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第24話 決死の逃風と砕けた要塞


 ドゴォォッ!!  容赦なく振り下ろされた翔太の拳が、再び俺の肩口を砕いた。


「がはッ……!」  


 視界が明滅し、口から止めどなく血が溢れる。  


 俺を殺そうとしているのは、憎き神崎ではない。俺と由美の血を分けた、愛する息子の肉体だ。  


 防ぐことも、反撃の丸鋸(まるのこ)を振るうこともできない。このままでは、俺は息子の手で殴り殺される。


「鉄!! 退けェッ!!」  


 源寺の怒声と共に、青白い閃光が部屋を包み込んだ。  


 奴が放った特製の電磁衝撃だ。バチィッという鋭い音と共に、翔太の首に繋がれた機械の頭部から火花が散り、その動きがほんの数秒だけ停止した。


「今だ、逃げるぞ! 早く立て!」  


 源寺が俺の襟首を掴んで引きずり起こす。背後では、由美が冷却装置を背負ったまま、悲痛な顔で俺に手を伸ばしていた。


「逃がすか、下層のネズミども! 殺せ、ただの肉塊に変えてしまえ!」  神崎の狂ったような命令が響く。  


 電磁衝撃から立ち直った機械の頭部が、再び赤い義眼を光らせ、俺たちに向かって跳躍する姿勢をとった。


(……このまま通路に出ても、背中から追いつかれて殺される!)




 その瞬間、俺の職人としての本能が、一か八かの生存本能を弾き出した。


 俺は、翔太ではなく――神崎の背後にある「巨大な強化硝子」の端、その分厚い『窓枠の接合部』に向かって、高圧鋲打ち機を構えた。


「いくら頑丈な硝子でも、枠の留め金を砕きゃあ、気圧差で丸ごと剥がれ落ちるんだよ!!」


 ズドォォォォンッ!!  


 圧縮された凄まじい反動と共に射出された鋼鉄の杭が、窓枠の留め金部分に深々と突き刺さり、内部の歯車を完全に粉砕する。


 バコンッ!!  


 支えを失った分厚い強化硝子が、一枚の巨大な板のまま、外と内の「圧倒的な気圧差」によって、夜空へと一気に吹き飛ばされた。


 ゴォォォォッ!!  


 暴風。  


 部屋中の調度品、絨毯、そして俺たちの体すらも、ぽっかりと空いた壁の穴から、真っ暗な天空の夜空へと猛烈な勢いで吸い出されそうになる。


「ヒィィィッ!! た、助けろォッ!!」  


 突風に巻き込まれ、窓の外へ投げ出されそうになった神崎が、無様な悲鳴を上げて床の柱にしがみついた。


 ピピッ!  


 その瞬間、翔太の体を操る機械の頭部が、「侵入者の排除」よりも「主(神崎)の命の保護」を最優先の任務として再計算した。  


 跳躍しかけていた息子の体は、凄まじい脚力で神崎の元へ飛び退き、吹き飛ばされそうになるその体をガッチリと抱え込んだ。


「源寺! 由美! 昇降機の穴へ跳べッ!!」


 俺は血だらけの手で由美を抱き寄せ、源寺と共に、こじ開けた昇降機の縦穴へと転がり落ちた。  


 暴風と警報音が鳴り響く中、真っ暗な鉄の縦穴を、ただ泥水のように滑り落ちていく。


(許してくれ、翔太。……必ず、必ずもう一度迎えに来る……!)


 俺は薄れゆく意識の中で、冷たい機械の頭部が乗った息子の逞しい姿を、瞼の裏に焼き付けていた。  


 初めての奪還戦は、俺の肋骨と職人の誇りを粉々に砕き、無惨な敗北で幕を閉じた。




続く

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