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夜空の刻印魔法  作者: 雨星燈夜
第1章 蛍光祭

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魔装と刻印魔法



「どうどう? かっこいい?」

「思ったよりずっと動きやすい! ありがとうお兄ちゃん」

「本当に良いのかな? こんな立派な物もらっちゃって」

「ふわふわして気持ちいい!」


 僕たちが店の外に出ると、着替えた4人は嬉しそうに自分たちの姿を見せ合っている。


 テオの装備は、皮鎧にクロムが作った合金の胸当て、関節部のプロテクター、鉄鋼付きのグローブ、そしてテオの耳が出せる獣人用の皮帽子を被っている。


 大剣は大きすぎて腰に差せないので、背中に鞘が来るようにベルトを調整して、テオが剣を抜きやすい場所で固定してある。


「へへっ、立派な戦士になった気分」


「確かにテオは戦士っぽく見えるね。それなら僕は剣士かな?」


 フェイの装備は、ほとんどテオと同じ物だが、皮鎧ではなく動きやすさを重視した灰色徳の外套を着ており、ボトムスの両足には小道具を入れるホルスターが巻かれている。


 剣は腰のベルトに差し、長い黒髪は邪魔にならない様にシンプルな髪留めで一つに纏めていた。


「私達は、神官様や賢者様が着る服に似てますね」


 リリーは魔法使いなので、鎧の様な防具は身に着けていない。その代わりに、青と白の生地に黄緑色の衣装が施された法衣を着て、沢山の道具が入る<魔法鞄(マジックバッグ)>を肩から下げている。


 鞄の中にはアイナ姉が用意した<水薬(ポーション)>や僕が作った魔法道具がたくさん入ってある。


「ああ、そうだね。こういう装備品は国や地域の決まりで、許可が無いと勝手に作っちゃ駄目なんだけど、今回は僕が村長から正式な依頼で用意したから大丈夫」


 長い髪をフェイと同じように髪留めで纏めているが、エルフ特有の長い耳が目立たない様に結ぶ位置をずらして、耳が上手く隠れる様に結び目を少し緩めている。



「すべすべ~、ふわふわ~」


「気に入った?」

「うん!」


 シュニの防具は純白のローブで、目立たない程度だが袖や襟首に金色の詩集が施されている。フードの部分は柔らかい綿がふんだんに使われているので、触り心地が良いのかシュニはその手触りに夢中になっていた。


「みんな似合ってるわね~」

「動きづれぇとか、気になる所があれば言えよ」


「全然、大丈夫! すごくカッコ良くて大満足だぜ!」

「僕も動きやすいし、大丈夫だよ」

「私も問題ありません!」

「うん、大丈夫です!」


 テオとフェイは体を動かしながら答え、リリーとシュニはお互いの服装を見て確認を済ませた。


「それじゃあ、準備運動って事で、アイナ姉に用意して貰った人型の<土人形(アースゴーレム)>があるから、訓練場で色々と試してもらおうか」


「試すって、何をですか?」


 僕の提案に、子供たちはきょとんとした表情で首を傾げる。


「とりあえず付いておいで」

「訓練場はすぐそこだから」


 訓練場は、道から外れた僕の店とアイナ姉の薬屋の奥に作られた広場で、店からは少し離れているが、村の自警団が特訓したり、魔法の実験や武器の使い方を試すときに使われている場所だ。



