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第5話 天国の不法投棄者(ゴミ)


 レインボーブリッジの検問所は、巨大な光の壁だった。  


 ここから先、「港区・ネオ台場」特別居住区。  


 選ばれた富裕層と、管理されたAIだけが住むことを許された、屋根付きの人工楽園。


 俺と源寺が乗ったボロい電気バンは、検問の手前で減速した。  


 雨はまだ激しくフロントガラスを叩いている。


「おい源寺、大丈夫なんだろうな。俺たちは指名手配犯予備軍だぞ」


「安心しろ。俺のハッキングは、セキュリティを破るんじゃねえ。『誤認』させるんだ」


 源寺がニヤリと笑い、手元のタブレットを操作した。  


 検問所のレーザースキャナーが、俺たちのバンを舐めるように照射する。


 赤い警告灯が一瞬光り――すぐに緑色に変わった。  


 ゲートが重々しく開く。


『認証完了。種別:Cランク廃棄物運搬車両。通行を許可します』


「……廃棄物だと?」


「そうだ。この街に入れるのは、金持ちか、または『金持ちが出したゴミ』を回収する業者だけだ」




 源寺がアクセルを踏み込む。


 バンがゲートをくぐり抜けた瞬間、世界が変わった。


 叩きつけていた雨音が、嘘のように消えた。  


 空を見上げると、そこには星空を模した巨大な「ドームスクリーン」が広がっている。  


 気温は快適な24度に保たれ、空気からは微かにラベンダーの香りがした。


 これが、三億円の世界か。  


 俺の工場のような油の匂いも、生活の汗臭さも、ここにはない。  


 何もかもが白く、ツルツルとしていて、死ぬほど綺麗だ。


「気持ち悪い街だ」


「同感だな。人間味がなさすぎて吐き気がする」


 源寺はハンドルを切りながら、路肩のデジタルサイネージ(電子看板)を指差した。  


 そこには、幸せそうなAI家族の映像と共に、こんな広告が踊っていた。




『理想の子供は、理想のパーツから。アフロディーテ・クリニック』


 俺の奥歯が、ギリリと鳴った。  


 このふざけた楽園のどこかで、翔太の体が生きている。  


 俺の息子は、この綺麗な世界を維持するための「部品」にされたのか。




「見えてきたぞ、鉄」


 源寺の声が低くなった。  


 ネオ台場の中心部。ひときわ巨大な、白亜の神殿のようなビルがそびえ立っている。  


 ビルの周りには、武装した警備ドローンが蜂の群れのように旋回していた。


「要塞だな。正面突破は自殺行為だ」


「だろうな」


 俺は作業服のポケットから、印刷用の「カッターナイフ」を取り出し、刃をカチカチと出し入れした。  


 武器はこれ一つ。あとは、泥にまみれたこの体だけだ。


「源寺、搬入口に回れ。ゴミ回収車として堂々と入る」


「おいおい、捕まるぞ」


「構わねえよ。どうせ俺たちは、奴らにとっちゃ『粗大ゴミ』だ。ゴミがゴミ捨て場に入って何が悪い」


 俺の言葉に、源寺は一瞬きょとんとし、それから今日一番の悪党面で笑った。


「違(ちげ)えねえ。極上の毒入りゴミを、上級国民様の喉元にねじ込んでやろうぜ」


 ボロのバンが唸りを上げ、白亜の要塞へと突っ込んでいく。  


 インクの染みついた俺の手が、綺麗なハンドルを強く握りしめた。


 待ってろ、翔太。  


 お前の親父は、少しばかり行儀が悪いぞ。






続く

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