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その従魔おかしくないですか?~ダンジョンボス(元人間)ですが、主人の平穏な生活目指して頑張ります~  作者: 東風 晶子
第2章

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52.★アウムでの異変

(※他視点/ジーク)


「今回の報酬はこっちだな。ああ、ギルドで回収してきた分については後日渡す。山分けは好きなようにしろ」


 机に載せられた袋が明らかに重そうな音を立てるのに、ジークは引きつった笑みを零す。

 調査依頼の報酬として貰った分よりも明らかに多そうだった。銀鱗鳥の素材なんてほんとうに少しだったのに。


「わかりました……あの、あれって”異変”なんですかね」

「異変は異変だろうな。ただまぁ、今すぐどうこうってわけじゃねぇだろ。あいつは恐らく"はぐれ"だ」


 銀鱗鳥はその希少性からもわかるように、本来こんな浅い場所に現れる魔物ではない。その生態からしても、森の奥深くからででこないのが普通だ。

 ただ、群れから出ていく個体もいる。年老いたり病に罹ったりなど、事情がある個体が離れて暮らすことがあり、そのまま孤独に死ぬこともあるのだ。そうした"はぐれもの"の個体が、あの死骸の正体だという。


「鑑定した職員がいうには、素材の一部に病変があったそうだ。病死か、弱ったところを狩られたかだろうな。なんにせよ、回収に行った奴らの話も聞かなきゃ断言はできんが」

「じゃあ……一応問題ナシってことです?」

「とは言い切れん。森淵猪とおなじだ。ただの偶然かもしれないが、そうだとも断言できない。そもそも見つかった場所が場所だ。……調査隊の派遣は依頼してある」

「え、王都から?」

「いや、調査隊はアウムにいる。王都に戻らず、そのままこっちに来る可能性が高いな」


 アウムもまた、ダンジョンを抱えた町だ。隣町、というほど近い距離ではないが、王都よりはずっと近い。


「なんでまたアウムに? 珍しい魔物が出たとかですか?」


 ジークの問いに、エドガーは躊躇う素振りをみせた。

 それに色々察したジークが「やっぱりいいです」と言うより早く、エドガーが口を開く。


「まあいいか。お前だもんな。ここだけの話なんだがな? あっちのダンジョンでも異変が起きてるらしい」


 どういう意味の「いい」なのか気になるところだが、それよりも彼の言葉のほうが気になった。


「異変?」

「俺も詳しくは知らん。去年……いや一昨年くらいか、王都で会議があった時にあっちのギルマスがぼやいてたんだが、いよいよ本格的におかしいってんで去年あたりから調査隊が派遣されてんだよ」

「もしかして、暴走(スタンピード)みたいな……」

「いや、そこまで深刻じゃない。……まあ、普通に潜るぶんにはさほど問題ねぇらしい」


 その証拠に、入場制限の措置も取られていないそう。

 アウムのギルド自体も平常運転だし、アウムから流れてくる冒険者たちからも妙な噂を聞かない。ダンジョンが封鎖されるわけでもなく、人の口にのぼるような事故や事件があった様子もない。

 一昨年の会議以降それらしい噂もなければ、アウムからもその後の話がなかった。

 エドガーも「気に掛けるほどでもなかったか」と思っていたのだという。

 ところが、去年の末になってアウムが調査隊を依頼したという話を聞いた。どういうことかと事情を尋ねても、アウムからも曖昧な回答しか得られない。どうやら、アウムでもまだあまり把握できていないようだった。

 唯一聞き出せたのは、「新たなボスモンスターが生まれた可能性」があるということ。


「新たなボスって……前のボスが倒されたからってわけじゃないんですか?」


 ダンジョンのボスモンスターは、倒されても再び「同じモノ」が生み出される。まるで判を押したように、姿も能力も殆ど変わらない強力な個体だ。

 例外として、発生して日が浅い段階では比較的「倒しやすい」らしいのだが、そのあたりはジークにもわからない。


「いや、ボスはどれも健在だ。前回倒されたやつも、数日したら同じような個体が確認されたという話だった。目撃者は”見たことのないタイプ”だと証言したようだが……問題は見た目云々よりも、こいつが徘徊型ってとこでな」

