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夜空の刻印魔法  作者: 雨星燈夜
第1章 蛍光祭

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入団祝い


 カラン、コロン!


「おっはよー! クロ兄、ユウ兄、準備できて……る?」


「追いついた! おはよう、お兄ちゃんた……ち?」


 店のドアが開くと、テオとフェイの2人が飛び込む様に店へ入って来た。


 おそらく競争でもしていたのだろう。


 テオとフェイはひと息ついて僕の居る方を向くと、目を丸くして固まっていた。


「……おはよう、いらっしゃいま——」

「おう、おはようさん。今日も元気だな~お前たち」


 僕の返事を遮る様に、僕の頭の上からヴァル兄が2人に挨拶を返す。


 カラン、コロン


「おはようございまーす。頼んでいたものを受け取りに……来ました?」

「おはようございまーす! あれ?」


 少し遅れてリリーとシュニが店に入って来たが、2人ともこちらを見てテオ達の様に固まってしまう。


「おはよう、みんな」

「おう、おはよう。これで4人とも揃ったな」


 身動きの取れない僕が、そのままの姿勢で挨拶を返すと。先ほどと同じようにヴァル兄の声が背中から頭にかけて響き渡り、少し頭がくらくらする。


「お、おはようございます。ヴァルトさん、あの~」

「ユウおにいちゃん、なんでヴァルトさんの膝に座って抱っこされてるの?」


 今の僕は、椅子に座ったヴァル兄の膝の上に体がすっぽりと収まっており、頭の上にヴァル兄の顎を乗せられ、片腕で身動きが取れない様に拘束され、もう片方の手でぬいぐるみの様に弄ばれていた。



「それがなぁ~、ユウが俺の言う事を1つ聞いてくれるって言うからよ。お前たちが来るまで遊ばせて貰ってたんだよ」

「確かに行ったけどさぁ~」


 正直、何が楽しいのか分からないが、それでヴァル兄の気が済むのならと心を無にして耐えていた……だが。


 子供たちの不思議そうな視線に晒され、いざ子供たちの口から自分の現状を言われると、徐々に羞恥心がこみあげて来た。


「約束したのはユウだからなぁ。そうだろう、クロム?」

「えっ、いや……はい」


 ちょうど工房から出てきたクロムは、ヴァル兄に同意を求められ咄嗟に否定しようとしたが、ヴァル兄に睨まれると僕から視線を逸らして、渋々と肯定した。


「~~~~!」


 僕はだんだん恥ずかしくなり、鏡を見なくても自分の顔が赤くなっている事を自覚して悲鳴を押し殺していると。


「そのくらいにしてあげたら?」

「さすがに可哀そうよ」


 子供たちの後ろから、サラ姉とアイナ姉が何もない場所から現れ、助け船を出してくれた。


「えっ、姉ちゃんたち!?」

「いつから居たの!?」


 テオとフェイは音もなく後ろに現れた2人に心底驚いたのか、その場で飛び上がると僕の側まで逃げて来た。


「<不可視(インビジブル)>の魔法だろ? だが、どうやって音もなく入って来たんだ?」

「扉、開けましたか? ドアベルが鳴らなかったんですけど」


 子供たちは驚いて固まっているが、ヴァル兄とクロムは2人が姿を消していた魔法を言い当てる。


 しかし、獣人である彼らの耳にも2人が店に入った音は聞こえず、その方法に見当がつかないらしい。


「<無音(サイレント)>の魔法も一緒に使ったんですよね?」


「そう! <無音(サイレント)>と<不可視(インビジブル)>の合わせ技よ!」

「ユウ達も驚かせようと思ったんだけど、間が悪かったわね。でも、久々にユウの可愛い所が見れたから、良しとしましょう」


 僕が2人の使っていた魔法を言い当てると、アイナ姉は嬉しそうに笑い、サラ姉は少しつまらなそうにしていたが、今の僕を見て愉快そうに微笑んでいる。


 テオ達はその魔法に興味津々の様で、2人に色々と質問をしていた。


「さて、もう少し堪能したかったが、仕方ないな。降りて良いぞユウ」


 ヴァル兄もようやく満足したのか、あっさりと僕の拘束を解いて椅子から立ち上がった。


「はぁ~、待たせてごめんね。クロム、例の物を持ってきて」

「お、おう。すぐに撮って来る」


 ヴァル兄から解放された僕は、クロムに子供たちへ渡す品物を取りに行ってもらい。自分は体を動かしながら、ふらふらとした足取りでカウンターに手を突き、盛大にため息をつく。


