6話 真相
「な、なんでそれを……。」
シアンは震える指先で、棺桶に横たわるいのりそっくりの女性を指さした。
「順番に説明する必要がありそうね。」
いのりは安置された遺体を起こし、人形のように抱き抱えると言葉を続けた。
「あなた達の目的は女王の復活。
女王の体はクリアワールドに封印されてても、魂はクレイジーランドにあった。
自分たちじゃクリアワールドの精鋭に叶わないから、肉体を仮に用意して女王の魂を埋め込んだ。」
いのりは遺体に顔を寄せ、頬に爪を立てた。
「あなた達はその為にこの世界に私を召喚し、女王の魂の拠り所にした!
その後は私をコントロールしてクリアワールドを滅ぼすか、女王の意志を呼び起こすつもりだったのか知らないけど、計算違いだったわね。」
いのりはにやりと笑った。
「今の私は今までのいのりでも女王でもない!不完全な魂が同じ体の中で混ざり合い、新たな魂が生まれた!
この世界で私の精神にヒビが入った結果!女王の魂は私と同化した!」
「同化、した……!?」
シアンは目を見開いた。いのりの目算は当たっている。クレイジーランドの宰相であるロマの命を受け、魔道士のシアンは来る日も来る日も召喚の研究に明け暮れていた。
異世界の人間の召喚は難しくなかったが、問題は女王の魂との適合だった。
適性がなければあっという間に肉体は弾けてしまう。
だからといって適性など女王の魂を埋め込むまで知る術はなかった。
そうして何百何千という失敗を繰り返した後の、唯一の成功例がいのりだったのだ。
「僅かながら女王本人の意思は残ったけど、もういらないわね。」
いのりの手のひらから黒いもやが浮かび上がる。それは弱々しくも顔の形になった。
「おのれ人間風情が……!返せ、我の魔力、我の魂……!適性があった程度で勝ったと思うてか!
今ここにある我の本来の肉体を手に入れればお前なぞ……!」
いのりはもやを握りつぶしたかと思うと、断末魔が響き渡った。いのりの手に残ったのは煤のようなくすみと焦げ跡だけ。シアンは完全に腰が抜けてしまった。
「シアン。」
いのりはゆっくり近づき、しゃがみ込んで目線をシアンに合わせる。
「あなたは、私を騙すつもりだった?」
「そ、そういう訳では……!」
「じゃあ私の精神を破壊するつもりだった?」
「……はい。」
嘘を言ったら殺されると直感が騒ぎ、シアンは本当のことを口にした。
「全部ロマの命令?」
「はい……。」
「逆らうって選択肢はなかったの?」
「成功すれば今世で使い切れないほどの富をやると、ロマ様が……。」
「ふーん。お金が目的だった?」
「はい……。」
「私の精神を壊せば女王の魂が優勢になって、女王が戻ってくると思った?」
「……そうです……。」
「ふーん。じゃああなたが私を魔物からかばったり抱きついてきたりしたのは、私を信用させた方が自分たちの思いどおりにしやすいと思ったからね?」
「はい……。」
死ぬ。確実に死ぬ。シアンの心は徐々に絶望から諦めに変わった。
目の前にいるのはいのりではなく、女王と同化した化け物だ。
一思いに殺してくれ。シアンが願った時、いのりの手が伸びてくる。覚悟して目を閉じた、その時。
「ありがとう。本当のことを言ってくれて。」
「え?」
いのりは女王の体はそのままに、シアンを柔らかく抱きとめた。
「私があなたを恨んでると思った?そんなこと、あるはずないわよ。あなたのおかげで私はつまらない人生から抜け出せた。
富も、力も、男も、何もかも手に入れた。
だからいいのよ。戻りましょう。私たちの世界に。」
これで良かったのだろうか。
命は助かっても、シアンの目に色はなかった。
思い出すのは、目の前の狂った愛情をたたえる女王ではなく、ペンダントひとつで無邪気に喜ぶいのりだった
続く。




