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長髪の冒険者

オルトロスを出た僕は、すぐに「白銀」に向かいたい気持ちを抑えて、まず真っ先に冒険者ギルドに向かった。


ギィィィ


ギルドの戸を開けると、多数の視線がこちらを向いた。が、その視線に、始めてこのギルドに来たときに味わったような、どろっとした嫌悪感はなかった。ギルドの冒険者達は、僕を見て、ほんの少しだけ驚いたような顔を浮かべただけだった。…それどころか、むしろちょっと気持ち悪いくらいに温かい笑顔で、僕をじっと見てきている冒険者までいる。

…多分、僕がギルドにいないとき、ロイドが何かきつく言ってくれたんだろうな。彼のギルド内での影響力は、僕の想像以上に大きかったみたいだ。今日はロイドはギルドにはいないようだから、また会ったら一言かけておこう。

そうして僕は、にこにこと、若干嘘っぽいような笑みを浮かべる冒険者達を横目に、受付のクリスティーナさんに冒険者カードを渡す。


「これが今日の分ですね。ちょっと少なめですけど。」


そして、そう言いつつ僕は、今日の成果であるモンスターの残骸を、クリスティーナさんに渡す。


「す、少ない、ですか…これでも十分すぎるほど多いと思うのですが…。Aランク相当が二体とBランク相当が五体、それに…。」

「あ、そうだ。クリスティーナさん。」

「はい、何でしょう?」

「実は、ある鍛冶屋を探しているんですけど…『白銀』という店らしいんですが、知りませんか?」

「『白銀』という鍛冶屋ですか?うーん…。聞いたことがありませんね。私も三年ほどこの仕事を続けておりますが…。」

「そうですか。」


…ダンジョンでカフェを開いている、マスターが教えてくれた店のことだ。この鍛冶屋も、ダンジョンの中とか、魔物の巣とか、常軌を逸した場所に作られているのではないか、と不安になる。


「『白銀』?お前、『白銀』に行きたいのか?」


と思ったとき、ギルドの入口に近いテーブルから、ある一人の冒険者が立ち上がった。長髪の、青色の瞳をした、背の高い男だ。


「はい、もしかして、『白銀』について何か知っているんですか?」

「知ってるも何も、俺はその鍛冶屋の常連さ。武具はいつもそこで直してもらってる。行きたいんなら、道案内してやろうか?」


そう言ってその冒険者は、店の外へ親指をクイと向けた。


「いいんですか!ぜひお願いします。」

「おう!任せとけって。ついてきな。」



─とまあこんな成り行きで、『白銀』の常連だという冒険者が、道案内をしてくれることになったところまでは順調だったのだが…。


「…あの、ちょっといいですか。これだけ歩いてまだ着かないんですかね。もう随分ギルドから離れたと思うんでけど…。」

「─レイと呼んでくれ。ああ、まだ着かねえな。あの鍛冶屋は街の外れにあるんだよ。」

「…そうですか…。」


もう軽く、数十キロは歩いているはずだ。しかも栄えている街の中心から、反対方向に向かって。

本当にまだ着かないのか?店はもう全くなくなってしまったし、人通りもかなり減ってきている。僕も目の前の男を信じてついてきたが、いい加減痺れを切らして、いつ着くのか聞いてみても、「もうすぐだ。」とか「あと少し。」とか言うだけで、具体的な距離や時間は一切答えてくれない。


「─本当にこの方向で合って…」

「着いたぞ。」


とうとう疑い始めたところで、その男─レイは、僕の疑問を遮った。


「着い、た?」


レイが着いたと言った場所は、幾度となく裏路地をくぐり抜けた先の、少し開けた、石造りの空間だった。

もちろん、近くに店なんてありそうにない。


「本当に、ここで合ってるんですか?近くに建物もありませんけど…。」

「いや…なあ、お前、名は何と言うんだ。」

「名前?アーシュといいますが、それが何か?」

「そうか、アーシュ…。─剣をとれ。」

「え?」


前を行くレイはそういったかと思うと、突如振り向き、腰の鞘から剣を引き抜いた。


「ちょっと、なんの冗談…。」

「アーシュ、この俺、レイと勝負しろ。」

「何言って!…ッ!」


反論の余地はないもいわんばかりに、レイは剣を突き出し、僕に向け、腰をやや落とし、構えをとる。


「そんな、こんな道端で…。」

「構わないだろう?ここに人はほとんど来ない。」

「…」

「アーシュ…。俺はな…、お前のことを信用できねぇんだよ。…俺はロイドさんのことは信用してるし、ロイドが信用する人なら信じるに値すると思っている。でもなあ、流石におかしいぞ!突然子供の冒険者がギルドのやってきて、たった一人でダンジョンに潜り、ありえねえ強さのモンスターを当然のように狩って…。しかもAランク冒険者だって?信じられるかよ?ギルドの冒険者は全員こう思ってる!」


目の前のレイは、それまで我慢していたものを一気に解き放つように、言い続ける。


「そもそもAランク冒険者ってのは、ほとんどその名が知られている。だが、俺を含めギルドの冒険者は全員、アーシュなんて冒険者は知らなかった…。一体なぜだろうな?」

「それはAランク登録されたのがついこの前だったから…。」

「御託はもういい。」


レイはそう言い放ち、ぐっと僕を睨みつける。…これは、獲物を狩るときの瞳だ。

─本気で斬りかかってくる気だな。


「もしお前が信用に足る人間だというのなら、今ここで証明しろ!剣を取り俺と勝負しろ!それが出来るはずだ、お前が本当に…。Aランク冒険者だというのなら…!」


…仕方ないな。

僕は腰の大剣を手に取り、刀身をあらわにする。その輝きは、いつになく増して見える。

こうして長髪の冒険者、レイとの決闘が、幕を開けた。



が、決着がついたのは、ほんの数秒後のことだった。

─僕の闘志を見たレイは、足をバネのようにして、一瞬で僕との距離を詰めてきた。見ると、顔面に青筋が立っている。一見力任せに向かってきたようだが、構えは空中でも崩れておらず、基本に忠実で隙がない。…これは相当な剣の使い手だ。

などと思っていると、僅かに刀身の先が揺らぎ、火花が散り始め、レイの剣は燃え上がった。恐らく、飛びかかる瞬間に何らかの魔法の詠唱をしていたのだろう。

そしてあの燃え方をする魔法は多分…

「炎中(インファイア)か…。」


─炎属性魔法、炎中(インファイア)。一般的に使われる攻撃魔法の一つだ。初心者から上級者まで、冒険者を目指すなら必ず世話になる魔法の一つ。この魔法は単純な分、術者の技量に威力が大きく左右される、正に実力が試される魔法の一つ。


この魔法を使ってきたということは、やはり僕を試しているんだろうな。

…魔法を受け流す手段は二つ、力で無理やり押し込むか、同じ系統の魔法を発生させ、相手の魔法を打ち消してしまうかだ。


前者は魔法技術がいらない分、火が飛んだり武器が損傷したりとリスクが高い。それに、試されている以上、今ここで選ぶべきは…。


「…炎中(インファイア)」


後者だ。


ガキィィィン!


魔法を打ち消しあった二つの剣は、互いにぶつかり、火花を散らす。その瞬間に、僕は体中の筋肉を使い、体重を乗せ。


…ズバッ!


レイの剣を斬り落としたのだった。


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