↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
10/16

主の証明


「それで、まあかくかくしかじかで、なんとか『白銀』に行くことが出来たんですよ。」


僕は今日もいつものように、心があったかくなる、ダンジョンの中のカフェに来ていた。


「左様ですか。それは何よりです。」


そう言ってマスターはにこりと笑う。

目の前のマスターからは、いつも以上に圧を感じる。普段はカウンターにいるので気づかなかったが、こうして見ると、マスターはかなり身長が高い。レイと同じくらいだろうか。


「…それにしても、急に戦いを挑まれて、本当に驚きましたよ。マスターも、フランクさんがち(・)ょ(・)っ(・)と(・)頑(・)固(・)な(・)人だって知っていたなら、教えてくれても良かったじゃないですか。」

「これは失礼を。しかし、アーシュ様なら必ず、『白銀』の『試練』を乗り越えられると思っていましたから。


マスターは変わらず笑顔で、淡々とそう言ってのける。 


「『試練』って…大袈裟ですね…。」


と、タイミングを見計らったのか、そばにいたフロールが話しかけてきた。


「それで、『白銀』に着いてからは、何て言われたんですか?アーシュの剣はもしかして本当に『七大名工』の…。」

「あ、そのことなんですけど…。」



─この剣は、お前のためにある剣だということだ。


鍛冶を終えたフランクは、あのとき確かにそう言った。


「僕のために…ある剣…。一体どういうことですか?」

「まあ、順を追って説明するよ。まず、この剣が、『七大名工』によって創られたものなのかどうか、それを話そう。」

「…はい。」

「この剣が『七大名工』の『神具』なのかどうか…それは…。」

「それは…?」

「…分からん!」


「…え?」


自信満々に答えたフランクから出たのは、反対に曖昧な答えだった。


「分からないって、そりゃどういう…。」

「『七大名工』はもう、架空や伝説に近い存在だからな。はっきり言って、『七大名工』の創造を証明できる材料なんて、そうそうない。だから、これが『七大名工』の手によって創られたものなのかどうかは、滅多なことがない限り分からんな。」

「そう、ですか…」


フランクの言葉を聞いて、僕はがっくりと肩を落とす。同時に、何しにここまでやってきたんだという虚無感が、胸を貫く。


「おいおい、そんなに気を落とすなって。まだ話は終わってねぇんだから。」


しかしそんな僕を横目に、フランクはこう言ってさらに続けた。


「確かに、これが『七大名工』の手によるものだという確固たる証拠はない。ただな、俺も長くこの職をやっている。この剣の秘めた実力なら分かる。」

「剣の、実力?」

「ああ。ちょっと待っていてくれ。」


そう言うと、フランクはふらふらと店の奥の方へ行ってしまった。と思ったら、一つのナイフをその右手に持ち、またおもむろに姿を現した。


「これを見てくれ。」


そしてフランクは、僕にナイフの刀身を近づける。僕の目線も同時に移り変わっていく。


「ええっと、このナイフは一体…?」

「─これはな、『七大名工』の一人、メラクによって創られたとされる、『神具』、その複(・)製(・)品(・)だ。」

「…え?…し、『神具』?これが?」


あの伝説の武器の一つ? 

そう言いかけた。

僕は、フランクのナイフをじっくりと観察し、その外見を自分の目にしっかりと焼き付ける。


「ほ、本当にこのナイフが?マスターの言っていた『神具』の一つなんですか?その、なんか、どこにでもありそうな、変わったところのない、平凡で普通のナイフに見えるんですが…。」

「そう思うだろう。もちろん俺が造った模造品だから、性能は格段に落ちているが、外見は元のものと全く同じだぜ。─信じられないか?」


─信じられない。形状が少し特徴的ではあるが、派手な装飾も、神秘的な彫刻があるわけでも、おぞましい殺意を感じる仕掛けがあるわけでもなさそうだ。

至って普通のナイフのように見える。これがあの伝説級の『神具』だとは、到底思えなかった。


「これは20年くらい前だったかな。とある王室に行ったときに見たものを、俺がこの手で複製にしたんだ。─これを売ったら大反響!一晩で3000シルドぐらい稼いだこともあったな!」

「さ、3000シルドも!とんでもない額じゃないですか!」

「ああ、『神具』のこととなると、複製品でも欲しがる冒険者が大勢いたんでな。まあ、これ普通に犯罪だったから、ばれて王室から直々に追手をまかれたな!あれはやばかった!」

