その18.魔法契約
「で、なんでこんな暑い砂ばかりのところを歩いてるんだ?」
一面が砂に覆われたマルッカの砂漠を行く三人。頭からフードを被っているとはいえ、強い陽射しは全くといって良い程に無意味である。
「おいら…もうダメ…。」
その場にパタリと倒れるティム。続いて朔也も座り込んでしまった。
「こんなところで寝たら、あっという間に骨になっちゃうよ?」
光樹だけは案外元気で、立ち止まった二人を促す。さすがに旅慣れているのだろう彼は、砂漠でも体力を温存していた。
「ほら、もうすぐオアシスだから。そこで休憩しよ?」
何とか励まし合いながら、三人はオアシスに向かうのである。
「ぷはーっ、生き返る!」
水場にたどり着いた三人は、一斉に水に飛び込んだ。
身体をひとしきり冷やした後、ふと思い付いた朔也。その場に動かず、瞳を閉じたまま何か集中し始める。
しばらくすると、朔也の周囲を青い光が取り囲んだ。
ふわりと柔らかいその光は、水面から空へゆっくり舞い上がっていく。
「ふぅ…。」
光が消えた後で一呼吸おくと、ゆっくりと目を開ける朔也。
「な…何だよ、見てんじゃねーよ。」
二人の視線が釘付けになっている事に気付き、少し照れながらいつもの強気発言だ。
「凄い綺麗だ、朔也…。」
感動の余韻なのか、目が何処かにいっている光樹である。
「ばーか、気持ち悪いっつうの。」
軽くあしらう朔也は、近付いて来ていた光樹の額を指で弾いてやった。
「サク、魔力!水の魔力!」
瞳を輝かせているティムは、力の流れが見えるようである。
今行ったのは自然界との契約だった。自然の力を少しだけ貰い、自らの能力とする。
「あぁ、ティムには見えたのか。そうだ、水の力を使える様になったんだ。今までは必要なかったけど、あんなに暑い地域もあるんじゃな。これで次からは、水の壁を作って暑さを防げる。」
朔也が住んでいた平原では、水に困ることがなかった。
世界を知る事で知識を広げ、もっと強く成長していくのだろう。
「凄いね、魔法契約。自然の力って、綺麗なんだね!」
我に返った光樹だが、それでも興奮が冷めないはしゃぎようだ。
「初めて見るんだったな。」
呆れた様に笑みを見せる朔也。
本来ならば自らの危険回避のため、誰もいない場所で密かに行う。魔法契約中は外敵に対して無防備になるからだ。
「そうそう見せてやらないからな。」
強気な朔也の発言は、本心を隠すため。
これ程にも当たり前に光樹を信頼している事は、決して認めたくない朔也の意地だった。
「うん、見せてくれてありがとう。」
そんな朔也の気持ちを知ってか知らずか、にこやかな笑顔を返す光樹である。
ティムの方はというと、ずっと朔也にくっついたままで魔力の余波を感じていた。
半魔物のティムにとって、魔力の余波は心地好いものの様である。
「ったく、いつまでもくっついてんじゃない。あまり魔力を浴びると変化するぞ?」
無理矢理引き剥がすと、ぽんやりしているティムの身体を揺すった。
魔物は摩の生き物であり、魔力も同じく摩の性質を持つ。摩は闇であり、陰であり…影であるのだ。
「変化って、どうなるの?」
二人の様子をじっと見ていた光樹が首を傾げ、朔也に問い掛けてくる。
「…魔物は魔力により狂暴化する。」
朔也も自分の力について詳しく知っている訳ではなかった。だがまだ幼い頃に一度、魔力吸収タイプの魔物に出会った事がある。
その頃は今より力を使いこなせず、やたら魔力を放出する事があった。
放出された魔力は純粋であり、それを吸収した魔物は酷くグロテスクに進化したのである。
「魔物と魔力…か。じゃあ、ティムが朔也にすぐに懐いたのもそれが理由かな?」
光樹は、自分に懐かない事をまだ根に持っている様だ。
「…分からないけど、魔物は強い力に惹かれるからな。」
幼い頃から魔力を持つが故に、その命を危険に晒してきた朔也。
魔法になれば対象を攻撃出来るのだが、溢れ出る魔力は餌にしかならない。
「魔法契約してしばらくは…、溢れる魔力を抑えられない。迂闊だった。ティムを危険に曝してしまう。」
揺すられてもなお、酔っ払った様なティム。焦点が定まらず、締まりのない顔をしていた。
「どうしたら治るの?…だらし無い顔して、朔也を困らせるなよ!」
朔也に支えられているティムに対して、苛立ちを覚える光樹である。
「…くそっ、こんな時に…!」
いち早く気付いた朔也が見た先に、脚の複数ついた大型の魔物がいた。
朔也から放出される魔力に寄せられて来たのか、興奮して目の色が変わっている。
「な、何かヤバくない?気が立っている様に見えるけど…。」
光樹はうろたえながらも、その手には武器であるぱちんこが握られていた。
朔也もティムを地面に横たわらせると、左手に短剣を掴んで立ち上がる。
それを合図かの様に大型の魔物バルキィは鎌首を持ち上げ、こちらに飛び掛かって来た。