「もしかして、魔法のため仕打ちですか? でもテオとフェイは——」


「あらあら、みんなの武器にある刃や石に掛かれた印は、ただの飾りじゃないのよ」


「この石に刻まれてる刻印ですよね? 魔法使いを手助けする補助的なものじゃないんですか?」


「本来はリリーの言う通りだけど、ユウが作ったその武器にはね、ちょっとした秘密があるの」


 リリーの疑問にサラ姉とアイナ姉は、敢えて答えを言わず焦らすような説明をする。


「でも、俺とフェイは訓練前に魔法の才能が無いって言ってたじゃん!」


「自力じゃ難しいって意味だぞ。その剣を使うなら話は別だ。なぁ、ユウ」


 ヴァル兄はテオを宥めながら、話しの続きを僕へと促す。


「テオの武器には、だれでも魔法が使える様になる特別な魔法が掛けてあるんだよ。そういう武器の事を最近では【魔装武器】って呼んでいるんだ」


「「「「まそう?」」」」


 僕が説明すると、シュニ達は聞いたことのない言葉に、またしても首を傾げる。


「【魔装】って言葉は、魔法と武術の両方を極めた達人が生み出した【魔装武術】って言う技の事でね。魔法を武器や拳に纏わせて、武器の威力を上げたり、自分の身を守ったりする事ができるんだ」


「だけど、魔法も武術も得意な人じゃないと覚えるのが難しいの」


「へぇ~、じゃぁ魔装武器って言うのは?」


 僕とアイナ姉が魔装について説明すると、子供たちは魔装を何となく理解したのか黙って頷くと、フェイが続きを促す。



「簡単に言えば、魔装武術が元になって作られた武器の事なんだが」


 ヴァル兄は上手く説明できず、言葉を探すように頭を掻いている。


「そうだな~。例えば、魔法道具には、あらかじめ魔力を道具の中に貯めてから使う物と、使う時に魔力を入れる物の2種類がある事は知ってるよね?」


「はい、<巻物(スクロール)>とか、<魔法灯(マジックランプ)>の事ですよね?」


 僕が魔法道具の仕組みについて例を挙げると、リリーが的確にそれらの道具を言い当てる。


「その通り。魔装武器は、魔法道具と同じように誰でも魔法が使える武器って事」


「ええ、本当!」

「それじゃあ、僕たちも魔法が使えるの!」


 僕の説明を聞いて、テオとフェイは興奮しながら自分の剣に手をやり、サラ姉やヴァル兄に確認を取っている。


「もちろんだ。ユウとクロムに感謝しろよ」

「その使い方を覚えてもらうために、訓練場へ行こうって話だよ」


「すごい! でも、ユウ兄はどうして魔装武器が作れるですか?」


 何故か得意げなサラ姉とヴァル兄は、テオとフェイを連れて訓練場へ足場に移動するが、リリーは足を止めて不思議そうに僕へ質問した。


「僕は色んな人を手助けできる<付与術師(エンチャンター)>だからね。その付与魔法の中に、【刻印魔法】っていう古い魔法があってね。必要な材料と道具を用意できれば、その魔法で魔法道具も魔装武器も作れるよ。時間は掛かるけどね」



 僕が冒険者として活躍していた時の役職は、パーティーの後方で味方を支援する魔法職の<付与術師(エンチャンター)>。


 主な役割は、魔法で仲間を強化し、敵の弱体化や妨害をするのが仕事だ。


 武器や役職によって戦い方が変わるように、支援魔法にも種類がある。僕が最も得意な付与魔法は、幼い頃に両親から教わっていた刻印魔法と呼ばれるものだった。


 刻印魔法は、魔法陣を簡略化して作られた印を魔力で描き、その印に必要な魔力を注ぎ込むと印に刻まれた魔法が発動するというもの。


 大昔に開発された魔法の1つだが、刻印を描く手間と、使用する魔法の知識が必要である。

そのため、他の魔法より発動が遅く、習得にも時間が掛かる魔法なので、刻印魔法が使える魔法使いは減少し続けている。


 しかし、習得さえできれば、見習いの魔法使いでも使い捨ての<巻物(スクロール)>や<魔法爆弾(マジックボム)>などの魔法道具を作る事が出来るので、刻印魔法が使える魔法使いは冒険者よりも商人や研究者を仕事にしていることが多い。