「ふぅ~、ん?」


 気を取り直して、ヴァルトが座っていた店員用の椅子に座り直すと、すぐ隣で僕の顔を心配そうにのぞき込むシュニと目が合った。


「お兄ちゃん、元気出して」


 シュニはそういうと、軽く飛び上がって僕の膝の上に座った。そして、嬉しそうに長い耳とふわふわな足を揺らしている。


「ふふ、お兄ちゃんと一緒」


 僕にもたれるように座りながら微笑むシュニを見て、僕も思わず微笑み返す。


「はは、ありがとうシュニ。少し元気になったよ」


「よいせっ、持ってきたぞ~」


 シュニのおかげで少し元気が戻って来た頃、クロムが4人分の大きな袋をカウンターの側に並べていく。



「それでは、気を取り直して、みんな集合!」


 僕が声を掛けると、シュニは膝から降りて談笑していたテオ達と一緒にカウンターの前に並び、ヴァル兄達はその後ろで見守る様に場所を移動した。


「はい、これから4人が村の自警団へ入団するお祝いとして、村の皆から僕とクロムが作った装備品をプレゼントしま~す!」


「待ってましたー!」

「やったー!」

「どんなのだろう?」


 子供たちは嬉しそうに声を上げると、そわそわしながら袋が置いてあるカウンターへ一歩近づいてくる。


「それじゃ、まずは武器から見せようか。クロム!」

「了解……ほらよっと」


 クロムはカウンターに置かれている袋とは別に、工房から布が巻かれた大きさの異なる4つの塊を1つずつカウンターの前へ立てかけるように並べていく。


「え~と、まずはテオからだね。はい、どうぞ」


「どれどれ~!」


 テオに手渡した武器は、用意されたものの中で一番大きい物であり、見た目通り重いはずなのだが、獣人と人間のハーフであるテオは軽々と持ち上げ、布を捲っていく。


「うおぉぉ、かっこいい!!」


 テオに用意した武器は大きなバスターソード。


 剣の刀身はテオの体格と身体能力に合わせて作っており、刃の部分には赤い線が、束の部分にはシンプルな赤い模様が描かれている。


「次、僕の見せて!」

「はいはい、これがフェイのだよ」


 フェイの武器はテオの大剣と比べると小さく細いが、それでも僕が持ち上げるとずっしりとした重さがあり、受け渡されたフェイも予想より重かったのか、少し驚いていた。


「おっとっと。えーと、うわ~綺麗!」


 フェイに用意したのは、細長い刀身のロングソード。


 刀身と束にはテオと同じく、鮮やかな緑色の線と装飾がある。


「すっげー、格好いい!」

「良いの! こんな立派なの貰って」


「勿論。君たちのために用意したんだから」

「大事に使ってくれよ」


 テオとフェイは1年前から自警団に入るための訓練を受けていたが、今までは自警団から貸し出される訓練用の件しか使った事が無い。


 初めて自分の為に用意された自分専用の武器を手にして、その感動が抑えられないのだろう。


「うん、絶対大事にする!」

「クロ兄、ユウ兄、本当にありがとう!」


