5月の夢2
十年ぶりに帰宅した姉のイザベラに、代替わりして公爵になっていた弟は何をいまさら……という顔をしたが、あるカードをチラつかせると隠居している父のところへすっ飛んで行ってある人物との面会を取り付けてきた。
そうして沙月が最初に話を聞きに行ったのは第一王子フランだった。
実はフランもイザベラ犯人説が崩れたあと、疑いを掛けられていた一人だった。
彼は妻の死後、彼女の持ちものを売り払っていた。
お金がなかったのだ。
蝶よ花よと育てられ不自由なく暮らしてきたパトリシアの身の回りのものはすべて一級品ばかり。
あれが欲しいとひとこと言えば与えられる生活。
お金の概念自体がなかったのかもしれない。
結婚後も続いたそうした生活に、これも愛だ、とフランは文句を言わなかった。
しかし、妻は夫に感謝しなかった。
贅沢な暮らしが当たり前すぎて家計が火の車だということにパトリシアは気付かなかった。
そこに、不貞である。
一度は愛した女だが、さすがにこれはない。
弟の婚約者に殺された?
自業自得ではないか。
フランは三ヵ月喪に服したあと、パトリシアの持ち物を一切合切売り払った。
パトリシアの父はそれに文句を言わなかったそうだ。
しかし、それは娘婿への気兼ねではなかった。
忖度の相手はどうやら国王だったらしい――。
次の聴取先は王宮に決まった。
フランの後妻ミランダが父親の内大臣あてに手紙を書いてくれたので、内大臣に会うという名目で王宮へ行けることになった。
ミランダは控えめだがよく気がつく大人の女性で、フランとはなかなかつり合いのとれた夫婦のようだった。
手紙のお礼にカードをあげるとハシバミ色の瞳をにこりと細めて喜んでくれた。
前世のカードゲームを参考に沙月が作ったカードだ。
沙月はこれでシスターを懐柔し、日々の務めも忘れてカードゲームにはまったシスターは修道院を追い出された。カードを考案した沙月とともに。
ふたりはカードゲームを売り歩きながら世界を旅してまわった。
今ではカードの種類もゲームのやり方も増え、レアカードには高値が付いている。
「私のサロンでもこのカードゲームは人気なのよ。ぜひ、一度いらしてね」
沙月は重ねて礼を言い、フランの屋敷を後にした。
王宮への道中、沙月はフランのキャラクターシートを書き込んだ。
十年の間、世界を見てまわった沙月の”にじはし”研究ノートは山になっている。
世界のあちこちに作者の経験や嗜好が反映されていた。
それらひとつひとつを沙月は懐かしさと喜びと驚きを持って見つめた。
この夢はいつまで続くのだろう。
ずっと終わらないでいてほしい。




