第四十八話 ゴーストハンター
「では、お互いに自己紹介が済んだところで、本題に入って良いでしょうか?」
決して相手を威圧せず、笑顔で対応しよう。まず、僕はフードを取り、二人の様子を伺う。
ベルトンさんはもう警戒心を解いているみたいだけど、アマリアはまだこっちを睨んでいる。よほど、警戒心が高い子なんだろう。ベルトンさんが何度も宥めるも、僕達を睨み続けている。
「すみません。この子は、私のことを護ろうとしているんです。見ての通り体調が優れないので……それに、こんなに他人を警戒しているのには訳があるです」
「……失礼でなければ、その訳を話して頂いてもよろしいでしょうか?」
「ええ。あなた方は、あの者達とは違うようですから」
その言葉に、アマリアは少し警戒心を緩めてくれる。
大好きな父親を必死に護ろうとしているだけなんだ。こっちは、できるだけ敵意を見せずに居よう。
「あれは、今から二週間ほど前になるでしょうか。私達は、この霊界でひっそりと仲間達と一緒に幸せな毎日を過ごしていました」
「仲間というと、同じ半霊人族ですか?」
「ええ。それに、行き場をなくした霊達も。ここは、人界とは違う次元に存在する場所ですから。肉体を持った者は簡単には入ってきません」
でも、僕達は入ってこれた。どうしてなんだ? さすがに、死んでいるってことはないと思うし。
「あなた方が、この霊界に入ってこれたのは、おそらくそれだけのマナを保持しており、かつ霊脈の中心に居たからこそ、霊界門を通って霊界に来ることができたんだと思います」
「じゃあ、あの喫茶店が霊脈の中心だったということですか?」
霊脈とは、大地に流れるマナの管のようなものだ。目には見えないが、大地にはマナを流す管が張り巡らされている。
それが霊脈というもので、霊脈にはより濃い場所が世界中にある。
そこでは、純度の高いマナが産み出され、質の良い食べ物や魔力量の多い子供などが生まれることが多い。
けど、あの町はそういう噂はない。
確かに食べ物は、かなり美味しかったけど、それだけだ。霊脈の中央で、有名なところと言えば【聖都アヴァロネア】だ。
そこでは、質の良い食べ物が育ち、魔力量の多い子供達が多く生まれる。しかも、聖女と呼ばれる存在と神聖騎士が住んでいる。
ゆえに、現在でも霊脈の中心の捜索は続いており、見つけ次第そこに街を造ることになっている。
より豊かなマナの加護により、質の良い食べ物や人を産み出そうとしている。まあ、それが聖都に負けじと対抗している国々ばかりなのだんだけど……今のところは、聖都に勝てる要素がないからね。
「おそらく。実はね、アマリアもそこから人界に行って、私のために食料を取ってきてくれているんです」
「……あの、その食料がどこからきているか知っていますか?」
「いえ、生憎私は動けず、アマリアも教えてくれないので」
なるほど。さて、どうするべきか。ここはベルトンさんのためにも、アマリアの今後のためにも話しておいたほうがいいよね。
ミィヤに一度視線を送り、確認をとったところで、僕はこれまでの経緯をベルトンさんに話した。ある日を境に、食料が急に消えたり、物が倒れたりするようになったことを。
それを調べるために、僕達が被害を受けている喫茶店の店主さんの依頼で訪れていたところ、この霊界に来た。
大まかに、経緯を話終えたところで、ミィヤが付け足すように喋りだす。
「あの、ベルトンさん。アマリアちゃんを叱ってあげないでください。確かに、盗みは悪いことですけど、アマリアちゃんはベルトンさんのために」
「……わかっています。確かに最初は、まだ力の使い方が全然なアマリアが食料を取ってきた時は、嬉しかった。私のために取ってきてくれたんだと。そして、その食料を見た時にどこか違和感を感じたんです。もしかしたら、この食料はと」
