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その従魔おかしくないですか?~ダンジョンボス(元人間)ですが、主人の平穏な生活目指して頑張ります~  作者: 東風 晶子
第2章

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53.★『王の間』の異変

(※他視点/ジーク)


『赤狼の牙』の全滅後、しばらくは『泥木の王』は不在だった。

泥木(でいぼく)の王』は『王の間』から動かないボスだ。ならばその不在は、討伐されたという証に他ならない。

 だが、肝心の討伐者が現れなかった。間違いなく高値がつくだろうボスの素材も出回らず、討伐したのだと吹聴する冒険者も現れない。

 どんな事情があれば、ボスの討伐を秘匿するのか。

 酒の肴に様々な憶測や噂が囁かれたが、どれも真相に迫るものはなく、不在のまま一年ほど経過した頃。

『王の間』に再び『泥木の王』の姿が確認された。

 どこからか「これまでよりも小さい」と情報が出たことで、冒険者の多くは確信する。前の『泥木の王』は討伐されており、新たな『泥木の王』が生まれたのだと。

 そうとなれば千載一遇の機会だと挑戦者が殺到。

 結果、すべて全滅して現在に至っている。


「あー泥木の王……」

「代替わりしたからってそこまで弱くはならねぇんだけどなぁ」


 弱くなったように感じるのは、経験の差によるものだとギルドでも注意を促している。感じ方は人それぞれなので、あくまで「そういうこともある」という程度でしかない。

 けれど「発生直後のボスが弱い」という噂は冒険者に広く信じられている。そのため、討伐後すぐの頃から虎視眈々と機会を窺う冒険者は後を絶たないのだ。


「でも前のヤツ倒されたわけじゃないと思うんですけど」


 だって推定先代『泥木の王』は元気に蛙爆弾をばらまいていたし、随分と()()()()()も上達していた。


「ダンジョンにとっては同じなんだろうよ。出て行こうが、倒されようが、ダンジョンにいないことに変わりねぇ」


 エドガーにそう言われると、そんな気もする。そもそも従魔になっただけでダンジョンから出てしまえるあたりもおかしな話である。


「それに、今の泥木の王はちょっと妙らしいからな……」

「妙?」

「小せぇって噂は知ってるか?」

「あーはい、あんま興味ない俺でも聞いたことありますね」

「最初に確認したヤツはな、”服を着てた”って言ってたんだよ」

「……は、はぁ?」


 服を着る? モンスターが? それもボスモンスターが、一体何の服を着るというのか。ありえないことに一瞬脳が理解を拒絶した。


「な? そうなるだろ。だからこの情報は公開してねぇ。実際、戦闘に入ったらこれまでと同じ形態になったらしいし、戦闘パターンも特別変わりなかったみてぇだからな」

「いやでもそれ公開しなきゃなヤツでは!?」

「公開したからって何か変わるか? ギルドがやめろって警告したって聞きゃしねぇ連中だぞ。……ああ、まぁ抑止力にはなるかもな。”遺体の服を着てた”ってことがわかれば」

「え、遺体? 遺体って、」

「王の間で過去に死んだヤツだ」


 今回の泥木の王の情報は、たまたま好奇心で覗いただけの冒険者によるものだった。

 目の前で確認したわけではなく、更には標的になることを恐れてすぐに立ち去ったため、その信憑性は著しく低い。そのため、ギルドの職員が直接『王の間』の確認に向かう予定だった。

 だが、それよりも早く「泥木の王が代替わりした」という情報を手に入れたパーティーが突撃してしまった。慌ててギルド職員と護衛の冒険者たちで王の間に向かったが、時既に遅く、パーティーは全滅。

 その際に職員が確認した「泥木の王」はギルドの資料にある姿と違いなく、『王の間』に踏み込まない限り攻撃をしてこないという性質にも変化はなかった。ただ、以前と違ったのは。


「冒険者の遺体を、埋めた?」

「ああ、ヤツは遺体をすべて地面に飲み込んだ。装備品も何もかも、手当たり次第だ」


 ダンジョン内で死亡した場合、誰かが連れ帰らない限り遺体は基本的に放置だ。遺体の回収のためにギルドから人を派遣するなんてことはまずない。

 それでも遺体はいつの間にか消えている。自然に朽ちるにしては明らかに早すぎるが「ダンジョンだから」ということで誰もがなんとなく納得していた。

 考えてみればあり得なくはないのだ。ボスの挙動がそうならば、他の場所で(たお)れた冒険者たちもそうやってダンジョンの地面に飲み込まれているのかもしれなかった。


「それだけならまだいい。ヤツはその場で姿を変えたんだが、それがちょっとな」


 ギルドの記録にある、醜悪な巨体。それが縮み、形を変え、現れたのは通常の泥人形よりひとまわりほどちいさな姿。ちょうど成人男性のような、歪な人型だった。

 勿論、目をこらせば「人ではない」ことなど明白だ。両腕が長く、不安定に揺れる頭部には髪も目鼻もない。辛うじてひとならば目があるあたりがやや窪んでいる程度。

 だがそれは、ギルド職員が落ち着いて観察できる状況だったからこそわかるものだった。この暗さの中、疲弊、あるいは混乱した状況で遭遇すれば、人と誤認してもおかしくはない。

