ビールに似合うジャガイモと神宮の開発
「じーさん、ビールお願い、ナマ中」
「ん。暑くなったなぁ」
「ビールが売れるでしょ。もう、仕事が終わったら頭がビールになってたもんな」
「そうだね。ほい、ナマ中」
「んー、体中に染み渡るね」
「ほい、つまみ」
「何だろ、これ」
「ジャガイモの豚バラ巻。ジャガイモをスライサーで千切りにして、豚バラに塩胡椒して巻いて、フライパンで転がして焼き色が付いたら、醤油と砂糖と酒のタレを絡める。焼きたてでなくても旨いし、レンジでちょっと温めてもいい」
「ジャガイモとビールって相性がいいよね」
「だね。ま、ビールと相性のいい食い物は多いけどね」
「ビールって、何か、色々と似合う飲み物なんだよね。ほら、スポーツ観戦なんかもビールが似合うでしょ」
「あぁ、野球観戦にビールはつきものだね。でも、こないだ知り合いに券をもらって、東京ドームでビール飲みながら観戦したけど、昔、甲子園で飲んだ時ほどの気持ちよさは無かったな」
「何、それ、うらやましいんだけど」
「やっぱり青天井とか星空の方がビールに合うよなぁ。空調が効いてる中で飲むんじゃ、家と変わらないし。そう考えると神宮の券を貰わなきゃな」
「貰うんじゃなくて、自分で買いなさい。でも、神宮もそのうちドームになる計画があったんじゃないかな」
「あぁ、そうだったね。ま、じーさんの感傷とビールのためだけにドーム化を反対するつもりはないけど、神宮のあたりの開発計画は、どれもうさん臭くてね」
「木の伐採の話ですよね」
「それもあるが、高層ビル建築と商業モールの方が気になるかな。日本の建築は単体だと素敵なものも多いんだが、都市の街並みとなると、どれも無残だからね。あの、まだまともな景観のある地区まで、高層ビルと乱雑な商業施設の固まり、ネオンと屋外看板だらけの景観に変わるのかと思うとね」
「今まで、神宮には高いビル、無かったよね」
「ま、公園地区だし制限があったんだ。それを開発しやすいように取っ払っちゃったんだよ。そりゃ、民間の開発業者は、高さ制限があっちゃ手出ししてくれない。ただ、高さ制限を撤廃して作ったモノが、この場所に、東京に必要なものなのかってことだ。公共の為の規制を外すんだから、公共の利益にならなきゃいけない。球場や公園施設を最新に整備したいニーズと、それを民間の資金を導入したい思惑もあるんだろうが、だったら本当に規制や環境改変と天秤をかけられるものなのか、都民にも聞いてもらいたいね」
「ホント、それは思う。だいたい、高層ビルとか商業モールなんて、渋谷や新宿や池袋にいくらでもあるし、そこでスクラップ&ビルドした方が効率的だよ。第一、今でもデパートだのファッションビルだのは人が入んなくて大変なのに、また新しくそんな街作って、足りない客を取り合ってどうすんのよ」
「そうなんだ。官製の街づくりでは、遥か昔に、お台場有明地区を新たな副都心にするとかいう計画があってね。計画は素晴らしかったよ。でもその通りの賑わいも、機能の集積も作れなかった。今はそれなりに整ってきたけど、当初の夢と街がオープンしてからの落差って結構なものだった。国際展示場まで作って、コンベンションタウンとして世界に発信してって、勇ましかったんだけどね。もうその頃から、東京に人工的に新たな創造と賑わいの場を作るだけの力はなくなっていたんだ」
「東京に?」
「うん、どんどん人口も経済も伸びてる時は、その勢いを利用すれば、新しい都心みたいな場所も作ることは可能だろう。でも、今の東京の市場規模は既存の商業集積やオフィス集積で賄えてしまう。それなのに新しい入れ物を作っても、パイの奪い合いに疲弊するだけだし、ご立派なコンセプトも、現実的に入ってくれる店や企業がイメージ通りとは限らない。まぁ、そこらへんは予防線を張って、ダイバシティとか言っとくんだろうね。デザインできてないごちゃまぜの街を、ダイバシティの街づくりとは言わないんだけど」
「それでも開発することで、市場そのものを開拓して大きくするってこともあるだろうとは思うけど」
「人口は減ってるし、当分は減り続ける。新しい街に出歩いて物を購入する層や新しい事業を立ち上げる層は減り続ける。ついでに格差が拡大傾向にあるけど、これは人口減以上に購買者数が減るってこと。金額的には上がっても、購買者数が増えないなら、購買空間は新たには要らない。そして日本全体のグランドデザインの中で、東京への一極集中をこれ以上進めることは、得策じゃない」
「降参です。じーさんの言う通り、再開発を取り下げます」
「とは、言ってくれんのだろうな。この程度の文句の言い訳は用意しとるだろう。神宮では『こどもの城』の跡地利用も不安なんだ。そもそも、子供向けの施設としては本当によくできた施設だった『こどもの城』を、次世代に残してやれなかったことは、東京で子育てした俺としては、痛恨事だったよ」
「分かる。あそこは、面白かった。なんか、特別だった」
「で、潰すときには反対も多かったんんで、新たに『都民の城』として、今の機能も発展的に引き継ぐ、みたいな言い訳をしていたんだが、ここに来て、『コロナ禍で利用期間が制限されるので都民の城計画は撤回、周辺の都有地の開発と一体的に新たな開発を』ということになった。最初から、まっさら再開発の予定で、クッションとして仮設で『都民の城』を運営しておいて、一体開発に移行してしまう予定だったわけだ」
「詐欺っぽい手口」
「で、都有地の開発だから、計画段階では、また公共的な意見も盛り沢山なんだろう。で、お題目を並べて、開発業者に入札させて、コンセプトをなぞっただけのオフィス・商業集積が出来上がってきたら、本気でキレそうだ」
「パターンだね、もう」
「そのパターンを隠す気もなく、いけしゃあしゃあと突っ切ってくる最近の行政がホントに真夏の怪談より怖い」
「そんな納涼はごめんだな。ま、ここは今、話を聞きながら見つけた神宮開発反対の署名サイトに、ちょっと一票協力しておいて、三杯目のナマで涼をとらせてもらおう」
「はい、毎度」




