偏ったじーさんの神様
今回は、ちょっと雰囲気がおかしいかもしれません。 抽象的で曖昧な、現実味の薄い話が展開します。これは筆者の私的な事情により、未消化なままの思いつきを、無理に文章化しているからです。筆者の心情としてには止むを得ないことでしたが、読み手には迷惑なこと。当エッセイを継続して読んで下さっている方、今回限りですので、気に入らなければスキップして頂き、連載自体はお付き合いを続けて頂ければ幸いです。
「じーさん。焼酎のロック。赤兎馬がいい」
「了解。ほい、焼酎ロックとお好きにレモン」
「サンキュ。クッ、カァー。あぁ」
「どうした、えらい勢いじゃないか」
「うん、ちょっと、仕事でモヤッとしてて」
「ヤケ酒はやめてくれよ」
「大丈夫。この一飲みで消毒したから」
「じゃ、これでさっぱり忘れろ、手羽元のさっぱり煮だ」
「あぁ、これなんだ。コマーシャルで見たことがあって、ギョッとしたけど」
「そんなに酸っぱくないし、匂いもきつく無いだろ。手羽元を生姜とニンニクを入れた油でさっと焼いて、水に酒と醤油と酢と砂糖を入れて、そのまま落し蓋で30分ぐらい煮るんだ。かなり酢は入るから、作る時の匂いはけっこうなんだけどね。食べてみるとさっぱりしたもんだ」
「あ、じゃ家で作ると匂いは来るんだ。やっぱ外で食べよ。じーさん、時々やってよ」
「ま、簡単だし、作って持ってくりゃ、冷めてていいから出すときには手間いらずだしな。
時々やってもいい」
「ありがたい。僕がモヤッと来てる時にさっぱり煮を出してくれるじーさんは、居酒屋の神様に違いない」
「拝むな、バチを当てるぞ」
「理不尽な」
「そりゃ、神様だからな。人の理では測れない」
「なるほど、って、じーさんは、何か宗教って信じてる?」
「いーや」
「やっぱ、無神論か」
「そうでもないぞ。まぁ、全知全能で人間ことを分かってくれて、救ったり罰したりする神様ってのは、いないと思ってるけど。だって、善悪だの愛憎だの損得だの、まして倫理なんて、人類史上でみりゃごく最近の人間しか持ってない価値観と、人間も超えて天地創造の起源からおわすって神様じゃ、スケールが合わないだろう」
「そうだよね」
「でも神様って言っていいのか、そういうものは居るんじゃないかなって、俺は思ってる。居るって感じじゃないか。大きな意志、巨大な志向性。それは、『有れ! そのために偏れ!』っていう力だと思う」
「偏れ?」
「うん。あのね、全ての熱ってのは平準化していくし、振動は止まるし、情報は乱雑化して無秩序になって、無意味化する。世界は基本、無のスープに帰っていく。でも、今、実際、世界はある。創造神ってのは世界を有る、にした力だと思うんだね。そして、無に戻っていく世界に、待て、有れ、在り続けろって。」
「何だかえらくスケールが大きな話に」
「そりゃ、神様の話だもの。で、『戻るな、有れ』を担ったものの一つが、生命。DNAで情報を保存して維持し、進化することで複雑化するのに乱雑化しない。情報の再生産、つまり子孫を作るから、個体は消えても、なかなか無にならない。そんな中から、更なる神様の秘密兵器として、人間が誕生する。こいつは、生命以外のものを作る。そして再生産する。人の作るものじたいは、どんな壮大な建築物であろうが無に帰するけど、人は文章やら設計図やらで情報化して、人がある限り再現を可能にしていく。今までの生物の『有る』ための武器は、遺伝子だけだった。例えば子育て巣作りの複雑な習慣も、遺伝子情報を通じて継承していく。人間は遺伝子以外の情報ツール、例えば言語を獲得して、それを使って自分でも、新たな情報を生産していく。これぞ、神の似姿、無から有」
「じーさん、ノリ過ぎ」
「いやいや、まだまだ。キリスト教の聖書のヨハネによる福音書は、『はじめにことばがあった。ことばは神とともにあった。ことばは神であった』で始まるんだ。言葉を志向性のある情報だって考えると、さっきまでの話とすごく響き合うだろう」
「うーん」
「言葉によって情報を生産できる人間は、物もコトも消えていくことに抵抗し、それどころか無の空間にまで、有を進出させる。例えば宇宙に。宇宙に進出するのは人間じゃなくてもいい。いや、生命でなくてもいい。Aiコンピューターは情報を創造し、再生産できる。膨大な無への回帰に逆らう小舟のように、宇宙空間をAIコンピューターと宇宙船が旅立っていく。素敵な光景じゃないか」
「えーと、変なSFマンガみたいになってるけど。ま、ちょっと格好いいかもしれないけど」
「だから、神様の意に沿いたいなら、ひたすら可能な限り、在ること。後は情報創造すること。複雑で多岐に渡る情報を、乱雑にも均等にもせず、物語のような形で編むこと、書くこと、語ること。歴史に残る名著でなくてもいい。そんなものは人間の尺度。情報を生み出し、情報を固定化する営み自体が、無に抵抗し、在るに繋がる」
「はぁ、左様でございますか。何かの新興宗教じゃないよね、念のため」
「もし、これが俺が生み出した新興宗教だとしても、心配は要らない。この考えの何処を叩いても、信者から金を搾り取れる要素が無いからね。偏屈なじーさんが、偏った考え方で、世界に偏れって、唱えてるだけだ。だって情報創造ってのは、無作為な情報の海から、己の偏りで情報を選んで、己の偏りのままに編集していくことだからね」