「もしかして、村にある色んな魔法道具って、全部ユウ兄が作ったんですか?」


「さすがに全部じゃないよ。それに、僕だけじゃあんなに沢山は作れないよ」


 確かにフロックス村の魔法道具に刻印魔法を刻んだのは僕だが、その元となる道具はクロムが1から作った物や、村の皆があちこちから集めてくれた物である。


 僕の魔力だけで描いた刻印は、時間が経つと魔力が散って消えてしまう。


 何度も継続して刻印魔法を使うには、魔力を留めるための貴重な宝石や特別な金属、あるいは刻印そのものを物理的に彫り込む必要がある。


 現場で危険が伴う冒険者としては向いていない魔法かも知れないが、村長は僕の魔法を理解して信じてくれたからこそ、村の復興に協力を持ち掛けてくれたのだろう。


 おかげで今は立派な店持つことが出来て、鍛冶師のクロムと一緒に珍しい道具や武器も作れるようになったのだ。



「ほら、訓練場に着いたよ」


 この訓練場は、自警団の側にある鍛錬用の広場とは違い、魔法の実験用に作られた<人形(ゴーレム)>を召喚する魔法道具が備え付けられている。


「よいせっと、ここで良いのか?」

「うん、そこに置いといて」


 ガコッ!


 僕がクロムに頼んで店から運んでもらった箱には試作品と書かれた紙が貼られており、僕はその中からフェイの剣とよく似た細長い直剣を手に取り、開けた訓練場の真ん中に立った。



「それじゃあ、今から僕が魔装武器を使うから、よく見ててね」

「「「「はーい」」」」


 訓練場には見学用のベンチがあり、誰かが訓練を始めると、安全のためその周囲には魔法で作り出された防御結界が自動的に展開される。


 僕は深呼吸して姿勢を正し、手に持っている剣に魔力を流し込む。


 すると、剣に描かれていた緑色の線に淡い光が灯った。


「いくよ、<風刃(ふうじん)>」


 僕が声に出して技の名前を言うと、剣の刃を中心に風が渦巻くように噴き出す。


「「「「おお!」」」」


「そして、これが<風刃・鎌鼬(ふうじん・かまいたち)>!」


 バシュ!


 僕が剣を大きく振り被り、技名と共に剣を振り下ろすと、三日月状の風の刃が<土人形(アースゴーレム)>に直撃した。


 風に吹き上げられた土埃が止むと、ゴーレムには綺麗な切り傷が出来ていた。



「すごい!!」

「お兄ちゃんが攻撃魔法を使うところ、初めて見たかも」


「ははは、ありがとう。僕は攻撃魔法が苦手だからね。でも、魔装武器があればこの通り。魔法が使えない人の為に作られたのが、魔装武器だからね」


 子供たちからの称賛を受けて、僕は照れ臭くなり剣を箱にしまうとクロムの陰に隠れるようにベンチに座った。


「こんなに凄い武器が作れるのに、何でユウ兄の店に冒険者とか騎士の人があまり来ないの?」


「確かにすごいんだが、作るのは大変らしいぞ~」

「あんまり強い魔法だと武器の方が耐えられなくて壊れる事があるんだよ。だから、お客さんが欲しい武器を作るなら、もっと貴重な材料を集めて作らないと」


「そうなの? 十分すごいと思うけどなぁ」


 フェイの疑問も最もだが、ヴァル兄とクロムが言ったように、現役で危険な仕事をする冒険者や国に仕えている騎士が求める魔装武器は、強力な魔法が要求される。


 そんな武器を作るとなると、魔法の格となる純度の高い宝石や軽くて丈夫な金属など、希少な材料を取り扱っている店でないと用意できない。



 リリー達の装備は、村長や村の皆が用意してくれた資金や材料を使ったので、普段よりもいい素材で4人専用の魔装武器を用意できたが、僕とクロムが普段から用意できる材料で作れるのは、頑張っても中級者向けの魔装武器を1つか2つくらいだろう。


