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馬車で移動した先は邸宅だった。
初めて豪奢な馬車に乗ったが揺れも少なくなにより座席がゆったりしていて良い。これだけでこの男の身分というものがわかるというものだ。
私たちは今日ダンジョンに潜らないということであったがいつも通りの恰好をしていた。貴族向けの服など持っておらず居心地が少し悪い。冒険者によっては貴族との接触も増えるため作法であったり服装であったりを整えたりするのだとか。馬車の中では気にしなくていいとのことだった。私的な会合であるからこそだそうだ。
広い庭に三階建ての邸宅、庭の手入れもきちんとされていて除雪もきれいにされていた。
私たちから先に降り、護衛のリリー、そしてコバヤシが降り立った。
玄関から二階へ上がり暖炉で温かい部屋へ通された。談話室のようだ。壁にある棚には酒瓶などが丁寧に陳列されている。暖炉前のソファを勧められ席に着く。いったい何の話が待っているのだろうか。
「ガロンとイシュドラと言ったね。酒はやるかい?かるくワインでもどうだろうか。」
「よろこんで」
「イシュドラ・・・・・・」
「若いようだがイシュドラ君のほうが飲むのかな?」
笑いながら手ずからワインを注いでいく。芳醇な香りがしていい。
「どうぞ」
勧められるままに飲むと舌の上でまろやかに転がる。いい赤だった。鼻から抜ける香りがたまらなくよかった。
「おいしいです」
「それはよかった」
リリーと呼ばれた護衛は席についているが飲まないようだった。
「今回君たちを呼んだのはいくつか理由がある。まず私だが見ての通り転移者だ。帝国では冒険者を選ぶか爵位をとるか選べるのだが、冒険者を引退してから準男爵の爵位を賜っている。
彼女はリリーと呼んでいるがリリーフラメル・エバンスという名のれっきとした貴族だ。エバンス伯爵位の三女だが私の護衛として共にしている。
話に戻ろう、君たちに頼みたいのはダンジョン内の調査に同行してほしいんだ。
私は魔法生物、主に植物について研究をしていてね。あともう少しで何かが掴めそうなんだ。」
そう一息で言うとワインで喉を潤す。
「ガロン君は最近まで聖皇国に行っていたね。ならわかると思うんだがあの国には秘蔵のワインがある。
そしてそれを欲している貴族は少なくない。」
「といいますと?」
「ポーションや神官スキルでは簡単に治せない病があるからだ。苦しみからの解放とでもいうのだろうか。その苦しみの緩和させるための薬を帝国内で作りたいと思っている。
実際、君の以前の同行者が持ち帰りに失敗したようだが私が調合した薬で今も緩和ケアを行っている。」
どこまで調べているのか。
「つまり麻薬を作りたいとおっしゃるのですか?」
ガロンは努めて静かに問う。
「毒にも薬にもなることは承知だ。だが簡単に手に入らなければ蔓延はしないだろう。」
テーブルに置かれた羊皮紙の束を示す。
「私が研究した内容の一部がここにある。魔法植物の可能性について。実際に今私が調合しているものは毒草から抽出して作り出したものだ。」
私は羊皮紙の一枚一枚をじっくりとみる。確かによく研究されている。毒性と毒性を掛け合わせることで毒性を弱め弛緩剤に近いものを作り出したようだ。
「コバヤシ卿が望む本当のものは何なのですか?」
私は聞いてみた。確かめなければならないと思ったからだ。
「本当の物、か。聖皇国で独占されているモノをどうにか再現したい。
そうだな、あとは準男爵というのは一代限りの爵位なのだが、この成果をもってして皇帝からさらなる爵位を賜りたいと考えている。そうでなければ準男爵などに仕えているリリーに悪いのでね。」
「ダンジョン内の探索には何の意味が?」
「ダンジョン産の植物は質が良い。再現できないか、持ち帰り研究をしたいと考えている。」
まだガロンは納得がいっていない。あの国のワインにすら嫌悪感を持っていた男だ。
「だが結局生み出すのは麻薬ではないのですか?それならすでに帝国内でも暗い場所に行けば手に入るでしょう」
コバヤシが前のめりになり真剣な表情をして言う。
「私が作りたいものは依存性がないものだ。元の世界でも緩和ケアと言って苦しまずに最期を迎えられる薬があった。それは麻薬と同じものであったが使う者によって厳重に管理され、使う人にとっては助けとなる。私はそういったものを目指している。
間違っても麻薬王になろうなどと考えてはいない。ただ、この世界でも治すことのできない病気に対して私に出来ることを探したいのだ」
「うーむ。イシュドラどう思う」
腕を組みながらガロンがいう。悩んでいるのだ。
「悪くないと思うから私に聞いているんでしょう。」
「ではこの話に乗ってくれるか!」
「研究のためというならば付き添うことはできます。」
「よかった。君たちに頼んで。」
余程安心したのかワインをさらに注いでくれた。貴族が一冒険者に対してする行為ではない。おいしいからいいけど。
「報酬はどうしようか、適正価格よりも多く支払っても構わない」
私は手を挙げる。
「おいしいお酒がいいです。ここにはなかなか手に入れられないお酒がありそうなので。」
「はっはっは、そんなものでよければいくらでも。リリー、見せてやってくれ」
「かしこまりました」
立ち上がりリリーの後をついていく。棚に置いてあるだけでもなかなかの数だ。
一目惹かれたボトルがあった。
「このユリの装飾のされたワインは?」
「これは貴族だけが持つことをゆるされる貴族ワインと呼ばれるものです。これだけはお渡しすることはできません。」
しょうがない。他の酒を見て回った。




