閑話:タカアキラコバヤシ
俺が転移してきたのは今から十年前。
初めての場所は森の中だった。気付くと知らない森の中にいて、角の生えた兎が俺に向かってきているところだった。それを救ってくれたのがリリーだった。
森の中で修練をしていたら突如森の中に光が降りこみ俺が現れたそうだ。そうして助けられた俺はすぐさま彼女に恋をした。
日本での俺はただの高校生で、戦いなんてしたこともなくて、知識無双しようにも転生者や転移者がほかにもいると聞いて愕然としたもんだった。ラノベの読みすぎだ。
それでも彼女と少しでも一緒になりたかった俺は冒険者を目指した。
テンプレ?したさ。
「ステータス」
青い画面が目の前に現れた。俺の職業は剣士だそうだ。幼少期に剣道を無理矢理習わされた成果はあったかもしれない。アイテムボックスも使えた。広さは日本での俺の部屋くらいだから八畳分くらい。
剣道と西洋刀との相性はまああまりよくなく、曲刀を使うことにした。
よかったことは最初に助けたのがリリーだったからということでしばらく伯爵家にお世話になれたことだった。
彼女は武家で有名なエバンス伯爵家の三女だそうで、修練として森などに出ているらしい。
俺が生きていくには冒険者になるか一代限りの準男爵になるしかないらしく、冒険者を目指すこととなった。そしてリリーも修練のついでだと言って付き合ってくれるようになった。
魔法を使ってみたかったがスキルがないと魔法行使もできない世界だと知って愕然とした。俺の夢よ。
最初の五年は冒険者として活動した。リリーも同じく冒険者登録をしてくれて一緒のパーティで旅をしたこともあった。
その中でどうしようもできないこともあった。
人の死だ。
人の死だけは慣れなかった。
苦しむ村の少女にポーションを与えたりした。その次の日に亡くなった。
俺の原点はそこだったかもしれない。
リリーは「優しいことは良いことですが、自分を大事にすることがこの世界での生き方です」と言っていた。そんなリリーも表情はわかりにくいがどこか悲しそうな顔をしているように感じた。
だから俺は苦しむ人々を助けるために活動したいと考えるようになった。冒険を続けてダンジョン製の神薬さえあればなんでも治せるのだそうだ。
もしくは聖皇国で修行すれば神官職であれば治せる数が増やせるのだとか。でも俺には剣士スキルしかなかった。そうして冒険を続けるのに問題が発生した。
リリーは貴族だ。結婚適齢期というものがある。彼女はお見合いをすることになってしまったのだ。
貴族のパーティを家で開催し、適齢の男性貴族を呼び相性を図るのだ。三女となれば他家へ嫁ぎ家の為に顔つなぎをするのが貴族なのだそうだ。リリーの意思はどうなる。俺は許せなかった。
だから会場でリリーの前で跪いてこういった。
「私のそばにいてほしい」
リリーはいつもの無感情の表情のまま俺の手を取ってくれた。「あなたがよければ」と。
そうして俺は準男爵になることを決めた。エバンス家は転移者との繋がりを持ちたいと考えてくれる家だったのもあって許された。しかし爵位の差の問題がある。
せめて子爵は欲しいとお父上から言われた。それまでは婚姻はならぬと。
そういわれてからさらに五年が経っていた。いつまでも彼女を待たせるわけにはいかない。いつもそばにいる彼女、これからもそばにいてほしいと考えている。
そのためには今の研究の成果を出さなければならなかった。人の死に際の緩和ケアのための薬を。
俺はその手前まで来ていた。薬草ではうまくいかなかったが、毒草を抽出した成分には弛緩効果があった。病院で苦しむ患者に試してみたが苦しみが少し緩和されたと言っていた。
ダンジョン産の毒草はもっと効果が強かった。欲しかった強さの成分が抽出出来たのはいいが問題は生産量だった。毒草の数は多くはない。多くの毒草を手に入れるとしたら自前で準備するしかない。俺は焦っていた。
リリーは変わらずそばにいてくれるが、彼女をこれ以上待たせるわけにはいかない。
冒険者に護衛を頼み久しぶりにダンジョンへ潜った。戦うリリーは美しかった。
採集した土から何か発見出来れば次に繋がるはずだ。と意気揚々としていたが地上へとでた土は少しずつ普通の土くれへとなっていった。一体何が違うのか。冒険者と交えて話した結果魔素が足りないのではないかとのことだった。ならばあとは答えもでたも同然だった。魔石を砕き捲き入れればいいのだ。まずは鉢入れから試したがそうして育つ毒草はダンジョン産のものと変わらないように見えた。
研究成果を皇帝へ献上しさらに毒草から抽出した成分が緩和ケアに使えるとなれば子爵は狙えるだろう。目指す目標は目前まで来ていた。
そんな折に屋敷に使者が訪れた。
聖皇国からの使者だった。武官にしか見えない彼はこう言った。
「あなた方が試されていることは聖女様が禁忌とされていることです。」
「ただちにやめていただきたい。」
紅茶を持つ手が震えた。
「や、めるとは?」
「禁忌に手を出されたあなた方を聖女はお許しになられません。」
「しかしこの研究は人を救う!」
「禁忌です。本日はこれで帰らせていただきます。」
何も言わせず武官は帰っていった。冷めていた紅茶を飲む。
隣でリリーが新しい紅茶を入れ始めてくれている。俺は手を握った。
「これからどうすればいいんだ」
「聖皇国が禁忌と定めてるのであれば何も。」
やんわりと手を離された。彼女はすこし俯いているようだ。
「俺は研究をやめるつもりはない」
「それはいけません」
「もうここに来て十年になる。」
「それ以上はお辞めください」
「君を待たせて五年になる。だから今やめるわけにはいかないんだ」
「タカアキラ様、もうどうにもならないのです。」
リリーの手を両手で握る。
「リリー、君のそばにいたいんだ。そのためにはこの研究が必要だ。これ以上俺には何もない!」
「タカアキラ様・・・・・・」
「皇帝へ奏上する。」
「・・・・・・」
「うまくいけば俺は君とそばにいられる。それだけだ。好きなんだ」
「私もお慕いしております。ですが貴族でもあるのです。」
「わかっている。あと少しだ。待っていてほしい」




