第二十八話 迫り来る悪意
「ふむ……これは中々面白い人間が居たものだ。まさか、お前を容易く倒すとはな」
水晶から映し出された過去の映像を見て、黒髪の男は笑みを浮かべる。そこには、フードを深々と被った小柄な人間が、配下をあっさりと倒しているものだ。
その配下も、自分が倒されているというのに、平然とした顔で答える。
「ぐげげ。はい『私』が倒されたのは、実に五十年ぶりです。それも、あっさりと倒されるとは……」
「その割には、嬉しそうだな」
「ええ。実験も順調で、後は帰還するのみでしたからね。飛んで戻るよりもこっちのほうが早いですから」
そうか、と男は軽く返事をし、再び水晶へと目を向ける。
「久しぶりに遊びにいくか」
「おや? やはり興味を持たれたので?」
「ふん。俺が興味をもつことがわかっていたから、この映像を見せたのだろ?」
男は、腰をあげ、水晶を撫でる。
「この俺を楽しませてくれると良いのだがな」
水晶から光が消えると、男の左目に青い炎が灯る。
まるで、闘争心を炎として表現しているかのように。
・・・・・
「それでは参ります、主様!」
「うん。いつでも」
あれから、鍛練は続いた。レンも一緒になって鍛練していると、ゴバックさんが僕とレンの戦いを見てみたいと言ってきたのだ。
まあ、それぐらいだったら日課としてやっていることなので、二言返事で了承した。
そして、また皆の視線が集中する中、僕はスキル〈フレイムブレード〉を発動し、炎の剣を生み出す。対してレンは、似たスキルで〈黒炎剣〉を発動し、黒い炎の剣を生み出す。
「まずは小手調べ!」
だん! 力強く大地を蹴り、真っ正面から近づく。
「その手は」
しかし、すぐ途中でくるっと体を回転させ、真後ろへと回り込む。
「お見通しですよ!」
けど、さすがレン。僕の手を読んでいたため、着地するところへ剣を振るう。
「それは、僕もだよ」
当然こうなることは僕だって予想はできていた。だから、縦に回転したままレンの剣へと僕の剣をぶつける。
ボボボッ!
炎の剣同士がぶつかり合うことで、自然と火力が上がった。
「とっ……」
弾かれた僕は、無事に着地するが、そこへレンが容赦なく攻めてくる。
「ハッ!」
この攻撃も予想できていた。咄嗟にしゃがみこみ、攻撃を回避したところで回転足払い。
「うわっ!?」
さすがのレンも反応しきれず、バランスを崩す。
「そこ!」
そして、そのままの勢いで、剣を振るう。
「な、なんの!!」
誰もが入ったと思った。僕もいけると思った。だがレンは、炎の剣を地面に突き刺し、それを軸棒とし、直立して回避した。
「凄いねレン。まさかそんな方法で回避するなんて」
戦いのセンスはかなりのものだって知ってたけど、これは……テンション上がってくる展開。
「……けど、今回はこれで終わりにしよう」
「あ、はい。わかりました!」
今回は真剣勝負じゃない。あくまで、鍛練のために模擬試合をしているだけなんだ。
さっきので、十分に僕達の戦いを見せられたと思うし。
「本当に強くなったね。僕も負けてられないよ」
炎の剣を消し、近づいてきたレンの頭を撫でる。レンの成長は本当に早い。僕と違いレベルが上がればそれだけステータスも上がるから余計に。最初は、僕が生み出したような存在だからステータスもオールSかと思ったけど、そうじゃなかった。
「えへへ……ありがとうございます、主様!」
とはいえ、筋力や俊敏はSだった。それもあってさっきは僕と渡り合っていたんだ。なので、強くなるには戦いの経験値を積むこと。
僕はオールSだからレベルが上がってもステータスは変わらない。変わるのはラルクのステータスだ。それも相変わらずレベルの割には低いけど……。
レンとの鍛練は、本当に有意義なものだ。レンも、僕と鍛練するのが楽しいようでいつも笑顔なんだ。
で、最後にはこうして頭を撫でるのが、日課となっている。
「す、すげぇな。二人とも。速すぎて一瞬の出来事のように思えたぜ」
「本当に。さっきのを毎日のようにやっているのかしら?」
戦いが終わると、観戦していた人達が近づいてくる。まず話しかけてきたのはゴバックさんとラメサさんだ。
「いえ、日課はもっと軽くです。さっきみたいなのは、たまにですね。さすがに、あれを毎日のようにやるのは」
「で、ですね。けど、次元の違いを思い知らされました……」
「リーグ。さすがに、比べちゃだめよ。私達は、私達のやり方で強くなりましょう」
「そ、そうだな」
こうして、鍛練は終わった。久しぶりに訓練場で動いたけど……清々しい気分だ。
誘ってくれた冒険者達とも別れ、また三人になる。
時間帯的にそろそろお昼だ。なので、どこで食べるかと相談しつつ大通りを移動している。
「今日は、いっぱいお金が手に入りましたから、ちょっと高めのお店にしますか?」
「うーん。そうだねぇ……体も動かしたことだし、今日は安くて、いっぱい食べられるところにしようと思ってるんだけど」
街で食べること自体少ないうえに、今までの人生で高い店には行ったことがないので、なんだかこう入りづらいというか。
貧乏生活が長かったからなぁ……。
「おやまあ? 何か探し物かい?」
キョロキョロしながら、移動していると見覚えのあるお婆さんと遭遇する。あのペンダントのお婆さんだ。
一瞬、反応できなかったが、すぐ笑顔で対象をする。
「はい。実は、今日のお昼をどこで食べようかって迷っていたところだったんです」
「そうだったのね。だったら、この先を真っ直ぐ進むと細い道があるんだけど。そこを通れば、ちょっと古いけど美味しい小麦粉料理を作るところがあるわ。お店の名前はパルッタって言うのよ」
パルッタか……確か、今年で創業八十年の店だったかな? じいちゃんが若い時、よく食べに行った店だって聞いたことがある。
今では、他にも店が増えて、昔ほどは客足はよくないみたいだけど、それでも常連は結構居るらしい。
「ありがとうごさいます。小麦粉料理だったら、たくさん食べずにお腹が満たされそうですね」
「ええ。私もね、昔はよく食べていたのよ。今は、歳を取って胃があまり受け付けなくなっちゃったけど……」
お婆さんと少し会話を楽しみ、僕達はパルッタへと向かう。
「主様。あのご老人は」
ぼそっと耳打ちをしてくるレン。僕は、うんっと頷き、あの時のことを思い出す。
あの時よりは、健康そうだったけど。多分、あの夫婦にも僕が死んだってことは伝わっているよね……。
「小麦粉料理ですか……やっぱり定番のピザとかが、いっぱいあるでしょうか?」
「どうだろう? もしかしたら、そのお店だけの料理とかがあるかもね」
じいちゃんの話では、あるみたいだけど。
「おお! もしあったら、それを注文しましょう! レンちゃんは、やっぱり辛いものですか?」
「もちろんです! 一日三回は辛いもの食さないと!!」
心配事もあるけど、この日常から離れられない。いつか話せる、その時まで……僕はライカとして過ごすんだ。
「ほわー……なんだかここからでもいい匂いが漂ってきますよ!」
「あ、主様! 早く行きましょう!」
「まあまあ、二人とも落ち着いて。料理は逃げたりしないから」




