第6話
「ねえ、夏希くん。今日一緒に帰ってもいいかな」
「ああ。構わないぞ」
「ほんと? 楽しみだなあ」
隣を歩く森山は、一緒に帰ることが余程嬉しかったのか、満面の笑みを浮かべている。
「じゃあ、放課後に校門で待っててね」
自分の学級の前まで来ると、森山は教室へ入っていった。
さっきは、二つ返事を返してしまったが、今日は別に用事は入っていなかったはず。
考えながら自分の教室へと入ると、智紀が駆け寄ってきた。
「(…夏希! ちょっと来い!)」
「おい! なんだよ!?」
小声で駆け寄る智紀に腕を掴まれると、教室の外へ引きずり出された。
「お前、面倒なやつと関係を持っちまったな」
「面倒? なんのことだよ」
「森山だよ、森山美郷。男子に絶大な人気を誇る森山は、一部の女子生徒から評判が悪い」
「どんなふうに?」
「あいつらからだよ。俺たちの学級の女子リーダー格の宮乃小路紅凛にな。調べた情報。というか噂だが、森山は男子や男性教師に媚を売っているらしい」
「媚び…?」
智紀は、学級の片隅に固まる女子の集団を指さしたが、そんなはずはない。
食堂のおばちゃんやイザナミは、自分からあまり話さないと言っていた。そんな器用なことができるはずがない。
「金持ちだし、親はモンスターペアレント。あんまり関わるといいことないと思うぜ?」
すると、智樹の背後から俺たち2人と違う声が聞こえた。
「あら、確かに私はお金持ちですわ。親が少々、学園生活にうるさいことも承知ですわよ」
「うわ! 宮乃小路! いつからそこにいたんだよ!」
「あなたが私のことを指さしたのは、わかっていましてよ? それより、」
「そ、それより?」
少なからず智紀の表情は引きつっていた。
「私は、あなたの後ろにいらっしゃる殿方に用事がありましてよ」
「俺に?」
すると智樹は、
「そ、そうか! じゃあ俺は教室に戻るぜゆっくり話してきて大丈夫だぜやーさんには俺が言っておいてやるから!」
一気に話を捲したて、光線のごとく教室の中に走っていった。…あいつ、逃げやがったな。
「あの人もあのように言ってるんですもの。少し屋上でお時間を頂けるかしら?」
「嫌だ。といったら?」
「妹さんに危険が及ぶかもしれませんわ」
「夏奈に危険が及ぶなら行く」
「あら、シスコンでしたの? ちょっと驚きましたわ」
「なぜそうなる!?」
「ふふ、冗談ですのよ」とイザナミとはまた少し違う、口元に手を当てて笑う、というよりは微笑むような笑顔を浮かべ「では、屋上に移動しましょうか」と言うと、宮乃小路はこちらを振り向き踊りに誘うかのように手を指し伸ばしてきた。
「どうした?」
「どうした? ではありませんのよ。淑女をエスコートするのは、紳士の役目ではなくて?」
「すまんな。俺は英国紳士でないんでね」
「あらあら、釣れないお返事だこと。確か妹さんは今、調理実習だったかしら? 火事にならないよう気を付けないといけませんわね」
「くっ…」
なんでこいつの手を引いて、学園の屋上まで案内しないといけないんだ!
「そうそう。最初から素直になればよろしいんですのよ。さあ、屋上までエスコートしてくれるからしら?」
「了解しました。紅・凛・お・嬢・様」
純粋皮肉100パーセント入りの笑顔をで呼んでやると、
「っ。…ええ。よくお似合いですわ。さあ、行きましょう」
一瞬、面食らったような表情を浮かべたが、お嬢様なだけあって家ではそう呼ばれているらしく、特に取り乱すようなことはなかった。
「わ、私がその程度で取り乱すとでも思いで?」
「お前、声が震えてないか?」
「そ、そんなことはないですのよ? 少し緊張しているだけですの」
「緊張…?」
宮乃小路は、ハッと我に返り、余計なことを口走ってしまったとばかりに顔をしかめる。
「な、ななんでもありませんわ! 早く行きましょう!」
「お、おい!」
グイっと引っ張り歩き出す。これだと、俺がエスコートされる側になっているじゃあないか。
「まったく…」
宮乃小路の揺れるツインテールを追うように後ろをついて行く。




