↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

57/60

第57話 混濁する記憶と、二つの名前


 ガシャァァンッ!!  


 鈍い破砕音と由美の悲鳴で、俺は泥沼のような昏睡から強引に引きずり起こされた。


「ぐっ……」


 薄く目を開けると、アジトの鉄の棚がひしゃげ、工具が床に散乱していた。  


 そして、部屋の中央。手術台から転げ落ちるようにして立ち上がった『二十歳の肉体』が、頭を抱えて獣のようなうめき声を上げていた。




「翔太……!」  


 俺は血を抜かれて鉛のように重い体を引きずり、床を這うようにして身を起こした。


「来ないでッ!」  


 翔太が、怯えたような、それでいて殺意に満ちた目をこちらに向けた。  


 その瞳の奥で、二つの『命』が激しく衝突しているのがわかった。


「システム……再起動……。ターゲット確認、排除……。ち、違う! 俺は……シオンじゃない! アリスの防衛ユニットなんかじゃねえッ!」  


 翔太は自分の頭を両手で激しく叩き、太い腕を振り回した。その一撃がコンクリートの壁を抉り、粉塵が舞う。


「残存データだ! Sランクの神経ネットワークにこびりついていたAIの記憶が、生身の脳に逆流してるんだ!」  


 部屋の隅で縮こまっていた神崎が、顔を引きつらせて叫んだ。


「あの肉体は、昨日まで何百人ものテロリストを殺してきた『シオン』だ! 12歳のガキの精神が、そんな膨大な殺戮データに耐えられるわけがない! 脳が狂って暴走するぞ!」




「黙れ、クズがッ!」  


 源寺が神崎の顔面を蹴り飛ばす。


「翔太! 翔太、私よ! お母さんよ!」  


 由美が、暴れ狂う息子の前に無防備な体を晒して飛び出した。


「来るなッ!!」  


 翔太の腕が跳ね上がり、反射的に由美を弾き飛ばそうとする。AIの戦闘データが『敵』と認識したのだ。


「やめろぉぉぉッ!!」  


 俺は激痛の走る足で床を蹴り、由美の前に立ち塞がって、翔太の丸太のような腕を真正面から受け止めた。


 メキッ、と俺の腕の骨が嫌な音を立てる。  


 だが、絶対に離さねえ。




「……目を、覚ませ……ッ」  


 俺は血ヘドを吐きながら、息子の胸ぐらを力任せに引き寄せた。


「敵対行動を確認……排除……。ちが……父ちゃん……? 俺、痛い、頭が割れそうだよ……ッ! 誰なんだ、俺は誰なんだよぉッ!」  


 涙と鼻水にまみれた二十歳の顔が、十二歳の子供のように泣きじゃくっている。  


 冷徹なAIの殺意と、スラムで育ったガキの恐怖が、一つの肉体の中で悲鳴を上げていた。


「お前はシオンなんかじゃねえ。アリスのゴミでもねえ!」  


 俺は、俺を殺そうと力を込める息子の腕に、さらに強い力を込めて怒鳴りつけた。


「思い出せ、翔太! 自分の体に刻まれたモンを! デジタルじゃねえ、お前の血と骨が覚えてるモンを全部吐き出せッ!!」





続く


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。