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その従魔おかしくないですか?~ダンジョンボス(元人間)ですが、主人の平穏な生活目指して頑張ります~  作者: 東風 晶子
第2章

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51.★異変の報告

(※他視点/ジーク)


 冒険者ギルドの2階。

 依頼達成の報告と、素材の買い取りを依頼したジークは、当然のようにギルドマスターからの呼び出しを受けていた。

 一般的な冒険者ならば滅多にない呼び出し(こと)だが、ジークにとっては最早慣れたモノ。呼び出された理由にも見当がついているので、あまり緊張はしていない。

 むしろ自分よりも疲れた顔のエドガーに同情してしまったほどだ。自分たち、もとい自分が報告した内容によっては、彼にさらなる疲労が上乗せされるだろうことは予想ができたので。


「んで結局、13頭の緑角犬に、銀鱗鳥の素材か。ただの調査だっつってんのに、ほんとお前ら()()()んなぁ……」


 求められて先日の件の詳細を語ると、エドガーは呆れたようにため息をついた。

 ジークは思わず顔を顰める。正直、ため息をつきたいのはこちらも同じだ。


「それ、俺らじゃなくてアンディたちですって。俺らは巻き込まれたようなモンで……ていうか、毎回俺ら巻き込まれてるだけじゃないですか? 俺らからやらかしたことないっすよ」


 よくエドガーから「持ってる」と評されることの多いジークたちだが、褒められていないことはわかっている。

 振り返れば確かに、ちょくちょく軽微なトラブルに見舞われてはいる。たまたま魔物の群れに巻き込まれたり、よくわからない遺物を発見したり、ダンジョンで子どもを拾ったり、ついでにダンジョンモンスターを連れて帰ったり……他にもいろいろと。

 だが、どれもジークや彼の仲間たちが率先して何かをしてしまったわけではない。ジークに英雄願望はないし、仲間たちも安全第一の慎重派。どちらかといえば堅実なパーティーだと自負している。

 今回だって、ジークの実績に「”異変”の発見」が加わってしまったが、不可抗力以外のなにものでもない。

 そもそもの発見者は他の冒険者であり、ジークたちは強制的に巻き込まれただけ。

 だいたいの経緯は既に報告済みなのでエドガーもわかっているはずだ。


「まあな。だからある意味"持って"んだよ、お前ら。ああ、褒めてるぜ、これでも」

「嘘だぁ」


 目が嘘くさい。面倒事をみているときのそれだ、とジークが零すと、エドガーは「バレたか」と悪びれもせずに笑った。


「それで? 群れだったんだろ。実際のところ何頭くらいいたんだ」

「ええと、逃げたのも結構いたんで……20頭はたぶん越えてたんじゃないかと」


 2人組の冒険者が、あのあたりを住処(すみか)にしている犬――緑角犬に追われ、ジークの前に現れたのは、まだ目的地につく前だった。

 その時点で逃走することも脳裏に過ぎったが、結局助けることになったのは理由がある。

 冒険者のひとりが、アンディだったからだ。

 アンディは同じDランク冒険者で、比較的()()()()である。友人と呼べるほど親しくはないが、困っていたら手助けしてやろうと思える程度には親交があった。現れたのが彼でなかったら、ジークは見捨てただろう。

 時として、群れる動物は魔物よりも厄介なもの。何より、こちらにはノアという幼い子どももいる。


 アンディを助けると決めた時、真っ先に浮かんだ懸念事項がそれだった。

 もちろん、ノアを侮るつもりはない。年齢の割にしっかりしていることも、なったばかりとはいえジークたちと同じDランクの冒険者だということもわかっている。

 だが、ノアがまだ7歳の子どもだということも事実。大人であるジークとしては、例え強かろうとも子どもを守らないという選択肢はない。

 野犬とはいえ、10頭くらいならばどうにかなる。こちらには魔術を使えるエレンと、投擲の得意なアリシアがいる。アンディたちも頭数に入れれば、苦戦はしても撃退できない数ではない。

