第七十三話 海王の謎
僕の前に現れ、本格的に襲うと宣言した海王族の女性ナナシィ。このことは当然レン達にも報告をして、迎撃の準備に取りかかっている。
「自分の居場所と弟の形見の奪還か……」
そして、僕は彼女から聞いたことをウゴロさんに伝えた。ハミッテがナナシィの弟を殺したということを。
どうしても気になってしまったんだ。この街が、本当に彼女の弟を殺したのかと。
僕の話を聞いたウゴロさんは、カイデンさんを見る。
すると、カイデンさんは横に置いてある槍をテーブルに置いた。
「こいつは昔、俺がこの街を襲った化け物を倒した時に戦利品として手にいれたものだ」
「……もしかして、その化け物っていうのは」
僕の言葉に、ウゴロさんは静かに頷く。
「ああ。おそらくそのナナシィとかいう海王族の弟だったんだろうな。この槍と一緒に宝玉も手にいれたからな」
「けど、化け物って……どういうことなの?」
と、きらめさんが問いかけるとウゴロさんは静まり返った会議室の中で、昔を思い出すかのように語り始める。
「俺が旅を終えて、ここでのんびりと暮らし始めて十年後ぐらいの時だ。当時俺は三十一歳だったか……当然大波と共に八本足の巨大な化け物がハミッテを襲おうと迫ってきたんだ。俺はすぐ戦士達と撃退に向かった」
それがナナシィの弟……それにしても八本足の巨大な化け物って。
海王族は、確かに海の支配できる力を持っているって本で読んだことがあるけど、見た目は人間に近いとも書いてあった。
実際に出会ったナナシィだって完全に見た目は人間だった。
ウゴロさんの言う通りなら、それは完全に化け物だ。
「当時は今ほど水害対策が発展していなかったうえに、大波の中から数百の魔物達も同時に襲ってきた。ハミッテは過去最高の災害にあったんだ」
「俺もまだまだ未熟だったが、師匠であるウゴロさんと共に戦場へと赴いたが……あれはまさに天災。足一本で俺達を凪ぎ払い、その度に風が、波が生まれ、ハミッテは崩壊の危機に陥った」
カイデンさんは今年で五十六歳。ウゴロさんが三十一歳の頃だとしたら、カイデンさんは僕と同じぐらいってことになるか……。
「だが、俺達は勝った。偶然にもその時は当時の旅仲間達が遊びに来ていたんだ」
「え? じゃあ」
「おう。ラゴンも参加したぜ。正直あの戦いは、あいつらがいなかったら負けていたな」
「ええ。彼らの助力のおかげでハミッテはこうして美しい街であり続けられている」
でも、そんな美しい街を破壊しようとしている者が現れた。しかも、それが昔倒した相手の姉。
「それで、その倒した相手は本当に海王族だとは思わなかったんですか?」
ミィヤの問いにウゴロさんとカイデンさんが頷く。
「ありゃあ、完全に理性を失った化け物だった」
「この槍も、ハミッテの象徴として塔の天辺に置いてある宝玉も、俺達はてっきり魔物から出る戦利品だと思っていたんだ」
確かに魔物を倒すと、素材などが手にはいる。二人が話してくれた見た目から考えてもとても元人だとは誰もが思わないはず。
だとすると、どうしてそんな見た目になってしまったか。
やっぱり自分達の住みかを奪われたからそれを奪い返そうとした? いやだとしたら、武力ではなくても話し合いをするべきだ。
会話ができないのならともかく、海王族は知性がある。
いつの間にか自分達の住みかに別の種族が居着いていたとしても、ナナシィのように一度考えるはず。
それに、気になることはまだある。
「魔物といえば、海王族には魔物を使役したり、進化させる能力があるんでしょうか?」
「いや、そんな話は聞いたことないな」
「ですが、主様は実際にナナシィなる者により進化した魔物と対峙しました。もしかすると、海王族には我々が知らない能力があるのかもしれません」
その可能性は大いにある。そもそもこの世界の全てが本に記されたり、人にかたられてきてはいない。
世界は、僕達が思っている以上に広く、謎が多い。
もしかすると、海王族には魔物を使役する能力がおるのかもしれない。
「だな。よし! その可能性も考慮して対策を練るぞ! 相手は明日に攻めると言ってきたようだが、油断はするな! もしかすれば俺達を騙して今日攻めてくるってこともある!」
ウゴロさんの言葉に僕達は力強く頷き、一斉に立ち上がる。
「カイデン。お前は、戦いに向けての戦力と装備の増強を頼む。使える奴は遠慮なく使え! 俺達の街を護るためにってな!!」
「わかってますよ。行くぞ、お前達! 戦は近い!! 早急に装備を揃えろ!!」
「は、はい!!」
会議は終わり、残ったのは僕達四人とウゴロさん。
僕は緊張を解き、ラルクに戻る。
そして、ぐったりと椅子にもたれ掛かった。
「そういえば、お前男だったな」
などとボケなのか、本当に言ってるのか。ぐったりしている僕を見て豪快に笑う。
「男ですよ……まあ、ライカで居ることが多いから時々自分でもどっちが元の性別なのかって考える時はありますけど」
「はっ!? それって、精神が女の子方面に侵食されてるんじゃ!?」
「ええっ!? じゃあ、このままライカさんになり続けると自分は本当は女の子だったって思い込んじゃうんじゃ……!」
冗談で言ったつもりだったんだけど……。
「主様! 私は、どんな主様でもこの忠誠心は変わりません!!」
「う、うん。ありがとう、レン」
「……なあ、ラルク。おめぇ、どう思ってるんだ? 今回の敵についてよ」
真剣な顔だ。さっきまでののほほんとした空気から一変して、先程の会議のように静かで重い空気だ。
レン達もそれを感じたのか、僕に視線を集中させ沈黙する。
「正直まだ考えてます。どうにも、彼女には違和感を感じるっていうか……やろうとしていることは理解できますし、彼女の気持ちにも嘘はないと思います」
「だが、おめぇは何か違和感を覚えた。今回の騒動は単純なものじゃねぇってか?」
「はい……」
もしかすると、彼女は何者かに操られているんじゃないかと考えたけど、海王族ほどの強者を操るなど普通じゃ考えられない。
もし操れる者が居たとしたら、そいつは……海王族以上に厄介な相手ってことになる。
「まあ、思うがままにやればいいんじゃねぇか?」
「思うがまま……」
僕は、どうしたいんだ? 彼女を倒したい? 止めたい? 助けたい? 僕には、そうするだけの力がある。
昔の僕だったら考えても実行できないこと。
僕は……。




