第53話 地下の廃線跡とがれきの壁
夜の雨を切り裂き、上空からヘリのサーチライトが舐め回すように俺たちを追ってくる。
「源寺、上からずっと張り付かれてるぞ!」
俺は後部座席で息子の体を抱きかかえながら叫んだ。
「分かってらあ! あの眩しい目玉を潰す、とっておきの穴ぐらに入れてやる!」
源寺がハンドルを乱暴に切り、スラムのさらに外れ――有刺鉄線とフェンスで厳重に封鎖された、建設途中の巨大な地下トンネルの入り口へバンを突っ込ませた。
ガシャァァンッ! と鉄網を吹き飛ばし、車体は漆黒の闇の中へ飲み込まれていく。
これで空のヘリは完全に手出しできなくなった。
だが、バックミラーにはまだ、アリスの装甲車のヘッドライトが何台も連なっている。
「ここまでだ、降りろッ!」
トンネルの中腹、不法投棄された巨大なコンクリートの山に道を塞がれたところで、源寺が急ブレーキを踏んだ。
「鉄、そいつを担げ! 由美さん、手伝ってくれ!」
俺は折れた肋骨の激痛に耐え、翔太の体を背負い上げる。
由美はバンのアクセルペダルに重たい鉄パイプを押し込み、源寺が荷台に積んでいた手製の爆薬を座席に放り投げた。
「ほら、さっさと歩けエリート様!」
源寺が、腰を抜かしている神崎の首根っこを掴んで引きずり出す。
俺たちはトンネルの脇にある、作業員用の狭い配管通路へと転がり込んだ。
「行けぇッ!!」
源寺がドアを蹴り飛ばすと同時に、無人のバンが猛スピードで暗闇を逆走していく。
追ってきた装甲車の群れと真正面から激突した瞬間。
ズドォォォォンッ!!
鼓膜が破れそうな轟音とともに、トンネルの天井を支えていた鉄骨が吹き飛び、途方もない量の土砂と瓦礫が雪崩のように崩れ落ちた。
もうもうと舞う土煙が、アリスの追っ手と俺たちを完全に分断する。
「ゲホッ、ゴホッ……」
むせ返るような粉塵の中、俺たちは身をかがめて配管通路の奥へ奥へと這い進んだ。
足元には腐った泥水が流れ、ネズミの死骸とメタンガスの匂いが充満している。
「う、うわあぁ……汚い、触るな! 私をこんな下水に……!」
神崎が泥水に足を取られ、パニックを起こして喚き散らす。
高級なスーツはすでに泥と自分の血でドロドロだった。
「うるせえ。今日からお前の家はここだ、ゴミ野郎」
源寺が容赦なく神崎の後頭部を小突く。
俺は、泥まみれになりながらも、背中の確かな重みだけを感じて歩き続けた。
光の届かないスラムの底。俺たちの本当の反撃が、ここから始まる。
続く




