第四十七話 幽霊さんはガタガタ
レン達の方は大丈夫かな? レンは、一見しっかり者に見えるけど、時々天然を発動する時があるから心配だ。
きらめさんに関しては、ゆるふわというか独特な性格な人だけど、根はしっかりしているから、バランスとしては良いと思っているんだけど……。
「ライカさん。ちょっと良いですか?」
「ん? どうしたの、ミィヤ」
少し倉庫の方を見ていると、ミィヤが話しかけてきた。
「今、この話をするのは場違いかもしれないんですけど。山賊のアジトに居た《ドングリズリー》って、あの時の魔族とやっぱり関係あるんでしょうか?」
ミィヤが聞いてきたのは、僕が倒したあの魔族サディアのことだ。サディアは、魔物を強制的に進化させるということをしていたため、あの《ドングリズリー》もそうなんじゃないかと考えているようだ。
あの後、アジトに居た山賊達に事情を聞いたところ、見知らぬ男からある日、切り札になると渡されたと話していた。
今までは、ずっと特殊な薬で意識を刈り取っていたらしいが、その薬を注入しようとしたところで、タイミング悪く僕達が登場して邪魔をしてしまったらしい。
そして、薬が完全に切れた《ドングリズリー》は、今までは貯まったいたものを吐き出すように大暴れ、ということだろう。
謎の男……ローブで姿を隠していたため魔族かどうかはわからなかった、とのこと。
「どうだろうね。でも、無関係と断言はできない。可能性はあると思うよ。それに、今回の異変もね」
「確か、謎の男が現れた時期と丁度重なっていたんですよね」
「うん。だから、今回の異変を調べれば何かわかるかもしれない」
偶然、かもしれないけど。可能性がないとは限らない。サディアがしたことをこの身で実感した僕達は、魔族がどんなに凄いか知っている。
「とはいえ、今のところは食料が消えたり、棚や食器が倒れるぐらいの被害なんですよね?」
「まあ、確かにそうだけど」
そんなことを話していると、何かの気配に気づく。
どこだ……倉庫から!?
「ライカさん!」
倉庫から感じたことのない気配を感じたと思えば、いつの間にか足元に謎の渦が出現していた。
しまった……! これが食料を消しているものだったとしたら……せめてミィヤだけでも。
「掴まってください!」
「ミィヤ! 無理は」
駆け寄ってきたミィヤが僕の手を握り締める。すでに体の半分が吸い込まれていた僕を引っ張ろうとするが。
「な、んですか、これ! 全然動かーーーひゃ!?」
「くっ!?」
足を滑らせたミィヤを僕は即座に抱き締めた。
そして、そのまま渦の中に吸い込まれていく。レン達の方もこの渦が出ているのかもしれない。
だとしてら、僕達のように……。
「ど、どうしましょう!? ライカさん!!」
僕に抱きつきながら、ミィヤが慌てた様子で言うので、ぎゅっと力強く抱き締めながら、宥めるように囁く。
「大丈夫。なんだか、この奥から感じるものに、邪気は感じられない。それに、あの渦がもしかしたらレン達のところにも現れてると思う」
「じゃあ、二人も私達のように?」
「多分。じゃなくても、異変に気づいた二人が何か行動を起こしてくれるはず。……そろそろ終着みたいだ。僕から離れないでね、ミィヤ」
「は、はい!」
どこまでも落ちていくんじゃないかと思っていた不思議な空間。
だが、先に光輝く穴を目にする。
おそらくそこが終着なんだろう。念のため〈ゴールドサークル〉を発動させ……到着。
「ここは……」
「なんだか、怖い雰囲気のある場所ですね」
「うん。けど、不思議とそこまで怖くはないね」
僕達が到着した場所は、どこか屋敷の中だと思う。壁に取り付けられているランプの灯りだけで、照らされた赤い絨毯が続く廊下。
右を見ても、左を見ても、先は暗く見えない。
「〈夜目〉」
スキル〈夜目〉を発動し、先を確かめる。敵は……潜んでない。次に〈生命探知〉で周囲の生命反応を探る。
