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SAKUYA  作者: まひる
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17/52

その17.新たな仲間

 パラサル・タウンから遥か離れた山中。


「相変わらず、良く寝るよねぇ。」


 魔力回復の為に眠り続ける朔也(サクヤ)は、この地に降り立ってから既に二日経っている。


 半魔物は光樹(コウキ)の治療を受け、今では自力で食事をとる事が出来るようになっていた。だが、必要以上に近付いて来ない。


 話し掛けても返答すらなく、寄って行こうとすれば警戒して唸るだけだ。


「はぁ、あの子は治療はさせてくれるけど全く懐いてくれないし…。ここは朔也が風の防御魔法をかけてくれているから、魔物には注意しなくても良くて助かるんだけど…。なんか、僕って…寝ている朔也のお守りばっかりじゃない?」


 独り言の文句をぶつぶつ言う光樹だが、しっかり確保した食料を幸せそうに食べている。


「ん…っ。」


 朔也が小さく呻いた。幼い頃の悪い夢を見て、苦しげな表情をしている。


「最近なかったのに…。もしかして、この子を見て思い出しちゃったのかな。」


 光樹は優しく朔也の頭を撫でてやり、少しでも苦しみが軽くなるように願った。


 最近では朔也の意識がない時に触れても、特別な攻撃を加えられる事はない。


「…んだよ。」


 突然目覚めた朔也と目が合い、思い切り嫌な顔で睨まれる光樹。


 一瞬動きが止まり、すぐに朔也の頭から手を退けた。


「あ…おはよう、朔也。あまり可愛いから触りたくなっちゃった。」


 笑顔で告げる光樹は、強がって見せる朔也の表情が少し柔らいだのに気付いたからである。


 口では強気な態度を崩さないが、瞳の奥に現れる感情が光樹には少しだけ判別出来る様になっていた。


「何をニヤついてんだ、気持ち悪いな。あ、お前も元気になったな。」


 光樹に冷たい視線を向けながら、半魔物に気付くとフワリと笑みを見せる。


「…あ…が…と…。」


 オドオドしながらだが、小さく頭を下げて朔也に礼を告げた。


「お?喋れんじゃん。良いよ、何か放っておけなかったし。俺、朔也。お前は名前ある?」


 普通に会話をする朔也に、光樹は驚きで固まっている。


 自分とはまともなコミュニケーションが取れなかったのにだ。


「おいら…ティム。」


 半魔物ティムは魔物の亜種的な人型で、実年齢は五歳の性別はオスである。人語は元の知能の高さ故、捕獲されてからの一年程で聞き覚えた。


「ティム、何処から来たのか分かるか?俺が連れていってやる。」


 魔物はそれぞれテリトリーがある。生息地域に合わせた進化をしているからだ。


「…分からない。それに帰れてもおいら…、もう…親がいないから…。」


 単独行動の魔物もいる。ティムの種族も、繁殖期以外は単独行動をする魔物だ。


 子育て期間が終了次第、全てが個として活動する。

「何だ、仲間の所に帰りたくないのか?」


 言っていてもおかしな気がする朔也だが、種族同士が集まっていたほうが良い様に思う。


 そういう朔也自身は、光樹に出会う前まで一人で生きてきたのであった。


「おいら、サクと一緒にいたい。」


 ティムの告白に、思わず口を挟む光樹。


「ちょ、ちょっと待ってよ。僕の事を忘れていない?」


 朔也とティムの視線が一度に集まり、少したじろぐ。


「何だ、お前はお前だろ。ティムも一緒じゃ、嫌なのか?」


 不思議そうな表情の朔也は、光樹が不安がっている理由が分からなかった。


「あ…れ?…僕は元から仲間に入って…いるのか。あははっ、何かおかしいやっ。ごめん、勘違い。僕は良いよ、ティムが良ければ。」


 少し顔を赤らめながら笑う光樹。


 逆に朔也は、彼の不安の原因が分かって不機嫌な顔を向ける。


「ばーか。俺が飽きるまで、お前は俺といるって言ってただろ。」


 このやり取りを見ていたティムは、朔也に急に抱き着いてきた。


「コー、嫌い!サク、好き!」


 まるで親にすがる様な行動をするティムは、光樹をライバル視している。


 人間に捕獲されなければまだ、親の愛情を一身に受けているだろう年齢だ。


「だ、ダメだぞ!朔也は僕のだ!イタ…。」


