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夜空の刻印魔法  作者: 雨星燈夜
第1章 蛍光祭

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魔法使いの店



 カンッ! カンッ!


「クロム~、そろそろ起きて~!」


「あ~、もう少し寝かせてくれ~」


 僕は仮眠用のベッドで寝ているクロムを起こすため、台所にある小さい鍋をすりこぎ棒で打ち鳴らす。


 だが、クロムは小さく唸りながら枕で顔ごと耳を塞ぎ、起き上がる様子はない。


「テオ達がもうすぐお店に来るよ~。クロムが昨日も頑張ってたのは、あの子達の為でしょ?」



 村に住んでいる子供の中でも年長者であるリリー達は、少し前から大人たちと一緒に仕事をしている。


 その仕事ぶりを見ていた村長や村の大人達が、そろそろ本格的に仕事を任せても大丈夫だろうと判断したので、僕とクロムがその仕事道具を用意する事になっていた。


 クロムが夜遅くまで起きて仕事をしていたのも、今日が初仕事となる子供たちの仕事道具を入念に確認していたからだ。



「ん~、わかってる……zzz」


「どうしよう、困ったなぁ」


 一緒に仕事をしているからこそ、クロムがそれだけ疲れているのも理解できるし、あまり乱暴な方法で無理やり起こすのは抵抗がある。


 だが同時に、僕達2人で用意した仕事道具を直接受け渡して、あの子たちが喜ぶ顔をちゃんと見て欲しいとも思う。



「仕方ない。覚悟を決めるか」


 僕は枕で顔を隠しているクロムに近づき、ある魔法を発動する。


「悪いけど、起きてもらうよ」


 最後の警告として声を掛けると、僕は魔法で生み出された黒い霧を両手に纏い、クロムの顔へそっと手を伸ばした。


「zzz——っ!!?」


「えっ、うわっ!?」


 ところが、僕の手がクロムの顔に触れる直前、急に目を開けたクロムが僕の両手首を素早く掴み、ベッドの上へ僕を転がすように引っ張った。


 ドン! ズシィ!!


「痛っつ、ぐえっ!!」


 ものすごい音と衝撃が部屋中に響き渡り、僕は抵抗すらできないまま、クロムに両腕を捻りあげられ、ベッドの上で拘束されてしまう。



「はぁっ、はぁっ……えっ、ユウ!?」


 元冒険者として荒事は慣れている方だが、僕は後方支援が専門の魔法使いであり、体も細身で非力だ。普段から、鍛冶や村の手伝いで力仕事をしている屈強な獅子獣人のクロムに力で勝てるはずもない。



「いたい、いたいっ! 起きたのなら放してっ!!」


「わ、悪い! なんか、危ねぇ気配がして、つい……」


 僕が涙目になりながら必死に訴え掛けると、寝ぼけていたクロムも流石に目を覚ましたらしく、直ぐに手を放してくれたが、僕の腕にはまだ激痛が走っている。



 バンッ!! カラン、コロン!! 


 その時、まだ開店していない店のドアが乱暴に開かれた音と共に、来客を知らせるドアベルが鳴り響いた。


「えっ?」



 ドン、ドン、ドン!!


 そして、ドアベルが鳴り止むよりも早く、誰かが階段を勢いよく駆け上がってくる音と振動が伝わって来る。


「な、なんだ?」


 ドゴォオオンッー!


 階段に繋がる部屋のドアが開き、雷のような轟音と速さで目の前へ現れたのは、金色の毛並みを持つ狐獣人の男性だった。



「大丈夫かお前らっ! 何があった!?」


 背が高く、胸元が開けたベストを羽織り、ゆったりしたズボンと腰巻きをした金色の狐獣人は、ふっくらとした長い尻尾と全身の毛を逆立て、焦った様子でユーラス達に声を掛ける。



「えっ、ヴァル兄?」

「ヴァルトさん! なんで、ここに!?」


「ものすげぇ音が聞こえたが、何が……」


 金色の狐獣人ヴァルトは、周囲を警戒しながらユーラスとクロムの状況を確認すると、その表情は段々と険しくなっていく。



「……クロム。——てめぇ、ユウに何してんだ?」



 僕はベッドでうつ伏せに倒れながら様子を伺っていたが、ヴァル兄に言われてクロムの居る方を振り向くと、クロムは僕を守るように覆いかぶさるような体制でヴァル兄の居る階段の方を見ていた。


