その19.同時発動
「光樹はティムを頼む!」
朔也は走りながら叫ぶ。
元より遠距離攻撃タイプの光樹には、ティムのいる場所からでも十分攻撃のサポートが可能だ。
半魔物のティムは、魔物にとっては格好の餌になる。半魔物達は通常の魔物より身体が小柄で、角や牙が小さく弱いからだ。
よって、意識のないティムを放置出来ない。
「分かった、ここからサポートするよ!」
ぱちんこを放ちながら小型の魔物を攻撃する光樹。魔物バルキィが引き連れて来た小型はそれ程数が多くなく、遠距離攻撃でも十分抑える事が出来た。
「風刃!」
青白い風の刃がバルキィに向かって飛んで行く。だが、当たる直前に弾かれた。
「何っ?」
驚く朔也だが、バルキィは自らの身体を回転させて竜巻を起こし始める。
大型故にその力は強大で、周囲の砂を巻き上げて鉄壁のガードだ。
「くそっ、風の魔力が届かない!」
勢いを増して飛んで来る砂や石から目を守る為、朔也は両腕で顔を防御する。それでも時折飛んで来る石に、額や腕を撃たれて顔を歪ませた。
「もっと強い風があれば…ってか、舞い上がる砂が無くなれば!」
先程契約した水の魔力を思い出す。
使用経験がない為に威力等の不明点が多いが、朔也の得意とする風の魔力が効果ないのだ。
新しく攻撃手段を模索しなくてはならない。
「水刃!」
青い水の魔力を刃状に放つ。
だがそれはバルキィの作った竜巻に当たったものの、弾かれる事なく中に吸い込まれていった。
「あれ?」
効果の無さに脱力する朔也。
それでも気を取り直し、勢いを弱めない竜巻に攻撃する為もう一度右手に魔力を集中させる。
「もう一発、水刃!」
先程より大きな水の刃を放った。
次に放たれた青い魔力は、バルキィの竜巻を分断する。
「よしっ!」
思わずガッツポーズの朔也だが、まだ戦闘は終わっていなかった。
竜巻の防御を壊されたバルキィが、その数ある脚を使って物凄い早さで突進して来る。
朔也は即座に水の壁を作り、その場を食い止めようとした。回避は簡単だが、避けてしまえば光樹とティムを危険に曝す事になる。
「水壁!…っ、なんて力だ…っ。抑え切れないっ。」
魔力を振り絞るが、ジリジリと後ろに圧されていく。
防御力で勝てない上に、休む事なくバルキィの次の攻撃がきた。
水の防御壁ごと、朔也を抱え込む様に持ち上げる。
「ぐっ!」
一層強くなる外部からの圧力に、両腕を左右に拡げて堪えなければ魔法壁が壊れそうだった。
バルキィはそのまま長い身体を丸める様に重圧を加えていく。
このまま防御魔法を押し壊し、朔也を食べる気のようだ。
「ぐぅ…、このままじゃ…っ。」
支えるので精一杯の朔也は、魔法壁がビキビキと悲鳴を上げている事に焦りを感じる。
次の攻撃を考えなければ、訪れるのは死。
「風はダメだ…、水も力が足りない…っ。俺は…何が出来るっ?」
他者を護りながら戦う事の厳しさを痛い程感じた。
逃げる事は容易い…が今はその時ではない。
「…くそっ、俺は弱い!不甲斐ないぞ!もっと本気出せっ!」
自分自身に怒りをぶつけ、気持ちから負けてしまっている己の頬を両手で叩く。
そして、開いた瞳に再び強い光が宿った。
「風よ…水よ…、契約の名の下に我に力をっ。風浪水波っ!」
青白い風の魔力と青い水の魔力が絡まるように合わさり、重ねた朔也の両掌から膨れ上がっていく魔法球。
朔也を取り囲む水の防御魔法が割れて弾ける瞬間、うねりを伴った魔法の津波がバルキィ目掛けて襲い掛かった。
その巨体諸とも、小型の魔物を吹き飛ばす。
「風翼!」
支えがなくなった自らの身体を風の魔力で浮上させ、朔也はすかさずバルキィの近くに向かって飛んだ。
吹き飛ばされた魔物達の大半は、既にその動きを完全停止している。
「ちっ…、まだ動いてるよ。最後だ、水刃!」
起き上がろうとするバルキィに、渾身の魔力で巨大な水の刃を放った。
それはバルキィの大きな身体を軽く真っ二つに切り裂く。
先程の魔法の津波により濡れた身体は、バルキィの防御力を著しく落としていたのだ。
「終わっ…た…。」
全ての魔物が停止し、戦闘は終了する。
朔也は魔力の大半を使い果たし、フラフラと大地に降り立った。もはや、溢れ出る程もあった魔力はかけらも残っていない。
肩で息をしながら、遠くに見える光樹に視線を向けた。
「つか…れた…。…やば…、眠い…っ。」
ウトウトしてくる意識を必死に保とうとするが、襲い来る睡魔に勝てない。
魔物は全て停止している為、今のところ危険は感じられなかった。
「…っうか…、俺…光樹を頼りすぎじゃね?…あー、眠っ。」
既に横になり、眠さの余り身体は重くて動かせない。
「魔力…使いすぎた…。そういえば…二種類同時発動なんて…初めて…つか…った…。」
先程の戦闘を思い出し、自分の使用した魔法を思い返した。
そして、そのまま意識を沈めていく。
「はぁ、また寝てる。」
やっと駆け寄ってきた光樹は、またも魔力回復の為に深い睡眠状態に入っている朔也を見て溜め息をついた。
「…けど、幸せそうに寝ちゃって。」
柔らかい寝顔の朔也を見て、怒る気になんてなれない。
そのまま朔也を抱き抱えると、ティムの待つ湖岸まで歩き出すのだった。




