第5話
先にテーブルに座っていた森山に「すまん、遅くなった」と言いながら席につくと、森山は「うん」とだけ答え、会話の内容に興味はないようだった。
しかし、俺のGMには興味があるようで、
「さっきイザナミに聞いたんだけど、夏希くんのGMはヒスイちゃんて言うの?」
「ん? ああ。頭のネジが致命的なほど抜け落ちたGMだ」
『ご主人! こんなに可愛らしいGMになんてこと言うんですか! ぷんぷんですよ!』
「えっと、ヒスイちゃん?」
『はいっ、次世代型携帯ゲーム端末の美少女Ai兼GMのヒスイですっ』
「ポケットの中で騒ぐな。俺の携帯が変な着信音みたいだろ」
『も~、ご主人♪ そんなに可愛いGMがいるからって照れないでくださいよ~』
「あと少しで焼却炉のおっさんがくるな…」
『スイマセンデシタ…』
「あはは、可愛らしいGMだね。ヒスイちゃん、僕の名前は――」
『イザナミさんと情報共有しているので大丈夫ですよ。…ご主人、ポケットからだしてください』
ポケットからヒスイを出してやった。というよりは、テーブルの上に投げた。
『痛いっ!』
「すまん、ワザとだ」
『酷いです・・・』
「僕のイザナミも挨拶しないとね。・・・イザナミ、起きて~」
『……何かしら? もう御夕食?』
「まだお昼だよ、イザナミ。それより僕の友達を紹介するよ。彼が夏希くん。そのパートナー、って情報共有しているんだったね」
『ええ。ふわぁあ… まだ、眠いわ…』
『イザナミさん! お久しぶりです!』
『…あら、いい男を連れているのね。通りで美郷の心拍数が高くなっているわけだわ』
『私は無視ですか!?』
『私は、女にそういう目で見るような趣味は持ち合わせていないの。ごめんなさいね』
『別に私もそういう目で見ているわけじゃありませんよ!』
「あはは…」と森山が乾いた笑いを浮かべている。
「なあ、イザナミ。お前らって心拍数までわかるのか?」
『声も私好み。顔も私好み。…ねぇ、ヒスイ。美郷と主人を交換しないかしら?』
「質問に答えろよ…」
『あら、ごめんなさい』と妖艶、いや、扇情、いや、どれも当てはまらないな。とりあえず口元に手を当て、お上品に笑っているとしよう。
GMによって、特殊能力があるのかわからないが、ヒスイとイザナミの変わっているところといえば、服装と、…胸だな。
いつも画面の中で、お嬢様っぽい黒を強調したゴスロリとまではいかない服装に対して、イザナミは、天女のような気品と美しさを強調する服装していて、その豊満な体を露出させている部分が多く、もし、現実に存在すれば街を歩くと必ず振り返って見てしまうだろう。
なるほど。よく考えれば、普通に口元に手を当てているだけでもそういう風に見えるのは、こういうことだったからか。
『ご主人、視線がいやらしいです…』
ヒスイに呼ばれて、ふと我に返ると、いつの間にかヒスイとイザナミを見比べてしまっていたようだ。...否定はしないが。
『んふふ。で、心拍数。だったかしら? それはね、能力値を決めるのに必要なことなの。ヒスイから教えてもらわなかったのかしら?』
「何も聞いてないな」
チラッとヒスイの方へ視線を向けると、端末の壁、画面の縁に隠れてしまった。
『ご、ご主人が女の人をいやらしい目で見たときに、上昇する心拍数をいちいち教えたくないです』
「ちなみに心拍数が上がったのは、誰だ?」
『妹の夏奈さんとイザナミさんですね』
「ヒスイちゃん! 僕は、僕はどうだったの?」
森山がここぞとばかりに、ヒスイに詰め寄る。正確には、端末を握りしめている。
『美郷さん、痛いですよぅ!』
「あ、ごめん...」
『...美郷のときも心拍数が上がっているみたいね』
呆れ半分、面白半分と言ったところだろうか、イザナミが心拍数を森山に教えると、
「ホント? やったあ!」と手を上げて喜んでいた。




