第46話 神崎の拍手と、仕組まれた絶望の罠
俺が力なく丸鋸の電源を落とし、由美が絶望の涙をこぼした、その時。
パチ、パチ、パチ……。
静まり返った美しい部屋の奥。
重厚な木製の扉がゆっくりと開き、わざとらしい、見下すような拍手の音が響き渡った。
「いやはや、素晴らしい。実に感動的な『家族の再会』じゃないですか?」
姿を現したのは、純白のスーツを身に纏い、顔に醜悪な薄ら笑いを張り付けた神崎だった。
「神崎……てめえッ!」
源寺が怒声と共に血まみれのスパナを構えるが、神崎は全く動じる様子を見せない。
むしろ、俺たちの絶望しきった顔を見て、心底愉快そうに肩を揺らして嗤った。
「ここまで這い上がってきた執念には敬意を表しますよ、底辺のネズミ共。ですがね、少し頭を使えば分かるでしょう? 私が何の準備もせずに、あなた方を最上階へ招き入れるはずがない」
神崎は、翔太の体に守られるように縮こまっているAIの夫婦へ、芝居がかった手つきで視線を向けた。
「このAI市民の方々は、普段は政府の特別保護区に住んでいるVIPだ。それをわざわざ、今日この日にアリス本社へお招きしたんですよ。あなた方の心を、完全にへし折るためにね」
その言葉の意味を理解した瞬間、俺の全身からスッと血の気が引いた。
最初から、仕組まれていたのだ。
俺たちが息子の体を取り戻すため、血反吐を吐きながらここまで昇ってくることすら、神崎の手のひらの上だった。
神崎は俺たちを殺すためではなく、『心』を壊すためにこの部屋を用意したのだ。
「さあ、見せてくださいよ『狂犬』さん。息子の体を切り刻んででも、そのくだらない復讐を遂げるのか。それとも、新しい親を守る息子の姿に絶望して、ここで無様に犬死にするのか」
神崎の胸くそ悪い嘲笑が、部屋の空気を腐らせていく。
翔太の体は、俺たちからAIの夫婦と神崎を守るため、依然として俺が教えた鋭い喧嘩の構えを崩していない。
進むことも退くことも許されない、完全なる地獄。
由美は顔面から血の気を失い、震える手から短刀を落としそうになっている。
俺は、力なく下ろした丸鋸の柄を、手のひらから血が滲むほど強く、強く握り締め直した。
続く