 ヴァル兄は狐獣人にしては体格が大きい方で、身長も獅子獣人のクロムと同じくらいある。


 そして、村の自警団の団長を務めている格闘家であり、接近戦ならば村で一番強い。




「いだだだだだだだだ――――!!! すみません! すみません!!」


 ヴァル兄は手早くクロムから僕を引き離すと、クロムに組み付き華麗に関節技を決める。


「いーや、許さないな。オレの大事な弟分のユウが、寝坊助なお前を起こしてやったのにっ! 起きないどころか、力任せに組み伏せていう事を聞かせようなんて、万死に値する!!」


「だから、誤解ですってぇ――――!!!」


 僕はすぐに事情を説明したのだが、ヴァル兄は聞く耳を持たず、クロムを締め上げ続けている。



「ヴァル兄、そのくらいで許してあげて、魔法で起こそうとした僕にも非はあるから」

「いや、駄目だ。お前のことは親父さん達に頼まれてるからなぁ。こんな危険な奴、罰も与えずに野放しにする気はねぇ!」


「すみませんっ! ほんとうにっ! あがっ、ゆるしてくださぁあああーーっ!!」


 僕が何を言ってもヴァル兄は聞く耳を持たず、必死に謝罪していたクロムも限界が近いのか、悲鳴が弱弱しくなってきた。


「ねぇ、お願いだからさ、今日はこの辺で許してあげて。リリー達もお店に来るし、ヴァル兄もその為にお店まで来たんでしょう?」


「ああ、そうだ。だが、こいつの悪行を見逃す理由にはならねぇなぁ~」


 僕が子供達の話題を振るとヴァル兄の力が僅かに緩むが、まだクロムを開放するには理由が足りないようだ。


「あががががっ~~~!!」


「それじゃあ、あのさっ——」


 僕はヴァル兄に近づき、狐獣人特有の尖った耳に手をかざして囁いた。


「ヴァル兄のお願い事1つ聞くからさ、放してあげて、お願い」


 ピタッ!


 その言葉を聞いたヴァル兄は耳をぴくぴくと動かし、尻尾を楽しそうに揺らすと、クロムの拘束を緩める。


「ほぉ~、何でも聞いてくれるのか?」


 ヴァル兄は正面から僕の顔を見てにやりと笑い、僕は目を逸らしながら渋々頷く。


「……ぼくに、出来る事なら」

「よ~し、良いだろう。クロム、次からは気をつけろよ!」


 すると、急に機嫌が良くなったヴァル兄は、あっさりとクロムを開放した。


「——は、い。ごほっ、ごほっ!」


「んじゃ、俺は下で待ってるから、準備が出来たら降りて来いよ」


 ヴァル兄は朝食が用意されたテーブルに気づくと、そう言って階段を下りて行き、残された僕とクロムは安堵のため息をこぼした。


「はぁ、色々とごめんね」

「いや、俺の方こそ、悪かった」


 お互いに謝罪した後、2人して苦笑しながら体を起こして、用意していた朝食を食べ始める。


「そろそろ、子供達が到着する頃だね。着替え終わったら準備しておいて」

「わかった。すぐに行く」


 朝食を済ませると、クロムはすぐさま作業着に着替えて店にある工房へと向かい、僕は店にある来客用のソファーに腰掛けるヴァル兄と一緒に、子供たちへ渡す仕事道具の整理に取り掛かった。