「げっ、面倒すぎる」

「心構えもなくボスと戦闘なんて悪夢でしかないだろ。まあこっちも下層に行きゃあ、徘徊してるモンスターも悪夢みてぇな強さにはなるが……」

マリード(うち)にも徘徊型ボスが……?」

「徘徊型のボスはいねぇな。確認されてるヤツはどいつも()()持ちだ」


 へぇ、とジークは薄い相槌を返す。徘徊型でないならまあいいかと思った。

 ジークはボスに興味がない。万一のことを考えて最低限の情報だけは仕入れるが、それだけだ。挑戦する気もなければ、討伐して名を上げようという気もない。

 ボス討伐にまつわる諸々が魅力的なのは理解している。ギルドに名前が残るのは名誉なことだし、冒険者として箔もつく。当然ながら冒険者ランクもあがり、必然的に収入も増える。何より、ボスの残す素材は誇張でなく値千金の価値があるのだ。一夜にして家どころか一等地に屋敷を持てるレベルと言えばその額はお察しだろう。

 だが、そのために命を賭ける気にはならなかった。自分の力の限界はある程度はわかっている。それが、ボスの首に届くようなものでないことも。


「ま、そんなわけで、その事実確認も含めて調査に入ってるらしい。そのついでにこっちにも足を伸ばして貰えりゃちょうどいいってわけで依頼済みだ。1週間……2週間後くらいに到着するだろ」


 あちらの調査もまだ終わってはいないそうなので、正確な日程は予測不可能らしい。


「てことは護衛系の依頼が増えますかね?」


 調査隊はあくまで「調査」の専門員だ。魔物と戦うのは本分ではないので、多くは現地で護衛の冒険者を雇う。彼らは国から派遣されてくるため、一般的なそれとくらべて報酬が良く、且つ調査隊の規模や期間によっては複数の依頼が出されることも少なくない。


「さぁな、アウムにいる連中が全員で移動してくるとは思えねぇし、そう大所帯にはならんと思うが……森とダンジョンだからなぁ……」

「森だけじゃないんですか?」


 森淵猪が現れたのも銀鱗鳥の死体があったのも、レガンテの森の中。そもそもギルドからの調査依頼は、森の異変を探るためのものではなかったか。

 そう首を傾げるジークに、エドガーは頷く。


「優先は森だ。Cランクの魔物にほいほい出てこられちゃたまったもんじゃねぇからな。だがダンジョンも”問題ナシ”ってわけじゃねぇだろ?」

「えっ、俺ら普通に入ってますけど……なんかあったんスか」

「お前が一番知ってるだろうが」


 呆れたように返されて、ジークは目を瞬かせる。


「知って……? え? なんもおかしなことは……」

「ルーチェ」


 放り投げられた答えにはっとする。

 言われてみれば確かに、一番よく知るわかりやすい"異変"だ。泥人形だ、モンスターだとあれほど自分で言っておきながら、いつの間にかルーチェを異変から除外していた。

 それもこれもあまりにもあいつが()()()()()からだと、ここにいないルーチェに八つ当たりをする。

 実際、その正体を知らなければ、ルーチェはなんらおかしなことはしていない。

 剣で戦うのも冒険者と談笑するのも、働くことだって普通のことだ。ただそれをしているのがモンスターだというだけで。

 握手をしたとアンディから聞いた時には、背中に嫌な汗を掻いた。なんて命知らずな。アンディは知らないのだから仕方ないのだが。


「あー……あいつはまあ……もうダンジョンからでちゃってますし……」


 無関係でいいんじゃないですか、とジークはぼそぼそと反論する。

 異変は異変だが、だからといってルーチェを調査対象にされるのはどうかと思ったのだ。


「おいおい、勘違いするな。アイツを調査員に引き合わせるわけねぇだろ。異変の塊だぞ。なんのためにアイツに設定を作らせたと思ってんだ」

「え? でも」

「調べるのはあくまでダンジョンだ。アイツっつー例があるからな、二度目がないとも限らん。その可能性を潰すために調べさせる。ま、森の調査のついでだな。事故があったから念のためってことで頼んである」


 エドガーの言う事故とは、ボスに挑戦して落命した件だ。2年前に『赤狼の牙』が、その後もいくつかのパーティーが挑戦し、全滅の憂き目に遭っている。


 そう、『泥木(でいぼく)の王』は『王の間』にいる。


あともう一話、ジーク視点がつづきます。

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