「……凄いですね…。」

「…なんの話だっけ?」

「…この剣が、『七大名工』の手によるものかって話だよ、親父。」

「ん…ああ!そうだった。ありがとう、レイ。ともかく、俺は『神具』を実際に見たことがある。その経験を踏まえて言うが、この大剣は間違いなく…。」



「─『神具』と同等の力を秘めている。フランクさんはそう言っていました。」  


カフェ オルトロスに、一瞬間ができた。


「『神具』と同じ力って…え、と、とんでもなく凄いことなんじゃないですか!?」


横に立つフロールは突然、驚嘆のあまり叫んだ。


「そうですか。やはり…『七大名工』が創ったとされる…。」


事の発端のマスターも、流石に驚いたのか、目を見開いてまじまじと剣を見つめている。


「あくまでそれに近しい力を持っている、というだけらしいですけどね。実際に『七大名工』が創ったという裏付けはありませんよ、マスター。」

「でも、とにかく伝説級の力を持ってる剣ってことですよね!?もしかして、ひょっとしたら、Sランクの魔物も倒せるくらいの力が、この剣に備わっているんですか?」

「そう思ったんですが…。」



「『七大名工』と同等の力…。この剣には、それが確かに、あるんですね。」

「ああ。…ただな、俺が見たところ、この剣はまだ、完全体じゃない。」

「完全体?」

「そうだ。…こう言うと聞こえが悪いかもしれないが…お前は剣の力を完(・)全(・)に(・)発(・)揮(・)できていないんだ。」


フランクは僕の目を見て、その次に剣を見てそう言う。


「そうですか…剣の力を…。それは、やはり僕の力不足が原因なんでしょうか?」

「いいや、それは違うな。」


フランクは首を振り否定した。


「こういう絶大な力を持つ剣っていうのは、基本的にその主人(あるじ)にしか、本来の力を使わせないんだ。お前は確か、この剣を父から譲り受けたと聞いているが、この剣はもともとお前の父が持っていたんだよな?」

「はい、そうです。」

「ならこの剣の主人は、お前の父になっている。これじゃ、その主人以外の人物が、思い通りに剣を振るうことは出来ない。」


フランクは冷酷にそう言う。その言葉にもちろん、嘘偽りはないはずだ。


「主人…?よく分かんないですけど…そ、それじゃ…。この剣は僕に、本当の力は使わせてくれないということですか?僕がこの剣とともに、父のような大剣使いになることは出来ないということに─」

「そう、思っていたんだ、俺もな…。…だが、それは違った。」

「─え?」


フランクは、僕との会話を遮って、手に握ったナイフを置き、机の上の剣を手に取る。

そして、なにやらカチャカチャと、見たこともない程素早い動作で、細工でもするかのように手と剣を動かす。


「…?これは何をして─?」

「まあ、黙って見てな。直ぐに分かる。」


─ガチャ



「外れました。」

「わあ…すごい!」

「…ええ本当に、とても手際がいいのですね。驚きました。」


フロールとマスター、口々にそう言われ、少し恥ずかしい。


「フランクさんに教えてもらったんですよ。仕組みが分かれば手入れもしやすいだろうって。─それで、これを見てほしかったんです。」 


そう言うと僕は、慎重に刀身と柄を引き離す。

 


主従関係が主或は従の死以外で覆ることはない

その意をここに刻む


現主  『A.Mayer』



見えなかった剣の裏には、小さな字でこう刻みこまれていた。



「僕の名が刻まれています。…父さんの剣は、そもそも父さんのものじゃなかったんです。僕が主人の、僕が持つべき剣だったんです。」


輝きを放ち続ける大剣の剣先は、いまもなお、僕を見ている。


「…アーシュのお父さんが使っていたのは、本当はアーシュが主人の剣だったってこと?」

「多分そうだと思います。いつか僕にプレゼントするときのために、いつの間にかこの剣と、主従関係を結んでくれていたのかなと思います。」

「そう…なんですね。」


そこでフロールは、少し不思議そうな表情を見せた。

…正直、僕もよく、この「主従関係」については分かっていない。どうやって結ばれるものなのか、僕がいつこの剣と「主従関係」を結んでいたのか。

フランクに訊いてみたところ、


「主従関係を結ぶ契約ってのは、具体的にその内容は決まってねえんだ。仰々しい儀式を行うようなものじゃない。剣と人との心が通い合ったら、形のない関係が生まれる。ただ、主従関係を結んだ剣には、その名前が刻まれる。それは絶対だな。」


そう言っていた。



「…それで、この剣の持つ名前も、ここに刻まれているんです。父から教えてもらって、名前自体は知っていたんですが…。」

「名前?剣に名前がついているんですか?」

「そうみたいです、見てください」


疑問を浮かべるフロールをちらりと見たあと、僕は大剣をひっくり返した。


「ここに刻まれているのが、『名前』です。」


香る金属と冷たい刀身は、僕に名前を呼ばれるのを待っている気がした。


「…これからもよろしくね、『アルシャイン』。」


僕の声に呼応するかのように、「アルシャイン」は瞬いた。本当に、眩しく。


「え?」


光った。辺りが霞むほどに。

僕の愛剣は、宙に浮いた。

刻み込まれた僕の名前、「A.Mayer」が、黄金に輝き、刻印がより一層深いものになる。



「フランクさん、この文字は?僕の名前が剣に刻まれていますが…。」

「これがさっき言っていた、主従関係が結ばれた際に刻まれるものさ。」 

「…!じゃ、じゃあ、この剣の主人は、僕だってことですか!?」

「そういうことになるな。…しかし…。どうもおかしい。」

「おかしい?」

「…この剣とお前とで、契約が結ばれていないんだ。」

「契約が…結ばれていない?そんなことがあるんでしょうか?僕はあんまり武器には詳しくなくて…。」

「いや、ない。契約が剣に刻まれているなら、必ず結ばれているはずなんだが…おかしいな…。まあいい、また、何かこの剣について気づいたことがあったら、些細なことでも言ってくれ。いつでも相談に乗るぜ。」

「はい、分かりました。」

「ああ、それともう一つ。…この剣を大切にしてやってくれ。少なくとも、その剣にはお前の名が刻まれている。それは事実だ。これはアーシュ、お前が持つべき剣─いや。」


─お前のための『アルシャイン』なんだから



突如放たれた愛剣の光は、カフェ オルトロスを包み込む。

そして今、契約は、刻まれた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。