5月の夢3
大臣室でお茶を一杯いただいたあと、沙月は王に会う算段をしながら王宮を歩いた。
中庭に面した廊下を歩いていると小さな女の子たちを連れた男が向こうからやって来た。
男と目が合う。
お互いに見覚えがある。
視線がつながったまま通り過ぎようとした瞬間ひらめいた。
「ダレン?」
「イザベラか」
ダレンはすっかり小太りのマイホームパパになっていた。
服装がちょっとダサい。
何だその水玉の蝶ネクタイは。あんなに人目を気にするひとだったのに……。
沙月の目線に気付いてダレンは笑った。
「娘が今日は水玉でお揃いにしようって聞かないもんだから」
沙月はダレンの足元にくっついて興味津々でこちらを見上げる少女たちを見た。
みんな色違いの水玉ドレスだ。
絵本から出てきたようなキャンディのように愛らしい三姉妹。
娘たちが毎日毎晩パパ、パパと慕ってくるので他に気を配っている暇はないのだとダレンは目尻を下げて語った。
今は妻のパンジーとかわいい娘たちに囲まれて幸せにやっているという。
「パンジー?」
「……ああ、アイリスは別のひとと結婚したよ。僕は己惚れてたんだ……。恥ずかしい……。きみにもひどいことをした。嘘みたいに聞こえるかもしれないけど、きみの今の成功が本当に嬉しいよ」
時間はこれほどひとを変えるものかと沙月は驚いた。
ダレンの場合はこどもを持ったことが大きかったのだろうけど。
それに、作者自身の心境の変化も反映されているのかもしれない。
こどもたちに急かされて去っていくダレンの背中を沙月は感慨深く見送った。
それにしてもアイリスは誰と結婚したのだろう。
ダレンの口ぶりだとまるでアイリスの方が彼をふったみたいだ。
「しまった! ダレンに王と謁見できるように頼めばよかったんじゃない!」
慌ててダレンが去っていった方を振り返る。
そのとき、視界の端を青いものが過った。
中庭を見れば噴水を囲うようにアイリスの花が植えられている。
緑の中に冴える青。
その色に誘われて中庭へ出た。
噴水も花も十年前にはなかった。
予感めいたものを感じて沙月は緊張した。
事件の真相を知ったら夢が終わってしまうような気がした。
雲を模した丸いトピアリーの影にいたひとがこちらに振り向いた。
そして、沙月はアイリスに出会った。