 言った次の瞬間に朔也の拳が頭に落ちてきて、光樹は悲しげに指をくわえる。


「気持ち悪い言い方するなよ。ったく…、お前等が仲良く出来ないなら俺は何処にも行かないからな。」


 朔也としては、新たな仲間になるティムと三人で旅をしたいと思っているのだ。


 光樹と出会い、誰かと一緒にいる楽しさを知ったからである。


「うん、分かった。サクが言うなら、コーと仲良くする。」


 すぐに答えたのはティム。元より彼は自分の立場を悪くすることはしない、賢さと狡猾さを持つ魔物だ。


 魔力を持つ朔也に惹かれているのも事実だが、自分より強い力を持つものに従うのも本能なのである。


「あっ、ずるい!僕の方も、ティムと仲良くするからっ。朔也は皆と一緒だよね。」


 焦って場を取り繕う光樹に、朔也は意地悪そうに笑みを向けた。


「別に、無理する事ないんだぜ?」


 抱き着いたままのティムを片手で引き剥がしながら、挑発的な視線をする。


「だめっ!」


 そんな朔也に飛び掛かるように抱き着く光樹。体格差の為にその勢いで倒れる朔也の頭を手で守りながらも、押し倒す様にして組み敷く形になった。


「ってーな!ばーろー、退けよっ。」


 両手を使って光樹を引き剥がそうとする朔也に、光樹の小さな言葉が届く。


「お願い…、僕を一人にしないで…っ!」


 抱き着かれている為に表情は見えないが、冗談ではない様だ。


「ばーか。お前は、もっと俺を楽しませろよ。…っうか、腹減った。」


 軽く頭をポンと叩くと、ふと気付いた空腹を訴える。二日ぶりに起きた朔也は、まだ食事を済ましていなかった。


「あ、うん。果実を採取してあるから、これを食べてよ。」


 パッと起き上がると、明い表情を見せながら黄色い果実を朔也に差し出す。


 笑顔のポーカーフェースは健在のようだ。


「ありがとな。ティムは食べたか?」


 周囲を気遣う事が自然に出来ている朔也に、光樹は驚きを隠せない。


 自分の方が年上な為か、朔也のこの姿を見るのは初めてだ。


「うん、食べた。けど、美味しくない。おいらは肉が良いな。」


 やはり肉食の魔物である。食べれない事はないのだが、好み的には断然生肉だ。


「まぁな。俺も肉の方が好きだけど…。」


 言葉の途中で光樹に視線が向く。


 急に嬉しくなる光樹だが、あくまで笑顔のポーカーフェースで対応だ。


「うん、いろいろな食べ物をとらないと、栄養が偏っちゃうからね。魔物だって、果実や緑菜を食べるはずだし。好きな物は、好きで結構。けど、嫌いで食べないのは良くないね。」


 光樹は育ちが良い為、栄養に少しうるさいのである。


 半魔物のティムや、幼くして一人になった朔也には難しい事だ。


「だとさ。…まぁ、全部でなくても良いんじゃね?俺も魚は好きじゃないし…。」


 照れ笑いの朔也は、ティムに対して素直な表情をいくつも見せる。


 光樹としては今まで見た事のない朔也の表情に新鮮さを感じつつも、妙に嫉妬心を感じるのを隠せなかった。


「うん、分かった。でも、コーうるさい。」


 ティムは思った事をそのまま口に出す。


「なっ…。」


 笑顔のポーカーフェースもティムには使えない様だ。


 思わず怒りを隠せず、口に出そうになる。


「はぁ…。おい…何気にピリピリすんの、やめてくんないか?俺、人付き合い慣れてないならさ…。あんま面倒だと、嫌になるんだけど。」


 先に口を開いたのは朔也だった。


 仲良くしてほしいのに、どうすれば良いか分からない。自分が原因な気がするけど、解決策が分からないのだ。


「あ…、ごめん。僕がもう少し大人にならなきゃだね。」


 光樹も人との付き合いが久しぶりで、朔也とティムはほぼ初心者。距離感を掴むのが難しい。


「サク、怒った。ごめん。」


 ティムも朔也の感情の波を察した。


「んじゃ、改めてよろしくって事で。な、光樹…ティム。」


 二人が反省したところで、しきりなおす朔也。彼の方が一枚上手なのかもしれない。


「よろしく、ティム。」


「よろしく、コー。」


 強制仲直りさせたとはいえ、満足した朔也はニコッと笑った。


 その笑顔に光樹もティムも嬉しくなる。


 このパーティーの一番の我が儘なムードメーカーは朔也であった。



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