「さぁ、今度はフェイがやってごらん」

「うん、やってみる!」


 フェイが訓練場の真ん中へ駆け出し、鞘から剣を抜く。


 訓練中はゴーレムが自動で修復されるので、先ほど僕が<土人形(アースゴーレム)>に着けた傷は完全に直っていた。


「え~と、魔力を剣に流し込んで、技の名前を言うんだっけ?」

「そうだよ。魔力が剣に貯まると緑色の線が光るから、構えて技の名前を言って」


 フェイは頷くと目を閉じて意識を集中し、自分の魔力を県へと流し込む。


 すると、剣の刃に描かれた緑色の線が淡く光り出した。


「よし、しっかり構えて<風刃(ふうじん)>!」


 フェイがそう唱えると、剣から魔法の風が吹き出した。


「うわぁ、使えた! でも、ちょっと勢いが」


 フェイは魔法の扱いに慣れていないからか、剣から噴き出る風の勢いを上手く制御できないようだ。


 だが、それはフェイにとって初めて魔法を使えたという手応えとして、彼女に心地よい高揚と緊張感を持たせていた。


「えっと、この後は——」


「そのまま切りつけても良いけど、折角だから僕と同じようにやってごらん!」


 僕が声を掛けるとフェイは頷いて、風を纏った剣を構え直す。


「はぁっ、はぁっ」


 予想以上に魔力を消耗しているのか、走った訳でもないのにフェイは額から汗をかき、浅い呼吸を繰り返している。


「すぅー、はぁー! <風刃・鎌鼬(ふうじん・かまいたち)>」


 それでもフェイは集中を乱さず、息を整えながら深呼吸をすると、剣を思いきり振るった。


 ザンッ!


 フェイの剣から風の刃が飛び、鋭い斬撃となってゴーレムに傷をつけた。


「おおー!!」

「やるじゃない」


 その瞬間、静かに見守っていたテオやサラ姉から歓声が上がる。


「はぁ、やった、できた~」


 しかし、魔法を放ったフェイはその場で息を切らせて、へたり込んでしまった


「おっと、大丈夫?」

「ごめん、なんか、急に、力抜けちゃった」


「どうだった、初めての魔法は?」

「凄かったけど。思ったより、疲れちゃった」


 サラ姉が魔力切れで疲れ切ったフェイをベンチへと運び、アイナ姉が用意していた<水薬(ポーション)>をフェイに飲ませている。


「魔法の発動時間が長かったからね。魔装武器の出力を少し調整しようか、フェイは少し休んでて」

「うん、わかった」


 <風刃>の魔装を使った時点では、フェイにも余裕はあった。おそらく、初めての魔法で風の勢いを調整するのに時間が掛かり、必要以上に魔力を消耗したのが原因だろう。


「そうなると、テオも試してくれる?」

「よっしゃあ!」


 テオは待ってましたと言わんばかりに、訓練場の中央に居る僕の所まで駆け寄って来た。


「で、俺の剣はなんていえば魔法が使かえるの?」


「テオの剣には、<炎刃(えんじん)>と<火蜥蜴の息吹(サラマンダー・ブレス)>、それから——」


「うっし、分かった!」


 テオは僕の説明を最後まで聞かず、大剣を両手で空に掲げて、自分の魔力を流し始めた。


「ちょっと、待っ——!」

「<火蜥蜴の息吹(サラマンダー・ブレス)>!!」


 テオの大剣に描かれた赤い線がすぐに光り出し、僕の制止も間に合わずテオの大剣から魔法の炎が噴き出した。


 ゴォオオオオオオ!!