なんとなくだが気づいてはいたんだ。けど、小さな娘が自分のために取ってきてくれたものだからと。
「でも、笑顔で戻ってきた娘を怒れなかった……それに、私が動けなくなったのが悪いんです」
「パパは悪くない! 悪いのは全部あいつらの……【ゴーストハンター】のせいなんだ!!」
自分のことを責めるベルトンさんの言葉を全力で否定するアマリアの口から出てきた【ゴーストハンター】という言葉。
なるほど、ベルトンさんが弱っているのは、そういうことだったのか。
「ライカさん。【ゴーストハンター】というのは?」
「幽霊や悪霊を退治する者達の総称だよ。こう聞くと正義の味方のように聞こえるけど……中には霊達を退治せずに、捕らえて売買している連中も居るんだ。おそらくベルトンさんはそういう連中にやられたんだと思う」
半霊人族も霊の一種。しかも、他の霊とは違い半分は人だ。数もそこまで多くなく、ほとんど霊界で暮らしているため、人界で見かけることはあまりない。
希少価値はかなりのものだ。
「ええ。たまたまアマリアと人界に散歩へ出掛けていたところを」
「パパは、狙われたあたしを護って……! だから、悪いのは全部あたしなの!」
狙われはしたが、なんとか霊界に逃げ込むことができた。しかし、ダメージは相当なもので、中々回復しない。
どうにかしようと考えたアマリアは、まず少しでも回復するようにと食べ物の調達をして、喫茶店で異変が起こったってところか。
「……ミィヤ」
「は、はい。なんでしょうか?」
「ベルトンさんに回復術を」
「それは、良いですけど。私の回復術は外傷を癒すもので、今のベルトンさんに必要なのは」
そう、ベルトンさんに目立った外傷はない。それなのに、体調が優れないのは、精神的なダメージのせいだろう。
ミィヤが使う〈アクアヒール〉や〈アクアハイヒール〉は外傷を癒すスキルだ。
「大丈夫。最近覚えたよね? 新しいスキルを」
「なるほど。ですが、相手は半分霊です。光属性のスキルを使っても大丈夫なんでしょうか?」
「ええ、大丈夫ですよ。半分霊といっても、ほとんど人ですから」
どうやら聞こえていたみたいだ。
「……では、今からベルトンさんの体を癒すためにスキルを使います」
「な、なにするの?」
アマリアは、近づくミィヤを睨み、ベルトンさんに近づけないようにする。が、ミィヤは大丈夫ですよ、と笑顔を向けながらベルトンさんに手をかざした。
「いきます。〈ホーリーキュア〉!」
ミィヤが発動したスキル〈ホーリーキュア〉は、体内のマナを活性化させることで目には見えないダメージを治療するものだ。
しかも、〈アクアヒール〉と同じく光属性の適正が高ければ高いほどその効果は増す。ミィヤの光属性適正は水属性ほどではないが、かなり高い。
「……ど、どうですか?」
治療を終えたミィヤは、ベルトンさんに問い掛ける。アマリアが心配そうに見詰める中、ベルトンさんは自分の体を不思議そうに触りながら、口を開いた。
「凄い。さっきまでの体のダルさが嘘のように消えました……!」
「パパ!!!」
これには、アマリアも感極まりベルトンさんに抱きつく。
「やったね、ミィヤ」
「はい!!」
僕は一人ガッツポーズを取っているミィヤの肩に手を置き、笑顔を向ける。
これで、一段落……ん? この気配は。
「主様!!!」
「え? れ、レンちゃん!?」
やっぱり、レンだった。それにきらめさんも……あれ?
「二人とも。色々と聞きたいことがあるけど……まず、その人は?」
と、僕はレンが首根っこを掴んで引きずってきた男を指差す。どうやら気絶しているみたいだけど。
「急に襲ってきたんだよ? 私達を半霊人だぁ! なんて言って」
「だから返り討ちにしてやったんです。どうやら【ゴーストハンター】という輩のようですが」
……これは、次の問題も解決しちゃった、のかな?




