第37話 終着駅で待ち受ける鋼鉄の番犬と神崎の嘲笑
轟音を立てて闇の中を疾走していた重装甲車両が、鼓膜を破るようなブレーキ音と共に速度を落とし始めた。
「……着くぞ。アリス本社の地下最深部、資源搬入用の終着駅だ」
源寺が計器から顔を上げ、血走った右目で前方を睨みつける。
俺は血に濡れた丸鋸を両手で握り直し、由美は音もなく黒い皮のコートを翻して、撃鉄を起こしたリボルバーを構えた。
翔太の脳髄が解体されるまで、残り五十三時間。
重い空気圧の音と共に、分厚い鋼鉄の扉が左右に開く。
だが、俺たちが飛び込もうとしたその先――巨大な地下搬入口には、作業員の姿も、警備の兵士の姿すら一つもなかった。
ただ、不気味なほどの静寂と、完全な暗闇が広がっているだけだ。
「……おかしいわ。静かすぎる」
由美が鋭い視線を闇へ向け、皮のコートが微かに軋んだ、その瞬間だった。
カッ!!
無数の強烈な照明が一斉に点灯し、車両の中にいる俺たちの目を容赦なく焼き払った。
「ぐあっ……!」
「――やはり、ネズミの浅知恵などその程度ですか?」
目が眩む光の奥から、天井の拡声器を通じて、あの神崎の冷酷な嘲笑が響き渡った。
「スラムの屑鉄拾い如きが、我がアリスの物流網を出し抜けると思いましたか。貴様らがその車両の屋根を焼いた時点で、全ては把握済みです」
「神崎……ッ!! 貴様ァァ!!」
俺が怒号を上げた直後、暗闇の中から複数の「重い足音」が車両へと近づいてきた。
人間のそれではない。
硬質な金属がコンクリートを砕く、異様な重量感を持った足音だ。
「あの機体(翔太)の脳髄を摘出する前に、丁度良い実験台が欲しかったところだ。……私が直々に調整を施した、初期型の防衛用機械兵の性能、貴様らの血肉で測らせてもらおう」
光の逆光の中、四つの巨大な影が車両の入り口を塞いだ。
それは、全身を分厚い鋼鉄の装甲で覆われ、右腕に巨大な粉砕機を内蔵した、首のない異形の機械兵たちだった。
赤い単眼のレンズが、無機質に俺たちを見下ろしている。
「……チッ、待ち伏せかよ。だが、逃げ場のない狭い箱の中なら好都合だ」
源寺が舌打ちし、背負っていた工具袋から無骨な『鉄の筒』を引き抜いた。
それは太いチューブで、源寺が背負っている小型の圧力ボンベへと繋がっている。
「鉄! こいつらの関節を狙え!」
源寺が筒の引き金を引くと、高圧のポンプが作動し、水鉄砲のように『ドロドロの濁った液体』が勢いよく噴き出した。
それは、印刷屋の製本で使う強力な接着剤を、源寺がスラムの廃液で極悪に配合した『特製の瞬間接着剤』だ。
ベチャッ!!
狭い車内で逃げ場を失った先頭の機械兵が、頭からその粘着液をモロに浴びる。
無機質な赤い単眼レンズが由美を捉え、右腕の巨大な粉砕機を振り下ろそうとした、その瞬間だった。
――ガガッ……ギギギギギッ!!
不快な金属音と共に、機械兵の動きが完全に停止した。
膝と肩の駆動部に流れ込んだ超強力な接着剤が、内部のギアを噛み合わせごと完全に固着させたのだ。
どれほど分厚い装甲で覆われていようと、動けなければただの巨大な鉄クズでしかない。
「……もらったわ」
獲物を狙う狂犬のように皮のコートを軋ませ、由美が床を滑るように前へ出た。
完全に固まって無防備になった機械兵の胸部――赤い単眼レンズが不気味に光る装甲の隙間に、リボルバーの銃口を容赦なくねじ込み、一切の躊躇なく引き金を引く。
鼓膜を破る銃声と共に、単眼レンズが内側から弾け飛び、火花とオイルが噴き出した。
動けなくなった巨大な鉄クズに向かって、親父の怒りを込めた狂暴な咆哮と共に正面から激突し、その硬い装甲ごと真っ二つに斬り裂いた。
続く




