに目を留めていた。
機会をうかがい、巧みにすり替える準備を整えている。
ヴァネッサの手には偽物の淡く光る石が握られていた。
リリアーナは胸元の石を握りしめ、深く息を吐いた。
その光は穏やかに輝き、彼女の覚悟と、迫りくる危険を静かに映し出す。
守る者の存在と、迫る脅威――
二つの重さが混ざり合い、未来の確かさを予感させる夜だった。




