第四十五話 旅にお姉ちゃんは必要
「ねえ……お願い、ラルクくん」
「だめですよ……きらめさん。僕には」
「もう我慢できないの……ちょっとだけだから。ね? 怖くない、怖くないよ」
「無理なものは、無理なんです……!」
優しい言葉で迫ってくるきらめさんに僕は断固として意思で首を左右に振る。
しかし、きらめさんは顔を赤らめながら、一歩また一歩と近づいてくる。
「お願い! お姉ちゃんに……お姉ちゃんに!」
ばっと、スマホを横に構え。
「早くライカちゃんに変身してー! 一回だけでいいから!」
きらめさんの実力を知った次の日。
明日には旅立とうと思っている僕達だが、現在ピンチである。きらめさんがライカへの変身を見たい見たいと、諦めくれないのだ。
スマホには、映像記録機能というものがあるらしく、あの小さな板に僕がライカに変身するところをそのまま残すというのだ。
実際にどんなものなのかを見せてもらったけど、スマホに可愛く動くミィヤが。これはやばい機能だと思った僕は更に決意を固めた。
永遠に残るというから、顔面蒼白だ。
「……きらめさん! この際だから、恥ずかしいですが教えます」
「え? 教えなくても実際に変身すれば」
「実は」
僕は、あの筒を取り出し、恥ずかしいのを覚悟してきらめさんにライカへの変身の仕方を教えた。
すると、徐々に顔が赤くなり……僕の股間を見詰め、静かにスマホを下げた。
「そ、そんな変身の仕方だったんだー」
「はい……本当は早く教えればよかったんですが、やっぱり女性に教えるには、なんというか」
と、僕も急に恥ずかしくなり、きらめさんから視線を逸らしながら頭を掻く。一緒の部屋に居たミィヤも顔を両手で隠しており、レンだけは平気そうな顔をしている。
「それはまあ確かに……人前じゃ、無理だよね」
「わ、わかって貰えたのなら良いんです。正直、僕もスッキリしました」
「私の方こそごめんね? 知らなかったとはいえ……間接的にラルクくんに、そのあ、あそこを露出して欲しいって頼んでいたことになるんだよね……うぅ、凄く恥ずかしい!」
よかった。普通にきらめさんにもそういう感情があったんだ。ちょっと失礼かもしれないけど、恥ずかしくもなく僕にくっついてきたりしてきたから、羞恥心がないんだと思ってたんだ。
なんともない。羞恥心がちゃんとあるただの女の子だ。
「えっと、じゃあこの話はここまで! 空気を変えるために別の話をしよう!」
ぱん! と手を叩き、僕は別の話に切り替えようとする。
「そ、そうだね!」
きらめさんも賛成してくれたところで、今後についての話し合いを進める。
「僕達は、明日にはこの町を出ようと思っています。きらめさんは、どうするつもりですか?」
ベッドに腰を下ろし、僕が問うと。
「もちろん私も旅を続けるよ。けど、できればだけど……ラルクくん達と一緒にしたいんだけど」
さっきのことがまだ抜けてないようで、お姉ちゃんらしさがなくなり普通の女の子のようにもじもじとしながら、視線を合わせようとしない。
「二人はどう?」
「私は、きらめお姉ちゃんと一緒に旅がしたいです。とても楽しい日々が送れそうですから!」
ミィヤが言い。
「私も問題はありません。後は主様の仰せのままに」
レンも賛成のようだ。それを聞いたきらめさんは、徐々に顔を上げ、僕を見詰める。
「僕も良いですよ。旅は大勢の方が楽しいですから。それに、異世界のことをもっと聞きたいですから」
「皆……うん! やっぱり旅にはお姉ちゃんが必要だよね!! これからの旅は、私にお任せだよ!!」
どうやらいつものきらめさんに戻ったみたいだ。
「あっ! そうだ。また話は変わるんだけど、実はこんな依頼があるだけど」
きらめさんが取り出したのは、ギルドの依頼書でも、自由依頼書でもなかった。
・・・・・
僕はライカとなり、皆が寝静まった時間帯にとある場所へもやってきていた。今回の依頼は個人依頼だ。
つまり、ギルドを通さず、自由掲示板にも出すことなく、個人が直接依頼を出した。依頼者は、僕達も立ち寄った喫茶店の店主さんからだ。
どうやらあんなにも喫茶店が寂れていたのは、最近になって原因不明の異変が起こっているからだという。
異変はさまざまあるが、大体は食料の消失。
最初はただの泥棒だと思っていたようだけど、まるで本当に消滅したかのように食料が消えているようだ。
これは、一度泥棒を捕まえようと依頼を受けた冒険者達からの情報だ。目の前でパッと消えたと。
そのままいまだに原因は不明で、周りもそんな君の悪い現象が起こっているところではちょっと……という理由で現在は客足がすっかり少なくなったとのこと。
「今のところは特に変わったところはありませんね」
深夜の喫茶店に訪れていた僕達は、静かな空間の中、周囲を見渡す。キッチンや、倉庫などを確認したけど、今のところは異変はなし。しかし、異変は突然起こるようだ。
油断はできない。
「とりあえず、食料があるキッチンや倉庫を二組に分かれて、警護しよう。僕とミィヤが倉庫を。きらめさんとレンはキッチンを」
「むむ……主様と一緒じゃないんですか……」
「レンちゃん。落ち込まないで! お姉ちゃんがついてるから!」
ごめん、レン。バランスを考えたらこうなったんだ。僕が基本前で攻撃、ミィヤが後ろから支援。
きらめさんとレンも同様だ。レンが前で、きらめさんが後方支援。
「それじゃあ、何かあったら、互いにフォローを」
「頑張りましょう!」
「わかりました! 主様の命令とあらば!!」
「皆、無理だけはしないようにね!」
倉庫は、喫茶店の一番奥にある。そして、キッチンはカウンターと一緒になっている。
喫茶店なので、基本は簡単な料理をするだけ。そのため、料理屋のように裏に本格的なキッチンがあるというわけではない。
「それにしても、食料が消える、ですか。もしかして、幽霊の仕業とか?」
「だとしたら、対処が難しいね。幽霊はマナのそのもの。物理攻撃は効かないし、簡単に壁をすり抜けてしまうからね」
基本的に、幽霊のような実態を持たない相手には、術系のスキルが有効だ。特に邪を滅する光属性のスキル。
僕はないけど、ミィヤに光属性の適正があるようで、最近になってスキルを取得したそうだ。〈ホーリー〉という聖なる光を放つスキルなのだが、これが幽霊にもかなり有効なものだ。
「もし、幽霊だったら、頼んだよ」
「はい! お任せください!」
とはいえ、僕もなにもしないというわけじゃない。例え相手が幽霊だったとしても、今あるスキルを駆使して、拘束することや倒すことだってできるはずだから。
幽霊相手に戦ったことがないのが不安要素だけど……さあ、いつ、どこで、何が起きるんだ?




