その11.地図
「…あ~、疲れた。」
突然光樹を押し退け、髪を掻き上げる朔也。
既にいつものふてぶてしい態度で、金色の瞳には鋭い光が宿る。
「あらら、完全復活だね。何か食べる?魚もそろそろ焼けるよ。」
少し残念そうな光樹だったが、焚火に向かって魚の焼き具合を確認した。
「魚は嫌いだ。俺は干し肉で良い。」
朔也は自分の革袋から保存食を取り出す。
「こら、魚も食べないと大きくなれないぞ!」
それに対し光樹は、焼き魚を朔也の顔の前に突き出した。
思い切り不機嫌そうな顔の朔也に怯まず、もっと力強く魚を突き出す。
「んだよ、いらねーって。」
光樹の手を払い退けはしないが、口調が荒くなってきた。
「好き嫌いを言っていたら大きくなれないぞ。朔也は小さいんだから、もっと何でも食べなきゃダメだよ。」
無理矢理朔也の手に魚を持たせ、そのまま口に運ぼうとする。
「やめっ…、自分で食べる!」
光樹のあまりの強引さに、仕方なく焼き魚に口をつけた。
「…何だよ、食ってるだろ。」
上目遣いで視線を送る朔也に、じっと見ていた光樹は満足そうに微笑む。
「うん、美味しいでしょ?」
笑顔の光樹に、朔也は不機嫌そうに無言で魚を食べるのだった。
「明日はもう少し距離を進みたいね。」
食事も終わって横になっている朔也に、光樹は持っている地図で目的地を探している。
手書きで描かれた地図には、光樹自身が今までに辿ってきたであろう世界があった。
「ふうん、この大地は広いんだな。」
起き上がった朔也は地図を覗き込みながら、自分が知っている場所を探そうとする。
だが知っている世界は小さく、その地図に指をかざしたら見えなくなってしまう程だった。
「…お前、ここに描いてある場所は全て行ったのか?」
地図には、いくつもの島と集落が書き記されている。
「うん、行った場所を書き記してるのさ。ここみたいな寝所もいくつも探したりさ。」
そして今いる場所を指差した。
「で、ここが目指す集落だよ。」
次に指差した先は、現在地から指三本分離れた場所である。
「…結構遠いな。」
うんざりした顔で朔也が答え、再びその場に横になった。
「まぁね。けど、すぐだよ。僕はずっと一人で旅をしてきたんだ。楽しいよ、旅って。」
笑顔で話す光樹だったが、朔也は見向きもしない。
横たわって瞳を閉じたまま、片手を振って見せた。
「わーったよ。とにかく俺は寝る、静かにしてくれ。」
朔也はそのまま本当に寝入ってしまう。
「本当に良く寝る子だよ。」
光樹は朔也の横に寝転がった。
「朔也が自分の事を話してくれたから…、僕もいつか…話さな…きゃ…。」
眠りに吸い込まれていく光樹。
少しずつ二人の距離が近付くが、進む道は何処に続いているのだろうか。