  魔法を取り扱う店は大きく分けて2種類ある。


 1つは武器や防具、魔法道具など、物に魔法を込めた道具を売っている店。


 もう1つは、水薬や解毒薬など、魔法で作り出した薬を扱う店である。


 小さな村でもどちらかの店があれば、立ち寄る人が増える程に需要が高く、冒険者や旅行者が立ち寄る場所では、宿屋と同じくらい必要とされている店だ。


 フロックス村には、ユーラスが店長を務める【夜空の星屑】と村人のエルフが店長を勤める【聖樹の雫】という薬屋がある。


 2つのお店は近くに建てられているので、村人たちは買い物をする時、挨拶も兼ねて用が無くても両方の店に顔を出すことが多い。


 フロックス村の村人達はどちらの店も良く利用しているので、店の常連でもある宿舎の子供たちは、旅館から迷うことなく4人で店の近くまでたどり着いていた。


「早くユウ兄たちの店に行こうぜ!」


 先頭を歩いていたテオはお店が見えてくると、少し足早になり私達にそう言ってくる。


「駄目だよ。先にアイナさんのお店に行かないと。お使い頼まれたでしょ」

「あっ、そっか。そうだった」


 私がそう言うと、テオは誤魔化すように笑いながら頬を掻いた。


 どうやら、本当にお使いの内容を忘れていたらしい。



 ユミトさんから頼まれたお使いの1つは、村にある薬屋【聖樹の雫】に届け物をする事。


 その薬屋は、大きな樹木の中に建てられたお店で、巨大な木に扉と窓が取り付けられたシンプルな作りだが、今も成長を続ける巨大な木に守られた魔法の家でもある。


 「それじゃさっそく、おはようございます!!」


 私とテオが話している隙に、フェイがいつの間にか薬屋の入り口に立っており、勢いよく扉を開けると大きな声で挨拶をして、一足早く中に入ってしまった。


「あっ、待てよー!!」


 テオは慌ててフェイの後を追いかけ、私とシュニはその場に残されてしまう。


「はぁ~~」


 好き勝手に動く二人の行動には慣れているつもりだったが、こう何度も繰り返されると流石に疲れる。


 私は、特に我慢するわけでもなく、その場で深いため息をつく。


「リリーおねぇちゃん……元気出して、わたしたちも早く行こう!」

「シュニだけだよぉ~、私の言うことを聞いてくれるのは~」


 私は、ふわふわなウサギ獣人のシュニをそっと抱きしめて、心の疲れを癒す為にその柔らかい毛並みを堪能する。


「ありがとう、ちょっと元気出た!」

「えへへ、それなら良かった」


 私がお礼を言って頭を撫でると、シュニは嬉しそうに笑いながら私の手を握り、2人で薬屋の中へと入って行った。


 店の中は様々な色の液体が入った、いろんな形をした瓶が棚に沢山並んでおり、カウンターには薬草と薬を調合するための道具が置かれていた。


 しかし、店の主である店長の姿が見えず、テオとフェイの2人は勝手にカウンターの奥にあるドアを開けて、店の奥まで家主を探し回っていた。


「ちょっと、2人とも! そんなことしちゃ駄目だよ!!」


「だって、だれも居ねぇんだもん。ちゃんと声はかけたぜ?」

「何度も読んだけど、返事なかったし。アイナ姉、2階にいるのかな?」


 私は慌てて2人を注意したが、テオとフェイもお店には何度も来ているので、普段と様子が違う薬屋に困惑していたのだろう。


 普段なら、カウンターか奥にある調合部屋に、薬屋の店長であるエルフの女性が居るはずなのだが、今日はその姿が見えない。


「でも、そんな勝手に……シュニ?」


 私がテオとフェイを止めようと前に出ると、シュニに服の裾を掴まれ、咄嗟に振り返った。


「……リリーおねぇちゃん、あそこ」


 シュニが指さしたのは、先ほど私たちが入って来た。薬屋の出入り口である扉だった。


「ドアがどうしっ……えっ?」


 シュニが指さした場所を見ても何もない普通の扉だったが、私は何か違和感を覚え、注意深く扉の周りを観察する。


「……っ、何これ!?」


 すると、扉の側には大きな半透明の靄が掛かっていた。


「ふふふっ、見つかっちゃった」


 私とシュニが扉の方を凝視していると、誰もいないはずなのに正面から声が聞こえ、半透明だった靄がぐにゃりと歪むと、その中から声の主が姿を現した。


「ふふ、よく気が付いたね」


 扉の側に現れたのは、緑と白の綺麗なローブを着た。長い金髪のエルフの女性だった。


「アイナ姉ちゃん! 隠れてたの、いつから!」

「どうやって隠れてたの!?」


 彼女が私たちの探していた薬屋の店長、アイナリンドさんである。


 私達は、アイナさんが何もない所から突然現れたことに驚きつつも、彼女が店に居たことにみんな安心していた。


「最初からいたわよ、シュニには見破られちゃったけどね」


