その35.護りの石
朔也は大勢の視線が自分に向いた事に動揺した。
恐怖が沸き上がる。
「朔也っ!」
異変に気付いた光樹が、すぐに駆け寄って朔也の身体を抱きしめた。
サクヤの緊張の余り冷たく硬直した身体に、マント越しとは言え光樹の体温が伝わってくる。
「…何て顔してんの。」
柔らかく微笑む光樹。
朔也が不安のままに見上げた表情は、彼の心を締め付けた。だがそれを跳ね返す様に暖かい笑みを向けたのである。
「…んだよ。」
少し安心した様にいつもの強気な言葉が出た。
「はいはーい、ちょっと通して下さいよっ。」
そして朔也の肩を抱いたまま、人だかりを通り抜けようとする。
「ま、待って下さい。魔力所持者の方ですよね?」
一人の男が声を掛けてきた。
それに答える事無く、二人は町を去ろうとする。
「この町を助けて下さい!」
別の男が叫んだ。
「…何言ってんだ。」
先に反応したのは朔也。金色の瞳を隠さず、その男に鋭い視線を向ける。
「す、すみません。でも…、魔力所持者の貴方にしかお願い出来ないのです。」
男は必死の形相だ。
「…あのね、もう少し詳しく話してくれないかな。」
光樹がマントを取りながら口を挟む。
彼の姿を見た町の人々の反応は様々だ。
「あ…パスリルの…、はい。実は…。」
そして男は二人に話し始める。
このジルエの町は百年程前に、一人の魔力所持者によって護りの石を貰った。
護りの石は巨大な結界を張り、負のエネルギーを弾き出す。外から寄せず、内に在れば飛ばされた。
「…それで?この町を守護する魔法石を破壊する理由が分からない。」
朔也は不満の表情を浮かべたままである。
「少しでも悪い事を考えると、町から弾き飛ばされてしまう。それが恐怖なんだ。」
町の誰かが叫んだ。
「勝手なもんだな。」
怒りよりも蔑みの言葉を漏らす朔也。
「悪い事をしないからこそ、この町が平和でいれるんでしょ?おかしいよ、魔物からも盗賊からも護って貰ってるんじゃないのっ?」
光樹は大きな声で訴えかける。
「それは…そうなのですが…。護りの石が悪とする基準が厳しくなっているのです。」
町の人々には、それだけでない理由があるようだ。
「以前は犯罪と呼べる悪に対して反応していたのですが、最近は故意に他者を転ばすといった軽度な悪戯に対してまで…。」
人々は互いに視線を合わせる。
結界の外に飛ばされれば、すぐに魔物の餌食になるのは予想出来た。
「原因があるだろ。何の理由もなく魔法効果が変化するはずがない。」
魔法石は魔法の塊。一度決定されたら、それ以上変化する事はない。
「…それは…。」
言葉を濁し、人々は真実を語ろうとしなかった。
「何を隠しているんだか分からないけど、僕等には関係ない事だよ。僕等は…。」
突然光樹の言葉を手を広げて制する朔也。
「…魔法石を見せてくれ。」
何かを感じたのか、朔也は町の奥に足を踏み入れる。




