その14.切り札
「ねぇ、朔也。何処に行くの?」
歩き続ける朔也に問い掛けた。
集落と反対方向に彼此半日程進む。
「知らん。何となく、こっちなだけだ。」
朔也にしてみれば、人間の集落から離れたかっただけなのだ。
「ちょっと、それじゃ…。」
思わず立ち止まる光樹に、朔也は不機嫌な表情を向けてくる。
「何だ、行く当てがあると思ったのか。前にも言ったが、俺は世界を見たことがない。」
胸を張って告げる朔也に、苦笑いの光樹だ。
「それなら、朔也は何が見たい?」
地図を広げながら、目的地を確認する。
広い世界を歩くには、目的を決めることが先決だった。無駄な動きは、命取りになる。
「…海。辛いと聞いた事のある、海を見たい。昔、両親が言っていた。」
朔也の記憶に蘇る、優しい両親の笑顔。
「うん、分かったよ。じゃあ、進む道は太陽の沈む方向だね。」
光樹の指差す先には、少し沈みかけた太陽があった。
元より、光樹の目的は種族の復興である。それの為には、生き残る同族を捜すことだ。
上手く朔也を手なずける必要がある。
「太陽が沈む先だな。飛ぶか?」
右手に白い風の魔力を集める朔也に、慌てて両掌を振って断る光樹だった。
「遠慮しておくね。それに、朔也は魔力を使い過ぎるよ。もっと身体を鍛えて、魔力は最後の切り札にしなきゃ。」
朔也の存在を公にはせず、光樹にとっても切り札にしたい。
「そうか?俺は別に問題ないけどな。」
腑に落ちない朔也ではあるが、体力に自信がないのは事実だ。
「魔力は緊急時以外使用しないこと。」
指を立てて告げる何故か説教っぽい光樹に、あからさまに嫌な表情を見せる。
「んだよ…。何かイラッとするな、お前。」
朔也の機嫌が悪くなった為、言い方を変える事にした。
「まぁ、朔也は強いから魔力無しでも大丈夫だよね。僕も朔也みたいに、もっと強くならなきゃ!教えて欲しいくらいだよ。」
褒めちぎる光樹に気を良くした朔也は、胸を張って鼻の下を触る。
「まぁな。仕方ないから、俺の剣の腕を見せてやる。けど、お前に言われたから魔力を使わないんじゃないからなっ。」
光樹に指差しながらも、御機嫌な朔也だった。
嬉しそうに前を歩き始める朔也に、ホッと胸を撫で下ろす。
「お子様で良かったよ、扱いが単純で…。」
思わず口から出た本音に、全く気付いていない朔也。
光樹は少しだけ舌を出すと、再び気を引き締めるのだった。




