その33.噂
「本当に大丈夫なの?」
心配そうに朔也の顔を覗き込みながら光樹は声をかける。
「あぁ、もう大丈夫だって。次は何処に行くんだ?」
草原を歩く二人は、三日前にスラーの町を出発していた。
「うん、ジルエの湖近くで魔力所持者目撃の噂があったんだよ。中々魔力所持者の噂は真偽の程が怪しいんだけど、一度行ってみようかなって。どう思う?」
光樹の情報網には頭が下がる。
この情報も、先程立ち寄ったスラーの町でいつの間にか聞いてきていた。
「分かった。けど純人類に消されない魔力所持者って、実際どれだけいるんだろうな。」
朔也もまた、生死の縁をさ迷う程の傷を負わされた過去を持つ。
「うん、厳しいね。でも僕は朔也に会えた。しかも、魔力所持者は人間から生まれる。血族間の遺伝を必要としないから絶滅はしない。」
光樹の言葉に迷いはなかった。
今までの経験と知識から出た揺るぎない結論。
「…だな。俺の両親も普通の人間だった。だとすると、生まれる原因があるのか?」
後ろ向きではない考え方である。
「そうだよ、生物は常に進化してきたんだ。初めは異端な存在も、数が増せば正当化される。」
振り向きながら熱く語る光樹に、朔也もふと思った。
「それを恐れた純人類が、抹殺行為をしているとしたらどうだ?自然絶滅ではない、明らかに人工的な…背徳行為以外の何物でもないな。」
朔也は自身の言葉に自嘲する。この世界に道徳が存在しているのだろうか。
「道徳、良いじゃん。僕らに対しては厳しく当たる人間も、彼ら同士では社会を築いているんだもん。それなりに秩序が存在していてもおかしくないよ。」
しかしながら、他種族への排他的精神は容認しがたいものだ。
「俺は人間を滅ぼす気はないぜ。けど勿論、滅ぼされる気もない。その魔力所持者の噂、行ってみる価値はあるんだろ?」
朔也は他の魔力所持者に出会った事がない。興味があるというのか実際の気持ちだ。
「うん、ジルエの湖はここから遠くないし。行こう!」
そして二人は、新たな目的地に向かう。




