その41.魔力の分離
朔也も光樹の姿を捕らえる。彼の泣きそうな表情は、朔也に力を与えた。
「光樹っ、泣かずに待ってろ!」
その言葉に光樹が答える間もなく、食人植物の巨大な花が朔也を飲み込む。
「…っ!」
瞳を力強く閉じると、光樹は自らの衝動を抑えた。
「動ける人は手伝ってっ。動けない人を連れて、ここから避難するよっ!」
パスリルの民は植物の果実から出して暫くすると、徐々に意識がはっきりとして動ける様になっている。
だが困惑の色が濃く、光樹の指示前は呆然としている者や泣いている者が殆どだった。
漸く自分達で立ち上がり、仲間を肩に担いだりしながら移動し始める。
「僕はここを守るから、出来るだけ離れて!」
光樹は背中にパスリルの民を守りながら、再び動き出した食人植物にぱちんこを向けた。
「…朔也…っ。この先には、絶対に行かせないっ!」
溢れ出しそうな感情を押し殺し、パスリルの民に向かう植物の蔓に火炎弾を放つ。
光樹は一歩も退かず、ぱちんこ一つで食人植物と対峙するのだ。
「…ってぇ…、俺は喰われたのか?…何か、変な感じだな…。」
水の中をフワフワと漂う様な感覚に、ただ翻弄される朔也である。
ふと気付く、前方に懐かしい様な暖かい光。
「何だ、あれ…。ん?何か…知ってる様な…って、俺じゃね?」
自分が浮いているのか沈んでいるのか分からない曖昧な空間に、ただ一つ光りを放つ己の肉体があった。
「あぁ、俺に場所を知らせる為に…ありがとなっ。」
朔也の胸元の蛍火の石は、朔也の意識に身体を渡すとスーッと消えてしまう。力の限界が来たようだ。
「さてと…よし、あっちに風を感じる。」
元々結晶石の魔力は朔也の物であり、この同じ空間にいれば感知は簡単である。
風の力を感じる方へ、飛ぶように流れるように移動していった。
「おっ?あれじゃね?」
朔也の前方に空色の光が見える。
邪魔をする物は何もなく、互いに引き寄せられるように出会った。
「一緒に行こう。」
朔也が手を差し出すと、その手に吸い込まれる様に空色の光は朔也に入っていく。
「やっぱ…、魔力を分離するのは無理があるのかな。」
魔力所持者の血液から出来た蛍火の石も、朔也と共にあって安定していた。
結局力を使い果たして消えてしまったが、この空色の結晶石も魔力所持者から長く離れていては力を維持出来なかった様である。
朔也が風の結晶石を取り込んだ事により、食人植物の暴走はとまり徐々に枯れ始める。そして根元から光の霧が放出され、中に朔也が再形成される。
「朔也ーっ!」
姿を確認した途端、飛ぶ様に走って来た光樹。
「よう。泣かずに待っていたか?」
朔也は抱き着かれながらも、光樹を気遣い優しく話し掛けた。
「…心配したよ…。」
朔也からは表情が見えなかったが、声が震えている。
「泣くなって…、俺よりデカイくせに。ほら、パスリルの皆は?早く行こうぜ、お前の事を心配してるだろうからさ。」
半ば無理矢理促しながら、朔也と光樹は避難したパスリルの民の元へと歩き始めるのだった。




