第52話 廃棄された幹部と炎の爆走
地下駐車場の重たい空気の中に、耳障りな電子音が響き渡った。
エレベーターの扉が開いた瞬間、俺たちが目にしたのは、整列して銃を構えるアリスの私兵部隊だった。
「撃つなッ! 私だ、最高幹部の神崎だぞ!」
源寺に襟首を掴まれ、盾として前に引きずり出された神崎が、裏返った声で叫ぶ。
だが、私兵たちの銃口は微動だにしない。それどころか、天井のスピーカーから、冷徹な機械音声が流れ出した。
『――通告。最高幹部・神崎は、テロリストへの内通の疑いにより、全権限を剥奪。市民権を抹消した』
「な……何を言って……」
『ターゲットはテロリスト三名、および回収対象のSランクパーツ。神崎ごと、車両を焼き払え。爆破を許可する』
神崎の顔から、一気に血の気が引いた。
自分が信奉していたシステムに、ただの肉の盾としてあっさり切り捨てられたのだ。
「……あは、ハハハ! ざまあねえな、エリート様よぉ!」
源寺が吐き捨てるように笑い、へたり込んだ神崎の首根っこを掴んで、用意していたバンへと乱暴に引きずっていく。
「鉄、乗れッ! 死ぬ気で捕まってろよ!」
俺は翔太の体を抱きしめたまま、鉄板を継ぎ接ぎした化け物みたいなバンの後部座席に飛び込んだ。
由美が神崎を荷台へ蹴り飛ばし、ドアを閉めるのと同時に、背後で激しい爆発音が轟いた。
ズガァァァンッ!!
私兵たちが放ったグレネードが、駐車されていた高級車を次々と吹き飛ばす。
炎の波が迫る中、運転席の源寺がアクセルを底まで踏み抜いた。
「らぁぁぁッ!!」
タイヤが悲鳴を上げ、白煙を撒き散らしながら車体が急発進する。
出口を塞ごうとする装甲車の群れを、源寺はスピードを落とさずに強引に跳ね飛ばした。
鉄と鉄がぶつかり合い、火花が夜の地下を照らす。
地下駐車場を突き破り、雨の降る夜の街へと飛び出した。
だが、バックミラーには、アリスの追跡車両が何台も連なっているのが見える。
ヘリのサーチライトが、上空から俺たちを逃さじと照らし続けていた。
「鉄さん、しっかり抱えてて!」
由美が割れた窓から身を乗り出し、追ってくる車のタイヤを狙って奪い取った拳銃が火を噴く。
俺は、激しい振動に耐えながら、腕の中の温もりを必死に守る。
「……クソったれが」
血を吐き、俺は笑った。
最高幹部も、神崎も、アリスの権威も、今はただの燃えるゴミだ。
俺たちが持っているのは、たった一つの、泥にまみれた本物の命だけだ。
「源寺、全開で行けッ! スラムの底まで、一気に振り切るぞ!」
続く




