第四十四話 変身アプリ
「あれは……魔物?」
さすがにこれでは地下室に下りれないと、地上に出ると熊のような魔物が地面から地上に出ようとしていた。
あれは《ドングリズリー》のようだけど、通常のよりも倍ぐらい大きい。まだ上半身しか出ていないのに、その大きさがわかる。
「まさか、山賊達が魔物を飼っていた?」
「でも、なんで〈スリープスモーク〉が効いてないんだろ?」
「《ドングリズリー》は、睡眠や幻覚などの状態異常が効かないんですよ」
「なるほど!」
うーむ。どうやらきらめさんはまだこっちの情報には疎いようだ。
おそらく地下で飼い、何かしらの実験をしていたのかもしれない。けど、なんで山賊が? それに《ドングリズリー》のような凶暴な魔物をどうやって……。
謎が多いけど、今は。
「あんな魔物を放置してたら、大変です!!」
「だね。……ここはもうライカに」
と、あの筒を取り出したが、それよりも早くきらめさんが前に出る。
「予定は狂っちゃったけど、丁度いい相手だね! さあ、見てて。私の戦う姿を! 【変身アプリ】起動!!」
まさか一人で倒そうっていうのか? さすがに、それは。、
「心配しないで、ラルクくん。変身した私は……一味違うよ!! コード【鎌姫】!!!」
自信満々に叫び、きらめさんはスマホから溢れ出る謎の光に包まれる。そして、光が弾けたと思えば服装が変わっていた。
漆黒のドレス。まるでどこかの令嬢と見間違えてしまうほど豪華なドレスに身を包んだきらめさん。髪の毛も下ろし、頭にはティアラを被っており、まさに姫という姿だ。
「ちなみに、ラルクくん達には見えなかっただろうけど、ちょっとエッチな変身バンクがあったんだよ」
いったい何を言っているんだろう?
「きらめお姉ちゃん! 《ドングリズリー》が地上に出てきます!」
ミィヤの声に、きらめは《ドングリズリー》と対峙する。
さて、いったいどんな戦いを……あれ?
「きらめさん。武器は?」
鎌姫というから、鎌を武器に使うのだと思っていたけど、今きらめさんが手に持っているのはスマホだけ。
まさか、スコップの時と同じように鎌も取り出すのか?
「ここからだよ。まず自撮り棒を取り出す!」
なんだ? 柄の部分だけ桃色の棒が出てきた。しかも、まるでスマホががっちりとはまりそうな部分がある。
まるで、僕が持っている筒のようにも見えるけど。
「ここにスマホを装着! 本来ならこれで自撮りとかするんだけど、今回の使い方はこうだよ! ブレード!!」
「か、鎌になっちゃいましたよ!?」
なんと、スマホから刃が出現し、大きな鎌が出来上がった。
まるで、死神が持っている鎌みたいだ……。
「ここからは【鎌姫】きらめの華麗なダンスの開幕! 皆! お姉ちゃんが勝つ姿、ちゃんと見ててね!!」
両手で大鎌をしっかりと持ち《ドングリズリー》へと駆け出す。
さっきから無差別に周囲の木々を破壊していたようだが、さすがに接近してくる相手の気配に気付き、そのでかい腕を振り下ろす。
通常の《ドングリズリー》の攻撃力は僕が戦った《バーサクモンキー》に匹敵する。とはいえ今回の《ドングリズリー》は倍以上の大きさがある。
加えて、自我がないようだ。周囲の状況を見れば理解できる。あんな魔物の一撃を受けたら、きらめさんの体は……。
「ごめんね、熊さん! あなたには恨みはないけど、これも弟と妹達にかっこいいところを見せるチャンスなの!!」
相変わらずお姉ちゃん行為は続いているようで、そこからきらめさんの余裕が伺える。
「せいや!」
本当に余裕だったようで、あの《ドングリズリー》の腕を一太刀にて両断してしまった。相手もまさか腕を両断されるとは思っていなかっただろう。
自我がないせいで、痛がることもなくもう一本の腕で攻撃した隙を狙うが。
「ほいっと!」
まるで、ダンスを踊るように空中で華麗に回避。そのまま回転を加えて、もう一本の腕も両断してしまった。
「す、すごいですね。まさか、あんなに強いとは」
きらめさんの予想外の強さを目の当たりにしたレンは、警戒心を高める。確かに、今までのきらめさんはどこかふんわりとした雰囲気で、戦闘に関したは遠距離系を得意とする魔法使いだと思っていた。
それがどうだ? 近接戦闘もばっちりな万能型だった。
レンは、敵になった場合のことを考えているのだろう。
「大丈夫だよ、レン」
「え?」
僕は、きらめさんの戦闘を見詰めながら、レンの頭に手を置く。
「熊さん! これでクライマックスだよ!!」
と、きらめさんが一度距離を取って、スマホを手元まで下げて、たん! とタッチする。
「なんだか、あの人は敵にはならないような気がするんだ」
「必殺コード! 〈デスサイズ〉!!」
きらめさんがまた聞きなれない言葉を叫ぶと大鎌の刃が二つになる。まるで鉤爪のようだ。
「おりゃああっ!!」
そこから一気に距離を詰めていき、両腕を失った《ドングリズリー》へと怪しく煌めく大鎌を振り下ろした。
「これにて、閉幕でごさいます……なんてね!」
マナとなって四散していく《ドングリズリー》を背に、ダンスを終えた令嬢のようにスカートを軽く摘まみ、一礼。
だが、すぐにいつものきらめさんの笑顔が出てきた。
「私も、きらめお姉ちゃんは敵にならないと思います。なんでだかわかりませんが」
「ミィヤ様も……わかりました。実は、私もそう思っているんです。不思議な方ですよね、きらめお姉ちゃんは」
異世界人だってこともあるんだろうけど、彼女が敵になる光景が浮かばないんだ。まあ、これは僕達の感覚であって確定しているわけじゃない。もしかしたらってことも、あるだろうけど。
「わーい! どう? どうだった? お姉ちゃんかっこよかった?」
「はい! 凄く!」
「主様の次にですが、かっこよかったですよ」
「むむ? ラルクくんの次って言うのが引っ掛かるけど……よしとする! ねねね? ラルクくんはどうだった?」
「そうですね……」
この無邪気なお姉ちゃんは、ずっと味方でいて欲しい。
そう思ってしまうんだ。
「ちなみに、まだまだ変身にはたくさんのパターンがあってね。今回は、ちょっとダークなお姉ちゃんでいってみたの! ……ねえ? 聞いてる、ラルクくん」
「聞いてますよ、きらめさん」
「もー! だから、お姉ちゃんって呼んでって!」
本当に不思議な人だ。




