第7話 命の値段札(プライスタグ)
搬入口から続く廊下は、病院よりも白く、静まり返っていた。
俺と源寺は、清掃業者の作業服を着て、俯き加減で歩を進める。
「いいか鉄、絶対に顔を上げるな。ここの監視カメラは『視線』の動きで不審者を検知する」
源寺が唇を動かさずに囁く。
すれ違うのは、無表情なアンドロイドの看護師たちだけだ。
彼女たちは人間を乗せたストレッチャーを運んでいるが、その人間たちは皆、ピクリとも動かない。麻酔か、あるいは既に――。
「……おい、ここへ入れ」
源寺がセキュリティロックを解除し、ある部屋へと俺を引きずり込んだ。
そこは、『保管庫』と呼ばれる場所だった。
俺は息を呑んだ。
そこはまるで、高級ブランドのショーケースだった。
壁一面のガラスケースの中に、「それ」は飾られていた。
特殊な培養液に浸された、人間の腕。足。眼球。内臓。
どれもが生々しいほど健康的なピンク色をしていて、微かに脈打っている。
だが、俺が吐き気を催したのは、その下につけられた「キャプション(説明書き)」だ。
『商品名:労働階級の右腕』
『特徴:長年の肉体労働により形成された、強靭な筋肉密度。ハイパワーなAIボディに最適』
『価格:8,000,000 Credits』
「ふざけ……るな……!」
俺の声が震えた。
労働階級の右腕? 強靭な筋肉?
それは、俺たちが毎日、歯を食いしばって、家族を食わせるために酷使してきた証だ。
それがここでは、金持ちのAI坊ちゃんが「力持ちごっこ」をするための、高級パーツ扱いかよ。
「落ち着け、鉄。感情的になったら負けだ」
源寺が俺の肩を強く掴み、端末を操作する。
「在庫リストから翔太の識別番号を探す……」
「おい鉄…あったぞ…」
画面に表示された文字を見て、源寺の表情が凍りついた。
「……どうした、源寺。翔太はどこだ」
「ここにはいない。もう『出荷』されてる」
源寺が画面を指差す。そこには赤字で、こう記されていた。
『ステータス:接合手術中』
『納品先:最上階 特別室(VIPスイート) / クライアント:大統領令嬢・AIアリス』
頭の中で、何かが弾ける音がした。
手術中。
つまり今、この瞬間に、翔太の体は誰かのものになろうとしている。
「最上階だ」
俺はカッターナイフの刃をカチリと出し、作業服のポケットに突っ込んだ。
「行くぞ源寺。その『アリス』とかいうお嬢様の着せ替え人形になる前に、息子を取り返す」
俺たちの足音だけが、死んだように静かな廊下に響いた。
タイムリミットは、刻一刻と迫っていた。
続く




