その13.心の傷
もうダメかと思い、光樹は目を閉じる。
瞬間、フワリと落下が緩んだ。痛い程の風が止み、音が戻って来る。
「って…何?」
恐々開いた光樹の視界に入った大きな湖。手を伸ばせば届きそうな、それ程とても近くに水面があった。
「わりーっ、寝てた。」
のんびりした朔也の声が聞こえて、振り向くと光樹の腰の辺りを両腕で掴まえていた。
「さ、朔也っ!」
思わず声が裏返る光樹だったが、目に涙が溜まっている。
「あ、泣いてる。…悪かったな、光樹。」
光樹の涙に驚き、素直に謝る朔也だ。
「もう、本当にダメかと思ったんだから!何を寝ちゃってるのさ!」
怒って喚き散らす光樹の話しを他所に、湖の際にゆっくりと降り立つ。
「はい、到着。あれだろ、人間の住家。」
朔也の指差す先には、頑丈そうな壁に囲まれた集落があった。
「えっ、もう着いたの?あれ…本当だ、あの集落だよ!凄い、朔也っ。」
驚く光樹に、誉められて照れる朔也である。
「ちょい疲れたけど、歩くよりずっと楽だな。まぁ、俺はあの中に入らないから後は任せた。」
朔也は言うが早いか、その場に座り込んだ。
「えっ、ちょっと…。僕一人?」
うろたえる光樹だったが、無理もない。
外見上の違いが明らかなのは、光樹の褐色の肌だった。
肌の白い朔也は、赤銅色の髪と金色の瞳を隠すだけで何とか人の中に入ることが出来る。銀髪と赤色の瞳を持つ光樹は、肌の色まで隠さなければならなかった。
「俺は人間の中に入りたくない。足りない物は自分で手に入れる。お前が行きたいって言ったから、ここまで来てやっただけだ。」
全く動く気のない朔也は、その場に横になって光樹を見ようともしない。
「それはそうだけど…。」
不安そうな光樹の声は、顔を見なくても伝わってきた。
だが実際、二人とも人間が怖い。
今までに受けた心の傷は、そうも簡単に消えたりはしないのだ。
「なんだ…行かないなら、ここから早く離れるぞ。ここじゃあ、おちおち昼寝も出来ない。」
朔也は飛び起きる様に立ち上がると、集落とは正反対の方角に歩き始める。
「あ、待ってよ!」
つられて歩き出す光樹は、集落の方を幾度も振り返りながら朔也の隣に並んだのだ。