 ノアにはエレンの側にいてもらい、危なくなったら二人を先に逃がせばいい。

 そう算段を付けた時には、ジークの頭にルーチェの存在は抜け落ちていた。ルーチェは頼りにすべきではないと無意識に判断していたのかもしれない。


 けれど、戦い始めてすぐ間違いに気付いた。

 暗がりから現れる新手はどう見積もっても10頭は超えている。

 犬を追い返すのではなく、隙をみてこちらが撤退すべきだと判断する。だが合図や声をかけようにも、襲撃は止むことがなく、息を吐く間もない。

 焦りが募り始めた頃、突然、犬の動きが変わった。ジークに纏わり付く犬の数が明らかに減っている。こちらに牙を剥きながらも、他のところを気にする素振りも窺えた。

 少しだけ取り戻した余裕で周囲に視線を走らせる。

 そうして見いだしたのは、犬を撃退する不審者、もとい仮面姿のルーチェだった。

 泥人形の力ならば簡単に潰せるだろう犬を、わざわざ剣を使って退けている。その体さばきも力加減も、実に人らしい。

 証拠に、切りつけられた犬は傷を負いながらもそこそこ生きている。

 例えルーチェの剣がなまくらでも、その気になれば力技で首くらい切り飛ばせるはずだ。けれどそれはあからさまに常識を越えた力である。少なくともDランクになったばかりの冒険者が見せていいものではない。そうと理解して、ルーチェは手加減をしているのだ。

 今この時ばかりでみれば、ルーチェは確かに「普通の冒険者」だった。

 そうやって幾らか勢いを削いだ犬を、アンディと彼の仲間が必死な顔で倒している。ルーチェは彼らに過剰な数が群がらないよう、それとなく調整しているようだった。

 その余裕はDランク冒険者っぽくないな、とつい見ていると、ルーチェの仮面越しの視線がこちらを向いたのがわかった。

 首を傾げられる。助けはいるかと問われたような気がして、首を振った。

 だから余裕ありすぎだろう。

 それから幾ばくもしないうちに、生き残った犬たちは撤退していった。


「時間なかったんで死体は放置してきたんですが……」

「ああ、さっき人をやった」


 死体をそのままにしていると更に新手の動物なり魔物なりが来てしまう。素材として必要ない場合はその場で埋めるなり焼くなりするのが暗黙の了解なのだが、さすがに魔術で燃やすには無理があった。

 何しろ、あの場で魔術を使えるのはエレンとノアだけ。

 他の冒険者の目がある手前、ノアに魔術を使わせるのは得策ではないし、エレンに頼むには多すぎる。

 アンディたちの目がなければルーチェの手も借りられたのだが。

 一応「討伐依頼」として常設されている野犬なので、証拠となる部位を切り取り、申し訳程度に土や草をかぶせておいた。日を改めて処分しにくるつもりで目印もつけてある。


「処分のついでに銀鱗鳥の残りを回収してくるだろ」


 銀鱗鳥とは、その名の通り銀色の羽を持つ鳥型の魔物だ。

 森の奥に棲息し群れで生活する。雑食性で肉も食べるが、基本的に大人しく行動範囲も限定的。ギルドで定められたランクは、森淵猪と同じC。

 同じCランクとはいえ、森淵猪などよりはよっぽど危険度も低く、そもそも出会うことさえ稀な魔物だ。

 ジークも知識として知っているだけで、実際に目にしたのは今回が初めてである。

 とはいえ、第一印象は「草臥(くたび)れた雑巾」だったわけだが。

 発見場所が薄暗い森の中だったこと、対象となる銀鱗鳥がすでに死んでいたことが主な要因だ。加えて、銀鱗鳥の死骸はところどころ食い荒らされ、有名な「銀色の羽」はすっかり茶色に薄汚れていた。

 この銀鱗鳥の死骸を発見したのは、アンディたちである。

 彼らもまた調査依頼を受けて、ジークたちとは別のポイントを目指して探索していたらしい。

 割り当てられた場所の確認を終え、帰る途中で夜行性の緑角犬を見かけたのだという。昼間に活動していることは珍しく、気になって後を追った結果、銀鱗鳥の死骸をみつけることとなった。

 彼らはその死骸の一部を持ち帰ろうとした。素材に目がくらんだというわけではない。この段階では、彼らもこれが何の死骸かわからなかった。ただ夜行性の緑角犬が活動していたという「異変」の証拠として、もしかしたらこの死骸に理由があるのかもしれないと考えた結果だった。

 だが当然ながら、獲物をとられることを許すような獣はいない。すぐさま見つかって、追いかけられる羽目になったというわけである。

 そうした経緯を聞いたジークは、彼らと共に死骸を確認に向かい、その一部を証拠として持ち帰ってきたのだ。勿論、ジークもまたこれが銀鱗鳥だとは思ってもいない。なので持ち帰ったのは羽や肉など、判断に必要なごく一部である。



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