 普段から賑やかな2人にしては珍しく、静かに称賛を口にしながら自分の剣をいろんな角度で眺めている。


「次は~、リリーのだね」

「はい!」


 リリーは礼儀正しく返事をすると、僕から自分の武器を受け取ると目を輝かせながら、静かに布を捲っていく


 中に入っていたのは、木材と金属で作られた水色の杖で、水晶の様に透明な青く丸い石が先端に取り付けられている。


 リリーがその石を光にかざすと、綺麗な石の中心には薄っすらと浮かび上がる濃い青色の装飾が施されていた。


「すごい、石の中に小さな刻印が書き込まれてる」


 リリーは杖の細かいところまでじっくり見ながら、その武器の作り込まれている部分に感嘆の声を漏らしていた。


「なんか、そこまでじっくり見られると、恥ずかしくなるな」

「作った側としては、嬉しい悲鳴だね」


 僕とクロムは、リリー達の喜ぶ様子を見ている内に、創作者として嬉しさと恥ずかしさが込み上げて来た。


 そんな中、1人リリー達の武器と僕たちを目で往復しながら、自分の名前が呼ばれるのをじっと待っているシュニと目が合った。


「あっ、待たせてごめん。はい、これがシュニのだよ」

「はーい!」


 僕がシュニに最後の包みを手渡すと、シュニは待ちきれなかったのかカウンターの上で布を広げて、中身を取り出していく。


「うわぁ~、すごい!」


 シュニは中に入っていた純白の杖を持ち上げると、嬉しそうに掲げて微笑む。


 シュニが持っている杖は、神官が愛用している先端部分に金属の聖印が象られた白い杖と同じものだが、シュニの杖には聖印の真ん中に水晶の様に透明な石が埋め込まれている。


「そして、こっちが4人の防具一式でーす。自警団の仕事や村の外に出る時は、これを着るようにしてね」


「「「「はーい」」」」


 僕がそう呼び掛けると、自分の武器をじっくり観察していた4人は武器を一旦しまい、再びカウンターの前に戻って来た。


 4人の元気な返事を聞きながら、僕は中身を確認しつつ防具の入った袋を一人ずつ手渡していく。


「それじゃあ、テオは工房で着替えておいで」

「うん、ありがとう兄ちゃん!」


 テオは袋を受け取ると、すぐさまカウンターの後ろにある工房へと駆け込んで行った。


「女の子3人は、お店にある試着室をどうぞ」


 僕はカウンターの下から、小さな宝石が付いた銀色の鍵を取り出し、リリーへと手渡した。


「ありがとうございます!」


 リリーは鍵を受け取ると、迷わずお店の出入り口である扉の鍵穴にその鍵を差し込み、鍵を回した。


 カチャ!


 リリーが、扉を開けるとそこはお店の外ではなく、大きな鏡や服掛け、椅子や靴ベラなどが置かれた広い部屋になっていた。


「僕たちも着替えよう!」

「それでは、失礼します」

「お邪魔します」


 リリー達にとっては見慣れた光景だろうが、新しい自分たちの防具が入った袋を抱えて、その不思議な試着室へと入って行く姿は、子供たちの成長を見送るように感じて、僕は自分がこの店を開いて良かったと、心の底から思っていた。



