その34.視線
目の前にしたジルエの湖は大きく、豊かな自然が広がる場所だった。
町も自然を必要以上に侵食する事無く平和的に共存している。
「空気が良いな。」
朔也が深呼吸した。
魔力と自然とは切り離せない関係であり、朔也の体調とも深く関わっている。
「うん。顔色良いね、朔也。どう、他の魔力とかを感じる?」
光樹は魔力の存在を感じる事は出来ないが、自然が魔力に必要なのは理解していた。
「分かんねぇ。俺、他の奴の魔法を見た事ないし。」
朔也は光樹に出会うまで、他人との関わりを避けて来たのである。
「そっか。じゃあ、少し休んでから森の中を捜しに行こうか。」
湖の辺に荷物を下ろすと、果実を朔也に手渡した。
「ありがとう。」
朔也も隣に座り果実を頬張る。
心地好い風が湖を渡って吹いて来た。
「…ここは魔物がいない。静か過ぎる。」
突然立ち上がると、辺りを見回す朔也。
この世界は人間より魔物の数が上回る。
「どういうこと?」
言葉の真意を読み取れなかった光樹は、首を傾げながら立ち上がった。
「…まるで結界の中みたいだ。」
朔也は両腕を大きく広げ、深呼吸する様に瞳を閉じて感覚を研ぎ澄ます。
「あぁ、そういえば…。朔也の風の防御魔法の中にいるみたいだね。」
大小様々な魔物が蔓延る中、結界無しにその場に留まる事は死を意味するのだ。
「…町の中…強い光りを感じる。何だろ…、魔法石か?分かんねぇから行ってみるか。」
ジルエの町に力の存在を感じた朔也は、軽く首を傾げながら光樹に問い掛ける。
「うん、確認しなきゃスッキリしないもんね。」
光樹は、朔也が色々な物事に興味を抱く事が嬉しかった。
ただの力を持つ存在としてではなく、もっと心の深い場所に朔也を置くようになっていたのである。
「小さいけど皆が笑顔な町だね。不思議、こんな町は見た事がない。」
ジルエの町に外見を隠して潜入したものの、過去に見てきたどの人間の町とも違う雰囲気を感じていた。
「何か、嘘っぽいな。」
朔也にはこの町の人間が平和に暮らしている様には見えない。皆が何処か陰のある、作られた笑顔に感じられた。
「そう?平和な感じだけど。あ、ちょっと情報集めてくるね。」
光樹には感じられない微妙な空気間は、朔也に不安を与える。
「…嫌な感じがする。」
はっきりと不安を断定出来ない朔也。
「ごめんなさ…あっ!」
そんな朔也に突然ぶつかってきた人間の子供は、彼を見て大きな声を上げた。
自分の不注意でぶつかったのだが、その拍子に朔也の掛けていた色眼鏡が落ちたからである。
魔力所持者特有の金色の瞳。
視線がぶつかり合い、子供の黒い瞳が揺れた。
「…わりぃな。」
子供の視線に耐え切れず、すぐに腰を曲げて地面に落ちた色眼鏡を拾う朔也。
「魔力所持者っ!」
その子供が発した言葉に、周囲の大人達が振り向く。




