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五八三七G3の酒の肴  作者: V4G3
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大人の水割りが流行らない


「じーさん、たまにフツーで美味しい水割りが飲みたいな」

「と言うと、スコッチだな。凝り過ぎないで美味しいやつとなると、うん、シーバスリーガル12年かな」

「あ、いいな、久しぶりだし。それでお願い」

「分かった。先に当てを出しとこう。キュウリ、アスパラ、ニンジン、セロリのスティックサラダ」

「これ、つけて食べるの?」

「そう。市販でも売ってるナッツのドレッシングなんだけどね。一つはケチャップ。一つはチーズ、一つは味ポン混ぜて、味を変えてあるから、楽しんで。はい、水割り」

「あぁ、ウィスキーってやっぱり美味しいねぇ。なんて言うか、子どもの頃に思ってた、大人のお酒の味だな」

「へぇ、おまえさん珍しいね。子どもの頃に、憧れの大人の味ってイメージがあったのか」

「ん、一応はあったような」

「俺たちの頃は、酒にしても煙草にしても、今の自分には手が届かない、大人になれば手に入るものって位置づけで、だから大人ぶりたくて高校の頃から手を出すヤツも多いし、大学生になれば、酒も煙草も年齢関係なく自分で勝手に解禁して、大人の自分を主張してたんだ。でも、今は『大人になることの憧れ』『早く大人になりたい』って気分は若い連中の中に無いだろう」

「そうだね。どうして変わったんだろう」

「昔は、大人になるってことは、自由になるって意味もあった。大人に色々と規制されているが、自分も大人になれば自由だって。だから20歳まで規制されていて成人すれOKの酒や煙草がお大人=自由の象徴にもなる。ところが現代のイメージじゃ、大人は不自由で子どもの方が自由だ。となりゃ、大人になることへの憧れは育たない」

「そりゃ、そうだね。僕も早く大人になりたいって気持ちは、特に無かったな」

「それに今は、自由って言葉もさほど魅力ではないんだろう。自由より快適とか安定とか、あるいは成長できるとか、そういうものが選ばれる」

「おっ、若者批判かな?」

「いいや、自己批判だな。今の若者が快適や安定を選ぶのは、それが切実で手に入りにくいもの、失われやすいものだからだろう。俺たちは、そういうものは、自由になったら、それぐらいは、何とかなると思ってた。実際はともかくそう思ってた。そう思えない社会を作ったのは儂らだから、反省をしてる」

「して下さい」

「だな。ま、だからこんなに、アイドルグループ・ブームなんてものも起こるわけさ。大人にならない、大人を、自立を目指さない。でも、頑張る。ファンはその頑張る姿を応援する。努力の結果の水準にはあまりこだわらない。それは、自分もそこで評価されたいからだろう。出来た結果ではなく、頑張ってる自分を評価して欲しい。それは子どもの視点だからね」

「あぁ、そう言われると、厳しいものがあるけど、まぁ社会は頑張ってるじゃ回らないしねぇ。でも、あのアイドル文化も女子グループも下火だし、ジャニーズの一件で限界なんじゃないか」

「そうだといいいな、と言う気もする。もっとも今まで活躍してきたジャニーズのタレントたちが特に嫌いなわけじゃないんだけどね」

「使いにくくなってますよね、ジャニーズの人」

「使うなって、ただ圧力かけるのはどうかしてる。被害者に対して、謝罪し賠償しあらゆる責任が被害者にはないことを社会に言わなきゃいけないのは、加害者が死んでる以上、ジャニーズ事務所だけだ。ジャニーズ事務所をひたすら追い込めば、事務所は廃業、解散する。犯罪者の姪だからといって、犯罪者の賠償を全て追う義務はない、世間が感情的道義的にどう思おうと。そもそもちゃんと責任負ったって世間が好意的になる期待は持てないんだしね。事務所が潰れれば、被害者への補償は行き詰るし、被害者は熱狂的なファンの恨みを一身に負う。しかも被害者は成功したタレントたちへの報復は基本、全く望んでいないのに。ここまで行けば社会問題だから、なんて今更の声もあるようだけど、性加害の問題で被害者の救済と被害者の人権保護に優先するものなんてあっちゃいけない」

「ま、それに気づいていたのに、知らないフリしてきた、と言われてるジャニーズのタレントも、噂では聞いてたけど見過ごしてた一般人と同列、誰が誰に石投げてんだ、レベルだとは僕も思う。それにイジメを見過ごすのはイジメに加担してるのと同じ、って言うけど、イジメを見過ごした人全員を退学処分にはしないもんね」

