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「A」  作者: みんと*
60/64

第60章



冬の初めにしては。



「今年も、あったかいね。」



「そうですね。」



いつものように、車椅子を押して、屋上を、歩いて行く。



傍らにいつもの。黄色の点滴のパックを下げて。



中身はレボフロキサシン、感染症予防。もし今度万が一肺炎でも起こしてしまったら、今度こそ即命取りになってしまう。



それでも、・・・毎日の、朝の散歩は欠かさない。



ここでは何より、自分のしたい事やりたい事が、最優先される場所だから。



あらゆる苦痛から解放され、自由の望むように、残りの日々を心穏やかに、過ごす事が目的の場所だから・・・



「でも、今年の冬は寒いらしいよ。」



「あら、そうなの?」



他愛ない、会話が続く。



からからと、車を押す音がする。



「本当に、あったかいね。」



「ねぇ、そうですね。お天道さまのおかげね。」



秋とも冬とも言えない時期、その陽気は。



その季節にはそぐわない、あたたかな。春の陽の光のような、穏やかな空気に包まれていた。





「ねぇ、最近。あの子見ないね。」



「・・・。」



オタケさんは、感が鋭い。時々。どきりとするような事を言う。どうして。今日に限って・・・



「そうね。」その事を、何度も聞かれては困ると思い。



さらっと、受け流すように答えた。



「きのう、亡くなったみたい。」



「・・・・。あら、」



「・・・・。」



「そう。」



「そぅなのよ。」



「元気そうだったのにねぇ。」



「ね。」



「若いのにねぇ、気の毒に。」



「そうですね、いつも。ひとりでね。可哀想だったわよね。」



「え?ひとりじゃないじゃない。誰かと。しゃべってたよ、」



「・・・え?」



「なにか、楽しそうに、おしゃべりしてた。」



「・・・・。」











「ねぇ、幸田さん。亡くなったよね。」



ナースステーションに入るなり、声を掛けた。



「今朝、もう。引き取られて行ったわよ。」同僚が、忙しそうにカルテを記入、しながら。



「青森の方みたい。」



「・・・そうよね・・・・」いつからだったか、屋上に、姿を見なくなったのは。



「強い、痛みがずっとあって。」同僚が言う。



「・・・。」



「緩和ケア。上手くいって、最後はずっと昏睡してたけど。」



「小竹のおばあちゃんが言うの。屋上で、誰かとずっと、話してたよねって。」



「えぇ?」



「小竹さんちょっと、霊感みたいなの、あるもんね。」別の。同僚が言う。



「そう。・・・・・」



確かに、そういう事は、ここでは良くある。



見えたり、感じたり。・・・まれに、話をしたり・・・する人もいたりする。




「でも、ねぇ、それにしても、私は誰かと話してるようには見えなかったんだけど・・・」



屋上の喫煙所で、一人で煙草は良く・・・・吸っていたけど・・・・



ベンチに座って、上を向いて。・・・・



「じゃぁ幻覚じゃないの。」



「・・・えぇ?」



「小竹さん幻視が始まっちゃったかな?一度検査してもらった方がいいかも。」



・・・・。



小竹さんは身体こそだいぶ弱ってはいるものの、意識の方はハッキリしていると、思っていた。ただ・・・



・・・ほらお迎えが来てるよ、今日は2人死ぬね・・・なんて。



たまに言う事も・・・あって・・・・・



そして偶然その日、2人亡くなったりした事も、あって・・・・



ただ、感が強いせいだと、



思い込んでしまっていたのを、少しだけ後悔した。





「・・・そう、ね・・・でも、そうよね。前にもそう言う事あったし・・・一度念のため診てもらった方がいいかも。」



「うん。」



「だって可哀想に。あの子・・・ずっと、一人だったわよね。」



誰も、見舞ってくれる人もいなくて・・・・



「寂しそうに、ずっとひとりぼっちだったわよね。」




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