 その炎は、テオを中心に渦を巻いて大きな火柱となり、空高く伸びあがっていく。


「熱っ! なんだよ、この火力」

「念のためだったけど、防御結界を張ってて正解だったわね」


 テオが暴発させた魔法は訓練場を飲み込むほど大きな炎となり、防御結界が無ければ見学していたヴァルト達も無事では済まなかっただろう。


 そんな中、フェイに魔力を回復させる<水薬(ポーション)>を飲ませていたアイナとセアラは、テオ達を見守っていたクロムやヴァルトと共に今起こっている状況を冷静に分析していた。


「これは暴走してますね。まったく、話しくらいちゃんと聞いとけよ」

「テオはせっかちさんだからね~」

「威力は凄ぇけどな」

「でも、こんな勢いで魔法を発動させたら——あーあ」


 大人達がテオの心配をしていると、見る見るうちに火の勢いが弱まる。


 そして、完全に火柱が消失すると、その中心にはテオが力尽きて地面に倒れ込んでいた。


「あ……うぅ」

「魔力を込めすぎると危ないから、<炎刃(えんじん)>から使う様にって、説明するところだったのに、最後まで話を聞かないからだよ。クロム~、ちょっと手伝って!」


「おう、まかせろ」


 僕は呆れながら倒れているテオを助け起こすと、クロムを呼んで大剣とテオの装備品をいくつか持ってもらい、介抱するためにフェイと同じくアイナ姉の元へと運んだ。


「なんでユウ兄は炎の中でも平気だったの?」

「ユウも咄嗟に防御魔法で防いだんだろうな、じゃなきゃ大火傷だぞ」


「えっ! でも、魔法陣もないし、呪文も唱えてないよ」


 少し体力が回復したフェイは、僕が炎の渦に巻き込まれても無事だったことに驚いていたらしく、サラ姉達に色々と質問をしていた。


「確かに、魔法陣を用意して詠唱をした方が魔法も安定するし威力も上昇するけど、魔法は使う人のイメージが大事だからね」


「規模の大きな魔法ならともかく、戦闘中に詠唱したり魔法陣を描くのは危ないでしょ。だから、一流の魔法使いは詠唱無しでも防御魔法を出せるようになるのが基本よ」


「そうだな、魔法名だけでも言えばイメージが固まるから威力も安定するが、詠唱となると味方に守ってもらうか、相手が身動き取れない状態でもないと危ねぇぞ」


 ヴァル兄たちの言っている事は、戦いにおける魔法使いの心得でもあり、実際に詠唱をする場面では、仲間が敵を引き付けている時か、相手を何らかの方法で拘束している時が理想的だ。


 だが、力量差のある相手や、習得したばかりで魔法の成功率が低い場合は、危険を冒してでも詠唱する必要がある。


 それに、詠唱をするのは悪い事ばかりではない。味方が居るのであれば、自分がどんな魔法を使おうとしているのか知らせることが出来るし、場合によっては相手の注意を引き付けたり、威嚇する事もできる。


「そうなんだ。じゃぁ、僕たちの魔装武器はどうなってるの?」


「魔装武器の魔法は、使い手の意思に反応する物と、使い手の声や魔力量に反応するものがあるんだ」

「お前たちが使ってるのは、ユウが刻印魔法で刻んだ魔法名を読み上げると、剣に込めた魔力の量に応じて魔法が発動する仕組みになってるぞ」


 フェイとテオは自警団になるため、魔法に関する勉強よりも剣術や戦闘での立ち回りを優先していたので、詠唱や魔法陣に関する知識はあまり持っていない。


 しかし、僕やクロムの説明でフェイとテオが上手く魔法を使えなかった理由を理解できたらしく、感心した様子でフェイは何度も頷いていた。



「ただ、難しい上級の魔法だと、さすがに詠唱無しでは使えないわね」


「そうね。今は上級魔法の魔法陣や詠唱を覚えるには魔法協会の許可が居るし、使う事も滅多にないから、見る事は無いだろうけどね」


「でも、魔法使いは自作の魔法を新しく開発する人も結構いるから、昔ながらのやり方を知っておくのも大事だよ」


 テオの応急処置が終わるまで、魔法に関するちょっとした座学会が行われ、フェイ達は魔法に詳しいアイナ姉と自警団での戦闘経験が豊富なサラ姉とヴァル兄から、簡単な講義を受けていた。


 その間に僕とクロムは訓練場に備え付けられた武器の手入れ道具がある場所に移動して、テオとフェイから預かった剣に、魔力切れを起こさないように魔法を制御する細工を施す。