「もちろん、この事件が起きて、しかも長く隠蔽されたこと自体は、喜多川という男だけじゃなくて、ジャニーズ事務所とメディアに責任がある、というか問題があるよ」

「ま、事務所の問題は、僕でもすぐ分かる。要は創業者系の独裁体制の弊害でしょ」

「そう。今回は酷いことに性加害って形だったけど、モラハラパワハラ、搾取、公私混同なんてことなら、いろんな組織で起きてるありふれた問題だ。閉じたサークルは、悪意のある人が上に立つと自浄できない。だから解決方法も単純。経営を開く。外部の資本と取締役を入れて、社外取締役が選定して事務所が認めるような外部の相談窓口を設ける。で、定期的に体制を発表すれば、まぁ改善の方向には向かうだろうよ」

「もう一つは、メディアの沈黙って奴ですよね」

「こっちは簡単に片付かない。何しろ、それ自体は罪どころか芸能事務所としては真っ当な成功なんだが、ジャニーズは『男性アイドルグループ』という一つの文化と職業を作ってしまったからね。どんな芸能事務所だって、自社の所属アーティストを使って駆け引きはする。ウチのA君を使いたいなら、Bちゃんも別枠で、とか、Cを使わないならD君は無効1年は、お宅の歌番組は出ない、とか。それは事務所の権利だし、強いタレントを持っていれば、テレビ局や制作会社の忖度もあるだろう。ただ、ジャニーズのアイドルグループってのは、その桁が違った」

「そこまでの人気なのかな」

「人気もそうだが、今で言えば、ドラマ部門、バラエティ部門、情報番組、音楽番組、下手すりゃ報道にまで、ジャニーズのアイドルが噛んでる。一つのグループだけでも各分野の番組のメインどころに入ってる。そして先輩グループ、後輩グループの関係性が強く、大当たりは限られるとは言え、次のグループの人気もある程度保証できる状態で続いてくる。ジャニーズ事務所と敵対すれば、影響は絶大だ」

「何でジャニーズには、そんなことができたんだろう」

「それがアイドルってあり様の功罪だ。一流のミュージシャン、演技力のある俳優、爆笑を攫える芸人、当意即妙の司会者、幅広い見識のキャスター。そんな者を全部集めるのは難しい。だけどアイドルなら、各分野で一流ではなくても、その分野の番組のメインに投入できる。アイドルは到達した成果じゃなくて、頑張ってる姿で評価してもらえるからね。もちろん、一部の人はちゃんといい俳優とかに育つこともあるけど、それはアイドルだからこそ先行して与えられたポジションで成長できたってとこもある。ジャンルを極めることが必要じゃないアイドルは、ジャンルを横断しやすかった」

「つまり、アイドルのファンじゃない人は、一流じゃない人の芸能を見せられてたってことなのか」

「ま、作り手も番組全体を、そういうファンじゃなくてもアイドルの頑張りを応援しやすいような作りにしていったんだろうね。そうして、テレビ制作者はラクを覚えた。一定の数字を持ったタレントをどの分野でも宛がってくれる。評判がイマイチなら事務所内で差し替えてくれる。番組のキャスティングを丸投げできて、しかも仕上がりの精度が厳しく問われない。沼だね」

「それって堕落ってやつだ、典型的な」

「そう。何にしろ、今の騒動は既に不毛だよ。

喜多川某は死んでる。事務所は性加害を認め、補償は法と交渉によって始まる。ジャニーズ事務所自体は性加害を目的としたり利益としている犯罪機構じゃないから、再販再現の恐れはない。メディアも世論も今更、大声をあげているけど、ジャニーズ事務所を非難するニュースに既に社会への公益性はないんだ。後になって騒いでいるのは、復讐心に正義面で便乗したい大衆の娯楽だ。今、叩くことに意味があるとしたら、そういうテレビ制作が陥った沼と、そこに甘んじ切ったテレビメディアの腐敗だ。新聞はもともと、芸能関係は門外漢。スポーツ誌や雑誌には、そもそも報道への期待が無い。この状況を作った責任は100%テレビだよ。そして成熟と成果を求めない文化を嬉々として育てているのもね」

「はぁ」

「何だか各テレビも反省したようなことを言ってるけど、根っこに手を付ける気がないなら、また何かラクさせてくれるものに頼るだろうね。違うなら、そう、お笑いの吉本興業と歌舞伎の松竹との関係を整理して、テレビ自ら問題点をスクープして見せることだね。それができないなら、反省はウソさ」


新規連載「サブスクを止めるー闘病短歌」を始めます

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