「ねぇ、リリーとシュニの杖に使ってる石って、本物?」

「テオとフェイの剣、綺麗だけど強度は大丈夫?」


 僕が嬉しそうな子供たちを眺めていると、子供たちが全員着替えに行ったのを見計らって、アイナ姉とサラ姉が僕とクロムに小声で問いかける。


「うん、小さいけど本物だよ。純度の高い原石はこの辺では手に入り辛かったから、ちょっと大変だったけどね」


「テオとフェイの剣は、俺の師匠から教わった合金で作ってるから頑丈ですけど、貴重な金属は使ってないんで、普通の剣よりは丈夫ってくらいですね」


 自警団や冒険者の仕事では、魔物や悪人と戦う恐れがあるため、武器や防具をしっかり準備するのが基本だ。


 だが、村人たちの手伝いがあるとはいえ、従業員が2人だけのお店で貴重な材料を調達するには限度がある。


「でも、手は抜いてないよ。どれも僕たちの自信作」

「点検も手入れも万全です。あとは、あいつらが使ってみて、微調整するくらいですね」


 材料が集まりにくい田舎の村とは言え、僕とクロムが時間をかけて作り上げた装備品は、都市や国が量産しているものより、上質な一品に仕上がっている自負がある。


 気づけば僕とクロムは2人揃って、誇らしげに胸を張っていた。


「でしょうね。ちゃっかり全員分の刻印までしてるものね」

「今回はどんな魔法にしたの?」


「それはオレも知りたいなぁ」


 子供たちの剣と杖に最後の仕上げとして、装飾を担当したのは僕だ。


 その装飾の一部に僕が魔法で刻んだ印がある。その理由を知っているヴァル兄達は、その答えを早く知りたかったのだろう。


「いや、それを教えるなら子供たちが先でしょ」

「そうですよ。どうせすぐに説明するんだから、あいつらが来るまで待ってやりましょう」


 僕が答えるのを渋っていると、クロムが加勢してくれた。


「う~ん、それもそうね」

「確かに、先に聞いたらあいつらに怒られそうだ」


 クロムの説得にサラ姉達は納得したのか、少し残念そうにしながらも大人しく引き下がる。


「それじゃあ、話しは変わるけど。何でヴァルトはユウにあんなことしてたの?」

「そうね、それは私も気になってた。何となく察しはついてるけど」


 ずっと気にしていたのか、突然アイナ姉が質問を変えて来た。それに便乗する様にサラ姉も僕たちに迫って来たので、僕は視線を逸らし、クロムは顔を青くして俯いていた。


「ああ、それは……ちょっと個人的な理由でな」


 僕たちの様子に気づいたのか、ヴァル兄は迷いながらも事情を語り出した。


「最近はユウもクロムも、あいつらの装備品を用意するために店にこもってただろ? だから顔出すついでに様子でも見ようかと思ったんだが——」


 ヴァル兄が視線をクロムへと向けると、クロムは焦った様子で弁解しようとする。


「いや、あれはただの事故で——」


「……ただの?」


「いえ、すいません……」


「ヴァル兄、その辺で——」

「事情は分かっているが、お前はまだ怪我の療養中なんだろう?」


 僕は黙り込んでしまったクロムに代わって擁護しようとしたが、ヴァル兄にすごまれて口を噤んでしまう。


「あのなぁ、俺はお前が大切だから怒ってるんだぞ? それなのに、クロムの肩ばかり持つからムカついてなぁ、ユウにも罰を与えたって訳だ」


「なるほどね。私もユウにそんなことされたら傷ついちゃうわ~」

「私も同じ気持ちです。それならヴァルトの行動には納得ですね」


「ええー!」


 ヴァル兄の言い分にアイナ姉とサラ姉はすんなり同意してしまい、3人の大人達から僕とクロムが悪いとでも言うような視線が向けられた。


「そんな……でも、言い返せないか」


 僕は反論しようとしたが、仕事で店に引きこもっていたのも、今朝の事故でクロムを庇おうとしたのも事実なので、何を言っても丸め込まれてしまう未来しか見えず、僕は口を閉ざした。


 普段なら、3人の内1人は僕の側に仲裁として味方になり、場を収めようとしてくれるのだが、何故か僕をいじめる時だけは、偶然その場に居合わせたとしても事前に口裏を合わせていたかのように、強い協力関係を築いてしまう。


 この場に村長がいれば、こんな事にはならないのだが、残念ながら今この店には彼らを止める事のできる人物は居ない。


「はぁ~」


 僕は力なく椅子に座り、がっくりと肩を落としてため息をついた。


「まぁ、そういう事だ。ユウ、今後は素直になれよ」


 ヴァル兄は勝ち誇ったように僕の頭を撫でる。


「……はい、でも、やり過ぎは厳禁だからね」


 大人しく撫でられているだけなのは嫌だったので、僕はせめてもの抵抗としてヴァル兄をじろりと睨みつけた。


「わりぃわりぃ。クロムも分かってるな?」

「すみませんでした。努力します」


 すると、ヴァル兄は僕から目を逸らしてクロムに標的を変えるが、クロムの深々とした謝罪を見て気まずそうになり、視線を宙にさまよわせる。


「あ~その……気をつけろよ」


 ヴァル兄はあの後もクロムに軽く説教をしていたが、ここまで大げさに反省するとは思わなかったのだろう。


 この後も仕事が控えている僕たちに対して、罪悪感が湧いてきたのかサラ姉とアイナ姉も空気を読んで、口を噤んでいる。


「うぉおお! カッコイイ!!」


「すごい、これ!」

「いいのかな、こんなに立派な服」

「ふわふわ~」


 店内に何とも言えない雰囲気が漂い始めていたが、それは工房と試着室から聞こえて来る子供たちの嬉しそうな声にかき消されていく。


「みんな着替え終わったみたいだね」


「そうだな、おーい! 着替え終わったなら、脱いだ服も綺麗に片づけとけよ」

「そのあと外に出て、武器や防具の説明をするからね~!」


「「「「はーい!!」」」」


 子供たちの返事を確認すると、僕たちも席から立ち上がり、店の外に出る準備を始めた。


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