「大丈夫? 気持ち悪くない?」

「……大丈夫です。大分落ち着きました」


 <水薬>を飲んである程度回復したテオは、魔法を暴発させた事がよほど堪えたのか、見違えるほど大人しくなっていた。


「それじゃ、魔力切れになった2人にお手本を見てもらおう。リリー魔法の使い方を見せてあげて!」

「はいっ、任せてください!」


 指名されたリリーは椅子から立ち上がり、テオが暴発させた炎の焼け焦げが残っている訓練ジュの中央まで歩いて行く。


 リリーが杖を構えて集中すると、一瞬で杖に魔力が集まり周囲に冷気が漂い始めた。


「<氷結の槍(アイシクル・ランス)>」


 リリーの周りに氷の塊が6つ出現すると、形を変えて巨大な槍になるとゴーレムに襲い掛かる。


 グサグサッ、グサッ!


 宙に浮いていた氷の槍は、弓矢と同じくらいの速さでゴーレムに突き刺さり、刺さった場所から氷漬けになっていく。


「「おおお~~!」」


「何あれ!?」

「あんなの、人に当たったら死んじゃうじゃん!」


 大人たちはリリーの魔法に感心していたが、テオとフェイは目の前で氷の槍に貫かれ、氷像とかしたゴーレムを見て、リリーに対して恐れを抱いてしまったようだ。


「ねっ、危ないでしょ」

「今の魔法も詠唱すれば、もっとすごい威力が出るわよ」


「まぁ、使う機会が無いのが一番だがな」

「2人が使った魔法より、階級が上の魔法だからね。威力が違うのは仕方ないよ」


 リリーの使った魔法の威力が、詠唱すればさらに上がる事を知ったテオとフェイは驚きのあまり、言葉を失っていた。


「ふぅ、どうでしたか?」


「完璧だったよ」

「さすがリリーね」

「お前たちも、ちゃんと見てたか?」


「はい……見てました」

「うん、大丈夫」


 2人よりも強力な魔法を使ったにもかかわらず、平然としているリリーを見て、テオとフェイはどこか遠い目をしていた。


「そ、そんな目で見ないでよ」


「さすがリリー姉、俺たちじゃとても……」

「うん、比べ物にならないよ」


 実力の差に落ち込んでいるのか、それとも魔法が上手く扱えているリリーに嫉妬しているのか、テオとフェイからはリリーに対する尊敬とは違った、複雑な心の壁が感じられた。


「そ、そんなことないよ! あの魔法は疲れるから、魔力に余裕がある時でも2、3回しか使えないし」


「あ、あの魔法が、3回も!?」

「……無理だよ」


 慣れていないとはいえ、1度魔法を使っただけで倒れてしまった2人にとって、それは絶望的な力の差を表す言葉だった。


 励ましてあげたいところだが、それは他の大人達に任せて、僕はまだお披露目が残っているシュニの為に、氷漬けになったゴーレムの修復を進める。


「よし、直った。シュニもやるよね?」

「うん、やるー!」


 落ち込んでいる2人を励ましていたシュニは、僕が声を掛けると自分の杖を持って駆け寄って来た。


「あれ? シュニも何か攻撃魔法が使えるのか?」


「私は教えてないわよ。回復魔法が専門だって聞いてたし」

「私も知りませんね。となると、ユミトかしら?」


「俺も知らないです。多分、ユウとユミトの2人が教えたんじゃないですか?」

「私達も見たことないので、そうだと思います」


 この場に居るほぼ全員がシュニの覚えた攻撃魔法をしらないので、全員の視線がシュニに集まっていく。


「みんな気になるみたいだね。思いっきりやって、驚かせよう」

「うん、頑張る!」


 シュニが杖を地面に突き立てる様に構え、魔力を練り始める。


「すぅー、ふっ! <神聖なる捌きセイクリッド・ジャッジメント>!」


 杖に光が灯った瞬間、シュニが真剣な表情で杖を振るう。


 すると、空から光の柱が降り注ぎ、ゴーレムを包み込むと、跡形もなく消し去ってしまった。