 なによりそれは鎧を纏っていたから。


「鎧って」

「その時全滅したリーダーが身に付けていたものと良く似ていたそうだ。まぁ、恐らくは同じモノだろうがな。現地調達しやがったっつーわけだ」


 ぞわ、とジークの肌が粟立った。

 殺した冒険者の装備を奪い、纏う。それ自体は、倫理観はともかくとして、おかしくはない。山賊や強盗の被害としてはよく聞く話である。ただそれを行うのがモンスター、それもボスモンスターというのは。


「なんのために……」

「さぁな。ダンジョンの考えることなんてわかるかよ。……普通に考えるなら”罠”ってことだろ」


『泥木の王』に鎧なんてものは不要だろう。その変幻自在の泥の体は、時に鎧を一撃で砕くほどの強度を誇る。ならば身を守るためではない。

 人に近い姿を取り、冒険者から奪った鎧を身につける。あたかも、自分もまた冒険者だと思わせるようなその行動。


「まさか、ギルドの人がそこにいたから……?」

「その可能性は高いと思ってる。元々泥人形っつーモンスターは”人に擬態する”のが戦略だ。誤認して近づいてきたヤツを捕食する……実際食ってるかどうかは知らんが、それが主な攻撃だな。そのボスである泥木の王が擬態できないってわけはねぇ。ただなあ……ここまで”今まで”と違うとどうしても、な」


 ジークも『泥木の王』に詳しいわけではない。

 それでも、100年以上も討伐されずにいただけあって、その姿形から攻撃パターンまで様々な記録がギルドに残っており、おおまかなところはジークも知っている。膨大な犠牲の上に積み重ねられたデータが、それより以前の『泥木の王』ともほぼ一致しているらしいことも、聞いていた。

 それがここにきて、急にパターンを外してきた。

 巨大な、木の根と泥で形成された醜悪な姿を隠し、油断を誘う姿を取る。『王の間』の外にいる人間を知覚しての行動だとしたら十分な脅威だ。『王の間』に踏み込みさえしなければ安全だと言われていたこれまでの認識が覆される。条件次第では『王の間』の外すらも攻撃範囲になるのではないか。

 脳裏に去来した懸念に顔を歪めるジークに、エドガーは容赦がない。


「もしかしたら攻撃パターンも今までと変わってるかもしれねぇな。その後の生存者がいねぇから証言も取れやしねぇが」

「うへぇ、こわ……」

「ま、そんな訳でダンジョンも調査対象だ。今代のボスはそんな調子だから、お前ら間違っても突っ込むなよ。Dランクなんて瞬殺だからな」


『泥木の王』はAランクモンスターである。

 町の中に現れれば軍や騎士団が動くレベルだが、ことダンジョン内ではC、ないしBランク以上の冒険者推奨となっている。

 それは、『泥木の王』が『王の間』から動かない個体だからこそ。100年以上前に『泥木の王』を討伐したのは、複数のCランクパーティーだったこともその理由だ。

 そのため、Cランクも推奨範囲に入っているが、Bランクパーティーでも全滅しているのが実態である。余所のダンジョンのAランクモンスターに比べると侮られがちな『泥木の王』だが、比較対象が強すぎるだけであって、普通に舐めてかかって良いモンスターではないのだ。


「それはそうとジーク」

「はい?」

「他の連中には話すなよ。ギルドの重要機密だからな」

「わかってますよ。そもそもボスなんて興味ねぇし、秒で忘れます」

「それもだが、他もな」

「ほか……、他?」


 疑問符を飛ばすジークに、エドガーは笑みを向ける。にやり、としか表現できない、あくどい笑みだ。


「うっかりポロリしてみろ、ペナルティだからな。最悪、降格処分になりたくなきゃ口を閉じとけよ」

「ちょ、待って!? どれです!? 緑角犬……は話さないわけにも、あっじゃあ銀鱗鳥!?」


 エドガーの愉快そうな笑い声が部屋に響いた。


ジークのターンおわり~

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