……近くに二つ感知。けど、変な反応だな。やたらと強い反応とやたらと弱い反応。それに、この反応はもしかして。
「行こう、ミィヤ。こっちに、誰かが居る」
「魔族、ですか?」
「いや、魔族ではないみたいだけど、もしかしたら、少し厄介な相手かもしれないというか……まさか当たるなんて」
「え? それってどういう意味ですか?」
「……確かめるために、実際にこの目で見る。しっかり掴まっててね」
一応、〈ゴールドサークル〉を発動しているとはいえ、僕が居るからにはできるだけミィヤのことは護らないと。
捲き込んじゃったわけだし。ミィヤにこんなことを言えば、自分から巻き込まれただけです! と言うんだろうけど。
「ここだね」
ミィヤと手を繋ぎながら、移動して一分。
如何にも何かが居そうな大きな扉の前に到着する。まだ中に居る反応は気づいていないみたいだ。
さて、ここからどうするか。〈シャドウゲート〉で一気に奇襲をかけるか? それとも。
「……よし。普通に入ろう」
「え? 普通に入っちゃうんですか?」
ここまで、こっそりと移動してきたため、さすがのミィヤも驚いた表情になる。
完全に敵ってことなら、奇襲もありだろうけど。
この中に居る反応からは邪気を感じない。感じるのは……苦しみと悲しみのみ。
「お邪魔します」
「だ、誰!?」
ここで、ようやく僕達に気づいたようで、強い反応の方が叫ぶ。
「あなた方は……もしや、霊界門に巻き込まれて」
その後、弱い反応が話しかけてくる。部屋の中は、こざっぱりとした広い空間。ベッドに最低限家具しか置かれていない。そして、そのベッドには紳士風の男性が眠っており、側に娘らしき少女が僕達を威嚇するように睨んでいる。
「霊界門とは、あの渦のことでしょうか? なら、あなたの言った通りだと思います。僕はライカ、そしてこっちはミィヤと言います。とある事情があって異変が起こる場所を調査していたところ、ここに辿り着いた、というわけです」
自己紹介とここまで来た事情を話すと少女の方は相変わらず睨んでいるけど、男性の方は事情を理解してくたようで、ベッドから身を起こす。
「それはそれは……すみません、体調が悪いゆえベッドの中から失礼します。私の名はベルトン。半霊人族です」
やっぱりそうだったか。
「あの、半霊人族というのは?」
「これは失礼。やはり半霊人族は、そこまで有名ではないようですね。……所謂半分人で、半分霊という世界でも珍しい種族なんですよ、青髪のお嬢さん」
「半分人で、半分霊? それってハーフエルフのような種族ということでしょうか?」
確かに、例としては近い存在かもしれない。
「まあ、そんな感じです。ただハーフエルフと違うところは……最初から私達は、このような体だということです」
「え?」
「つまり、神々が産み出した種族ってこと。ハーフエルフは、人とエルフから生まれるけど、半霊人族は人やエルフのように、最初から半霊人ってことなんだ」
僕もじいちゃんから少しだけ聞いただけだった。実際出会ったという人が少ないからだ。こうして目の当たりにすると、よくわかる。肉眼で見る限り普通の人と全然変わらない。
けど、魂の輝きは違う。半分霊体というだけあって他と比べると、輝き方が幽霊のそれだ。幽霊は、肉体を失いマナだけの集合体となった存在。そのため〈生命探知〉で確認すると、粒子となって溢れ出ているように見えるんだ。
それがこの二人からは感じられた。
「お詳しいのですね、ライカさんは」
「祖父が一度話してくれたことがあったんです。とはいえ、名前と特徴しか教えてもらえませんでしたが」
「そうだったんですか。……あっ、申し訳ありません。ほら、ご挨拶をしなさい。お客様に失礼ですよ」
ずっと僕達のことを睨んでいた少女の背中に手を添え、挨拶するように言うベルトンさん。
「……アマリア」
どうやら娘さんの方は警戒心がかなり高いようだ。それにしても、霊界門を通ってと言っていたけど……ここは霊界、なのか?




