第49話 偽りの親を狙う凶器と、親父の経験
殴られ続ける俺の顔から、血が床にしたたり落ちる。
このままじゃ、息子の体に殺される。そう覚悟した時だった。
「ああもう、じれってえな!」
源寺が血まみれのスパナを床に叩きつけ、わざとらしく大きな声をあげた。
「鉄が殴り返せないなら、元を絶つしかねえだろ!」
源寺の血走った目が、部屋の奥で震えるAI夫婦をにらみつける。
「おい、偽物の親玉! お前らがくたばれば、その人形も動けなくなるんだろ!」
「ひっ……!」
AIの母親が悲鳴をあげ、夫の背中に隠れる。
源寺が、巨体を揺らしてAI夫婦に向かって突進した。
殺す気じゃねえ。長年つるんできた俺にはわかる。
あれは、翔太の気を引くためのデカいハッタリだ。
「やめろ! シオン、助けて!」
AIの叫び声に、俺を殴りつけようとしていた翔太の体が、ピタリと動きを止めた。
そして、源寺から親を守るため、大きく後ろへ飛び退こうと重心をズラした。
「……そこだッ!」
力じゃ勝てねえ。だが、あいつのその足運びは、俺が昔叩き込んだ防御の型そのものだ。次にどこへ体重が乗るか、手に取るようにわかる。
俺は痛む足にムチを打ち、息子の体が動くほんの一瞬前、その足元へ低く滑り込んだ。
スパーンッ!
俺の足ばらいが見事に決まり、バランスを崩した息子の体が宙を舞う。
俺は自分の体重をあずけるようにして、そのまま一緒に大理石の床へと転がり込んだ。
ドガンッ、と鈍い音が響く。
「ガガッ……ピー……」
無機質な頭部が床に打ちつけられ、嫌なノイズ音が鳴る。
俺はその隙を見逃さず、冷たい『機械の頭部』だけにガッチリと腕を巻きつけ、首の関節をロックした。
「おらッ! 動くな、ポンコツ頭!」
生身の体には一切ふれず、機械のパーツの動きだけを封じ込める。
力ずくの勝負じゃない。親父の経験と意地で奪い取った、ギリギリのマウントだ。
床に組み伏せられた息子の体は、俺をはねのけようと激しく暴れる。
だが、急所である首のジョイントを固定されているせいで、うまく力が入らない。
由美は神崎の首にナイフをあてたまま、震える声で俺たちを見守っている。
息子の体を傷つけずに、どうやってこの頭の機能を止めるか。
反撃の糸口は、確実につかんだ。
続く




