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 翌日早朝からきた手紙には貴族から呼び出しの内容が書かれていた。

 馬車が宿の前で待っており、急いでいつもの装備を身に着けてから向かうこととなった。


「急な呼び出しで申し訳ない。研究用に採集した土が普通の土と変わらないということがわかってしまったのだ」


「というのはどういう意味でしょうか・・・・・・・?」


「私にもわからない。だから君たちに意見を聞きたくて呼んだのだ」


 テーブルをはさんで会話をしている上に瓶が置いてある。先日護衛依頼中に採集した瓶と同じものだった。ダンジョン内の魔素が抜けきり普通の土くれになってしまったものだった。


「イシュドラは魔法士だろう。何かわかることはないか?」


 聞かれると思っていたがどうこたえるか悩む。ガロンの左手が少し力が入ったのがわかる。


「私にわかることは何も、ただダンジョンとは特殊な環境下で生態系が維持されています。何か重要な要素が抜けてしまったなどとは考えられないでしょうか。たとえばダンジョン外では維持できないとか」


「なるほど、やはりそうなってしまうか。

 私は考えていたのだ。ダンジョン内は魔力のようなもので維持されているのではないのかと。それにより恩恵を賜っていたわけだが、ダンジョンの外に出ると死んでしまう。

 君の考えに近いものを私も考えていた。これに何か対応策はないのだろうか、イシュドラよ」


「魔力に近いものが抜けてしまっているなら魔力を補充してあげるなどはどうでしょうか?

 すみません、私にはこれ以上思いつかないです」


 魔力の補充か、と頭をかきむしり悩んでいる。


「魔力といえば魔石ではないでしょうか。」


 リリーが言う。


「たしかにそうだ!魔石を砕いて土に混ぜればいいのだろうか。」


「魔石の取り扱いにはどうぞご注意ください」


 ガロンが言う。彼が言うのは魔石症のことだ。魔石を粉砕した際に出る粉を吸い込んでしまうと体に石ができてしまうのだ。


「もちろん魔石症などには重々注意しよう。ガロンよ他に何か思い当たるものはないだろうか?」


 リリーが新しい紅茶を入れてくれる。香りが高くおいしい。


 その後当たり障りのない会話をしてから私たちはその場を辞した。もちろん報酬の酒は何本かいただいてきたが。あのユリの装飾がされた貴族しか飲めないワインには触れさせてもらえず残念だった。


 帰りも馬車だった。


「イシュドラ、俺のスキルが反応している。」


「ガロンのそのセリフも久しぶりですね。」


 小声で会話を続ける。


「冗談ではない。宿で詳しく聞かせてくれ。」


「わかりました。」


 宿についたのは昼過ぎのことだった。昼食は宿では出ないため何か買い出しに出る必要があったがガロンは真剣な表情でそんな余裕はないようだった。


 部屋につくとまずガロンは湯を沸かし始めた。茶を入れてくれようとしてるのだろう。彼と行動を共にする上でまずは一服茶を飲むところが気に入っている。

 茶を入れる一連の行動の中で自分の中の情報を整理したいのだろう。私は煙草に火をつけ椅子に座って待つ。軽くつまめる菓子だけでも出しておく。


「俺のスキルが反応している。そんな会話だった。君は何かを知ってる。そうだな?」


 彼が入れたのは先日朝市で買ってきた紅茶だ。蒸らしてる間に聞いてくる。私は煙を吐きつつ彼の言葉を待つ。


「俺は聞くべきなのかどうか教えてほしい。」


 煙草を消した。


「コバヤシ卿が今後育成法についてどこかに発表しようと考えているなどがあれば問題でしょうね。」


「帝国では貴族の報告義務が生じる。おそらく皇帝に報告するはずだ。」


「ならば消されます。」


 紅茶の温度は丁度いい。リリーが入れる紅茶よりも野性味があるガロンの茶のほうが好きだった。


「詳しく聞いてもいいだろうか」


「魔石を粉砕して捲き、植物を育てることが聖皇国で密やかに行われていることだからです。その製法に近づく人間は間違いなく消されるでしょう。」


「ならなぜ君は彼にヒントを与えたんだ」


 頭を抱えている。


「研究するからにはいずれたどり着くことだからです。私でも再現できます。」


「スキルが危険だと言っている。どういうことだ。知らなければならない」


 紅茶のカップを置いて私はいう。


命の水(アクアヴィッテ)というものがあったでしょう?」


「覚えている。麻薬効果のあるワインだ。」


「あれに含まれている成分の製法が魔石を利用しているんです。」


「つまり?」


「間違いなく聖皇国から使者が来ます。そして殺されるでしょうね。製法は極秘ですから」


「君は製法を知っているのか」


「知っています。何を原材料にしているのか。再現も可能です。

 そもそも師匠が聖皇国内にいたのはガロン、あなたと一緒です」


「どういうことだ」


「転生者が何かを製造し国内外に蔓延させている謎の薬物について研究するためです。

 そしてその製造をやめさせるため。

 だから師匠は追われているんです。」


「この帝国内でも製造は可能なのか」


「まだ原材料を見ていないのでなんとも言えないですが、モノさえあれば再現は可能です。

 ですが再現するためにはまだあと一つ重要な物質が必要になります。」


「だめだ、これ以上は聞けない。頭痛がしてきた。」


「これ以上については聞かない方がいいでしょうね。私はたまたま材料が手に入ったので再現ができましたが二度と作ろうとは思いません。」


 煙草に火をつける。彼にも鎮静が必要だろう。


「彼らを助ける道はないのか?」


 絞り出すようにガロンは言う。一緒にダンジョンに潜ったからか、人の生き死にに関わりたくないからか、そのどちらかが彼を優しくさせてる。


「私たちができることは何も。ここからは国対国、もしくは貴族としての戦いになると思われます。」




 聖皇国からの使者として馬車が街を走るようになるまで時間はかからなかった。

 銀の幕を掲げた馬車が通りを走るのを見守るしかなかった。

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