第三十八話 とある昼食時
それは、突然の出会い。
如何にも悪そうな男達に囲まれたと思いきや、謎多き少女きらめと出会い、助けられ、何だかんだあって一緒に行動している。
何だか、やたらとお姉ちゃんに拘っており、今もレンやミィヤと手を繋いで歩いている。
僕も、手を繋ぐ羽目になりそうで、後数分で僕一人だけが、彼女と手を繋ぐようだ。
悪い人、ではないんだけど。
「あの、きらめさんは」
「お姉ちゃん!」
「……きらめお姉ちゃんは、一人で旅をしているんですか?」
とても一人で旅をしているという格好ではない。僕達のように【収納カバン】を持っているわけでもないし。
あっ、もしかして〈収納空間〉を持っているのかな?
「そうだよー。今までずーと! 一人旅なんだー」
「そうなんですか? きらめお姉ちゃんだったら、すぐ仲間ができると思うんですが」
と、ミィヤがもっともなことを言う。彼女の性格と、さっきの力を見る限り、仲間ができない理由がわからない。
現にこうして、僕達が一時的だけど旅の仲間になっている。
「えへへ。なんていうか、肝心なところでドジっちゃうんだよね。私って。そのドジが原因っていうのもあるけど、単純に今は一人でこの世界を満喫したいっていうか」
「じゃあ、私達はお邪魔、ですかね? 主様」
確かに、一人旅を満喫したいのなら、無理に僕達に付き合うことはない。ここは、護衛をしてくれなくても良いぐらい強いってところを教えないと。
そうすれば、彼女も本来の気ままな一人旅に戻れるだろう。
「あの、僕達は」
「そんなことないよ! むしろ、ナイスタイミングで出会ったって思ってるから!!」
なんだろう、この謎の威圧感。嫌な感じじゃないから、強く拒否することができない。
この人は、善意で僕達と同行しているみたいだけど、よくわからないものも感じられる。なんだ? これは。
「あの」
移動していると、ミィヤがくいっときらめの腕を引っ張る。
「なに? ミィヤちゃん」
「そろそろお昼にしたいんですが」
「おー! 確かにそろそろお昼の時間だね!」
そう言ってなぜかあの薄い板を確認する。まさか、あれは時計の役目もできるのか?
ミィヤの場合は、懐中時計を持っているから、それを確認して言ったのだが……益々、謎が深まった。
「では、準備をしますので、よいしょっと」
きらめから離れ、ミィヤは【収納カバン】から持ち運び用のテーブルを取り出す。
折り畳み式で、階段状になっている。座るところは、まるでベンチのように平らなので、軽く三人ずつ並んで座れるのだ。
「わー! そんなものが入っていたんだぁ。ファンタジーだねぇ」
「ミィヤ。今日は、僕も料理を作るよ。きらめお姉ちゃんが居るからね」
「お姉ちゃんのために、ライカちゃんが料理を!? なんて……なんて良い子なの! お姉ちゃん感動で涙が出てきちゃうよ……!」
本当に、涙を流しているきらめに苦笑いしつつ、僕はフードを脱ぎ、エプロンを装備する。
いつも使っている黄色のエプロンだ。
ミィヤは、水色のエプロンを装備し、まな板と包丁を取り出し、野菜を慣れた手つきで刻んでいく。
その間、僕は豚肉を取り出し、下ごしらえ。
柔らかくなるようによく叩き、タレにつけて、よく熱したフライパンで焼いていく。
「主様、火加減はどうですか?」
「うん。そのまま中火ぐらいでお願い、レン」
「ほわー、そういうやり方があるんだね」
本来なら、専用の道具があるんだけど、今回はさっと焼くだけなので、こうやってスキル〈ファイア〉を使って直接フライパンを熱した方が早いのだ。
レンの協力もあって、豚肉はいい焼き加減で皿に盛り付けられた。
そこへ、ミィヤが刻んだ野菜が添えられる。
「お? これはしょうが焼き?」
僕が作った料理を見て、そう呟くきらめ。
「えっと、これは豚肉のソマラ焼きという料理ですが……」
ソマラとは、野菜や果実などを調合したことで生まれたハーバ特産の調味料だ。
製法はわからないけど、このタレにつけて焼くと食欲を刺激させられる匂いを漂わせる。シンプルに焼くのも良いけど、じっくりと煮込みのもいい。
「この世界特有の料理なのかな? 確かに、若干匂いが違うような?」
出会った頃からだけど、きらめは僕達がよく知らない言葉をよく言う。しょうが焼きっていうのは、きらめの故郷の料理なんだろうか?
「ライカさん。今朝のあまりのスープが温まりました」
「ありがとう、ミィヤ。じゃあ、スープを装ったら、飲み物を用意お願い」
「はい」
豚肉を人数分焼いた僕は、袖の収納空間から、予めミミを切っておいた食パンを取り出し、先程まで焼いた豚肉と刻んだ葉野菜を挟む。
「え? は、挟んじゃうの? というかパンなの? ご飯じゃなくて?」
「ご飯も合いますが、パンに挟んでも合うんですよ? 食べたことがないのでしたら、是非」
にっこりと、笑顔で具材を挟んだパンを二つに切ってから、皿に並べていく。
こうして、昼食の準備は終わった。後は、席について食べるだけだ。
「簡単なもので、すみませんが」
「ううん。最初は驚いたけど、さっきからお腹が鳴ってて……」
それはよかったと僕は手を合わせる。
「いただきます」
「いただきます!」
「いただきます」
「いただきまーす!」
いつ嗅いでもいい匂いだ。
僕が生まれる前からあったもので、今でも大人気の調味料。昔は、よくご飯にそのままかけて食べていたものだ……。
そんな思い出とともに、パンを口に運ぶ。
噛んだ瞬間は、ふんわりとしたパンとシャキシャキ食感の葉野菜だけか……と味気のない感じだが、すぐに口の中へ程よい肉汁と甘辛いタレが溢れ出る。
うん、やはりこういうシンプルなものは、旅をする時に重宝される。すぐ作れるうえに、保存もできる。
「おお! パンにも合うんだね! でも、やっぱりしょうが焼きとは何かが違う……やっぱタレかな?」
どうやらきらめにも好評ようだ。その後、楽しい昼食時間は過ぎていき、綺麗に食べ終える。
汚れた食器類を綺麗に洗い、テーブルを片付けようと手を伸ばす。
「ちょっと待ったぁ!!」
しかし、きらめから止められてしまう。なんだろう?
「食後のデザートを食べよう!」
デザート? 確かに、果実は何個かあるけど。
「あれ? きらめお姉ちゃん。その箱いつの間に」
ミィヤに言われ、僕もきらめが右手にいつの間にか持っていた箱に目をやる。レンは、匂いを嗅ぎ何が入っているのか確かめているようだ。
「主様。この中から甘い匂いがします。これはおそらくケーキです!」
「大当たりー!!」
テンション高めで、テーブルの上に箱を置いて、オープン。
中には、生クリームたっぷりのケーキや見たことのない黄色いケーキに、丸太のようなケーキもあった。
「こんなものいつの間に」
と、僕が聞くと。
「昼食前に注文しておいたんだよ!! ささ! 好きなものを選んでねぇ。お姉ちゃんのおごりだよ!!」
さらりと、わけのわからないことを言う。
注文って……え? じゃあ、これはさっき僕達が気づかなかっただけで、誰かが届けに来たってこと?
……本当に何者なんだ? この子は。