「うん、上出来! 頑張ったね」

「えへへ、頑張りました」


 僕が頭を撫でるとシュニは嬉しそうに笑っていたが、その様子を見ていた皆は焼失したゴーレムを見て唖然としている。


「あれって……神官が偶に使う攻撃魔法でしたよね?」

「そのはず、でもあれが使える子供は珍しいわね」


 サラ姉とアイナ姉はこの魔法を知っていたらしく、他の皆よりは落ち着いていたが、4人の中で一番幼いシュニが大人の神官と同じ魔法を使えることに、少なからず驚いていた。


「どう? すごかった?」

「凄かったよシュニ! びっくりした」


「すごいけどさ……」

「あれ、強すぎない?」


 シュニが笑顔で戻って来ると、リリーも笑顔で迎えるが、テオとフェイは複雑な表情で抱き合う二人を見ていた。


「ただ、あの魔法には欠点があって、人や生き物にはあまり効果が無いんだよね」


「そうなんですか?」


「神官さんが使う魔法だからね。生物に害をなす魔法は基本的には使わないよ」


「まぁ、効かないと分かっていても、あの中には入らない方が良いだろうな」


 パーティの前衛を務める事になるテオとフェイにとって、今まで魔法と縁がなかったこともあり、初めて見る攻撃用の魔法はどれも危険なものに見えたのだろう。


「まぁ、シュニもさっきの魔法は何度も使えないし、テオとフェイが使ってた魔法の方が魔力の効率は良いんだよ」


「えっ、そうなの?」

「ほ、本当に?」


「ちゃんと使いこなせたらね。そのために、2人が休んでいる間に武器を少し改造しておいたよ」

「ほら、握ってみろ。違和感はないか?」


 テオとフェイから預かっていた剣をクロムが持ってくると、剣の持ち手には護拳が新たに取り付けられていた。


「まず、2人の武器には第5階級魔法、魔装の基本技の剣に風や炎を纏わせる魔法<炎刃>と<風刃>だけしか使えないようにしたから」


「えー、そんなー」

「仕方ないけどさー」


 2人とも魔装武器に制限を掛けられてがっかりしていたが、自分たちが魔法をうまく扱えない事も理解しているので、それ以上の文句は言わずに火事蔵された自分の武器を渋々受け取る。


「大丈夫、いざって時は封印した第4階級の魔法も使える様にしたから」

「慣れるまでは我慢しろ、いいな?」


「はーい、分かりました」

「頑張って練習します」


 テオとフェイに魔装武器の新しい使い方と注意点を教え終わる頃には、2人とも魔法のため仕打ちで消耗した体力が回復しているようだった。


「よし、それじゃ自警団の詰め所に行くか!」


 テオ達の準備が終わるのを見計らって、ヴァル兄が子供たちの前に立つ。


「お姉ちゃん達は来ないの?」


「私はお祭りの準備があるし、お店を開けっ放しにはできないからね」

「俺とユウも、昼には宿屋で仕事があるから無理だな」

「私もこれから村の見回りだから、一緒には行けないわね」


 リリー達はこれから初仕事になる訳だが、僕たちにも祭りの準備や仕事があるので、ここからはフェイ達だけで仕事に向かわなければならない。


「そっか~」

「ちょっと残念」


「ごめんね。せめて門の前まで一緒に行きたかったんだけど」


「大丈夫です!」

「頑張ってきます!」


 話もほどほどに切り上げると、ヴァル兄を先頭に、子供たちは村の中心にある自警団の詰め所へと向かう。


「さて、僕たちもお仕事を頑張りますか」


「そうね。頑張りましょう」

「またあとでね」


「お疲れ様です」


 ヴァル兄と子供たちを見送ったあと、僕たちもそれぞれの仕事場へと戻っていった。


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