「もう、びっくりしたじゃんか」

「全然気づかなかった~どうしてすぐに教えてくれなかったの?」


 アイナさんは楽しそうに微笑んでいるが、隠れているアイナさんを見つけられなかったテオとフェイは少し不満そうに文句を言っている。


「でもすげぇ! どんな魔法?」

「<不可視(インビジブル)>ってやつ?」


「そうね。でも、私達の魔法は、それだけじゃないの」


 見たことのない魔法に興奮しているテオとフェイがアイナさんに詰め寄ると、音もなく姿を現した黒い竜人の女性が2人の背後から肩にそっと手を置いて話しかけた。


「うわぁあああ! サラ姉も居たの!?」

「ビックリした~」


「うふふ、面白い姿が見れたわね。アイナと新しい魔法の実験をしていたんだけど、折角だから皆にも見せてあげようと思ったの」


 テオとフェイの背後に現れたのは、動きやすさを重視したタンクトップにショートパンツを着た。セアラと言う名前の黒竜人の女性で、村の自警団の副団長を務めている。


 サラ姉とアイナ姉は、服装も性格も真逆だが、同じ長命の種族で年齢が近いからか趣味が合うらしく、仲良く話している姿は本当の姉妹の様だ。


 ただ、2人は新しい魔法の開発が好きすぎて、今の様に村人たちを相手に新作魔法の実験と称して、悪戯する事がある。


 今までも何度か村人相手に新作魔法の実験をしていたらしく、ユウ兄やクロムさんが良く被害にあっていたらしい。


 ただ、村長に「やり過ぎは禁止じゃ」と注意されてから、大人しくなったそうだ。


「やっぱり、驚いてくれる方が楽しくていいわね。村長とユウはすぐ気づいちゃうし、ヴァルトとクロムは怒ると面倒だし」

「まぁ、見破ってくれないと村の安全を守る自警団としては困るんですけどね」


 しかし、2人に反省している様子はない。おそらく、上手く隠れながら魔法の実験を続けていたのだろう。



「そろそろシュニとリリーにも見破られちゃうかしら?」

「まぁまぁ、それはあとで考えるとして。みんな用事があって来たんでしょう?」


 サラ姉とアイナ姉は魔法の悪戯が成功して満足そうに笑い、私達に要件を訪ねる。


「そうだった。これをユミトさんがアイナさんに渡してって」


 私がユミトさんから預かっていたメモと袋を鞄から取り出して、アイナさんに渡すとセアラさんとアイナさんはくすくすと笑いだした。


「リリーも皆みたいに、ユミトや私達の事“お姉ちゃん”って、呼んでくれても良いのよ?」

「その方が呼びやすいんじゃない?」


「そ、それは……ちょっと」


 私は顔が熱くなり、2人の視線に耐えられず目を逸らした。


「ふふ、リリーは4人の中ではお姉ちゃんだからね。真面目に頑張ってるのよね~」

「でも、私達にとってリリーは可愛い妹同然なんだから、偶には甘えても良いのよ?」


「……は、はい」


 アイナさんが私の頭を撫で、セアラさんが言い聞かせるように私の耳元で囁く。


 私はその姿をフェイ達に見られているのが恥ずかしくて、体から火が出ているかと思った。


「え~と、メモの薬と材料は用意できているから、私達もユウのお店に行きましょうか」


 アイナさんは私から受けっとった袋の中身とメモの確認を終えると、セアラさんと目を合わせて微笑みながらそう言った。


「おねぇちゃん達も一緒に来るの?」

「そうね。その方が楽しそうだし、一緒に行くわ!」


 シュニが嬉しそうに2人へ尋ねるとセアラさんは少し考えた後、笑顔で了承してくれた。


「よし、今度は俺が一番乗りだ!」

「あっ、ずるい! 待てー!」


 話がまとまると、テオは一番に店から飛び出し、フェイがその後を慌てて追いかけていく。


「うっ……」


 シュニも一緒に行こうとしたが、扉の前で私たちの方へと振り返り、2人を追いかけるのをじっと我慢している。


「リリーも一緒に行ってあげて」

「私達も直ぐに向かうから」


「あっ、はい。ありがとうございます。行こう、シュニ」

「はい!」


 私とシュニは、アイナさんとセアラさんにお辞儀をしてお店を出ると、手を繋いでユウ兄の居るお店へと向かった。



「元気いっぱいね。そんなに嬉しいのかしら」

「そりゃあ、そうでしょう。あんなに訓練して、やっと許可が出たんだから。気合が入るのは、誰でも一緒でしょ」


「それもそうね。さぁ、私達も必要な物を持ったら、ユウのお店に行きましょう」


 子供たちを見送った後、私達はユミトや村長に頼まれていた薬と道具を持って店を出ると、休憩中と書かれた看板を扉の前に掛けて、ゆっくりとユーラスのお店に向かうのだった。





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