第36話 闇夜を裂く鋼鉄の輸送車両に三人の狂犬が牙を剥く
冷たい雨が打ち付けるスラムの廃棄物処理区画。
源寺が組み上げた傍受機が、敵の物流網の暗号を暴き出したのは、翔太の脳髄が解体されるまで残り五十五時間を切った夜更けだった。
「……見つけたぜ。今夜の午前二時、スラムの地下工場から本社の最深部へ直通する、資源搬入用の重装甲車両が走る」
血走った目で地図を睨みながら、源寺が低く笑う。
「外部からの侵入は不可能だが、あの分厚い装甲の『中』に入っちまえりゃ、そのまま神崎のいる本社の心臓部まで一直線だ」
「だが、走る鋼鉄の塊にどうやって乗り込む?」
俺の問いに、源寺は地下へと続く薄暗いトンネルの入り口を指差した。
「車両が地下へ潜る直前、速度を落とす場所がある。……あの上を通る、低い配管だ」
午前二時。
土砂降りの雨の中、俺たちはトンネルの真上を這い回る、錆びついた極太の配管の上に身を潜めていた。
屋根までの落差は、およそ二メートル。
飛び降りれば、折れた肋骨がただでは済まない高さだが、今の俺たちにはそれが、神崎の喉首に届く唯一の、そして最後の道だった。
俺の隣では、黒い皮のコートを着た由美が、静かに回転式拳銃の弾倉を回している。
雨を弾く皮のコートが、獲物を狙う狂犬のようにギュッ、と軋んだ。
地響きと共に、巨大な黒い影が姿を現す。
敵の紋章が刻まれた、鈍い光を放つ重装甲車両だ。
「来るぞ……今だッ!!」
源寺の合図と同時に、俺たちは二メートル下の鋼鉄の屋根に向かって一斉に飛び降りた。
ドォンッ!!という激しい衝撃が全身を貫き、折れた肋骨が悲鳴を上げたが、構っている暇はない。
俺は轟音を立てて走る車両の屋根に這いつくばり、腰から、由美が闇市で手に入れてきた小型の『ガス溶接機』を取り出した。
――ガァァァァッ!!
雨の中、バーナーの青白い炎が、屋根にある整備用ハッチの蝶番に集中して叩きつけられた。
激しい火花と蒸気が夜の雨を弾き飛ばし、分厚い装甲板がドロドロに溶け始める。
丸鋸じゃ斬り裂けなくても、職人の手にかかれば、鋼鉄だってバターのように焼き切れる。
「……こじ開けるぞ!」
十分な時間が経った頃、俺はバーナーを投げ捨て、溶けて赤熱したハッチの隙間に丸鋸の柄をねじ込むと、親父の執念と腕力で強引にこじ開けた。
「行くわよ」
俺が声をかけるより早く、由美が黒い皮のコートを翻して、その狭い穴から車両の内部へと飛び込んだ。
「な、なんだ貴様らっ!?」
車両内部で警備に当たっていた三人の武装兵が、突然の侵入者に銃を構える。
だが、遅い。
由美は最も近い兵士の懐に滑り込み、銃を持つ手首を逆に極めてへし折った。
「ぎゃああっ!」
絶叫が上がる中、由美は奪い取った小銃を盾にして次の兵士の顎下へ滑り込み、容赦なく銃の台尻を叩き込む。
その無駄のない残虐な動きは、完全に裏社会の狂犬そのものだった。
「……悪いが、急いでるんだ」
遅れて穴から飛び降りた俺は、血の海に倒れ伏す兵士たちを見下ろし、丸鋸の血糊を振って落とした。
源寺も背後に着地し、すぐに車両の制御盤へと走る。
「よし、制圧完了だ。このまま本社の地下まで乗り切るぞ!」
走る密室の中で、三人の狂犬はついに敵の懐深くへと牙を突き立てた。
翔太の命が消えるまで、あと五十四時間。
俺たちの血みどろの特急券は、もう誰にも止められない。
続く




