第二十七話 訓練場にて
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ハーバには、訓練所がある。そこでは、日々冒険者や傭兵、街を護る兵士達が鍛練に明け暮れている。
さまざまな戦士達が集まるので、交流の場としても使われている。
まあ、そういう日常的なことだけではなく、戦う者らしく暴力沙汰というか、腕試しなんかは日常茶飯事だ。
僕は、冒険者になる前から自主トレに加えて、ここで色んな鍛練をした。時々、変な人達に絡まれて、ボコボコにされることも……。
そんな思い出が詰まっている場所に、僕は幼女の姿で久しぶりに訪れている。
「おうおう、今日もやってるな!」
「お? なんだゴバック! もう怪我はいいのか!」
「もう一週間は休んでいた方がいいんじゃねぇか!!」
「はっはっはっ! あれぐらいの怪我なんて数日あれば完治だぜ!! それそれも、今日はスペシャルな奴を連れてきたぜ!!」
ゴバックさんの知り合いであろう男達が茶化しに来たところで、ゴバックさんが僕のことを紹介する。
それにより、近くに居た人達も興味本意で近づいてきた。
「えっと、ライカと言います。よろしくお願いします」
「ん? まさか、そのチビって」
「おう! 今や、ハーバ中に名を轟かせているスーパールーキー! ライカだ!!」
ちょ! そんな大袈裟に紹介しなくても……! ルーキーなのはたしかですけど。
「ほー? マジで小さいのな」
「お嬢ちゃん。フードの下を見せてくれよ。俺達ずっと気になっていたんだよな」
などと言ってたくさんの人達が集まってくる。冒険者から傭兵、まだ新人そうな少年少女まで。
どうやら、僕のフードの下が気になっているようだ。確かに、いつも結構深く被っていて、見えるのはぎりぎり髪の毛と顔の下部分ぐらいだろう。
「……これで、いいですか?」
視線が集中する中、僕はフードを脱ぐ。
「おお!」
「うわあ……結構な美少女、いや美幼女?」
「か、可愛い!」
「マジか。俺はてっきり男かと思っていたぜ」
最後の人は、一人称で判断していたんだろうか? さすがにスカートを穿いた男って……居る、かもだけど。
「本当にこんななりで《バーサクモンキー》や《クリスタルスライム》を倒したのか?」
「おい、お嬢ちゃん! ちょっくら俺達と遊ばねぇか?」
「優しくしてやるからよ!」
完全に僕を小さな子供かのような扱いをしている。男達が下品な笑いをしている中、女性陣は僕を抱き締めながらふざけないで! と怒鳴り付ける。
「まあまあ落ち着けよ、お前達。まずは、俺がこいつの実力を見る! お前達はそれからだ!! な? ライカ」
「ま、まあはい。それで、良いですけど」
抱き締めてきた女性陣を引き剥がし、ゴバックさんと共に訓練場の中央へと移動する。
ちなみに、使うのは木剣だ。なんだかこの姿で別の武器を握るのは初めてかもしれない。
「おし! どこからでもかかってこい! 遠慮は要らないぜ! つっても、スキル使用は禁止だがな!!」
「わかりました。勝敗は?」
「降参もしくは、どっちかが気絶したらでどうだ?」
定番といえば定番かな。ゴバックさんの提案に、僕は木剣を構えて静かに頷く。
周囲の人達も自然と口を閉ざし、僕達を見詰めている。
「いきます」
僕の出方を伺っていたゴバックさんへ、僕の方から仕掛ける。一歩踏み込み。
「ーーーは?」
一気にゴバックさんのところへ詰める。僕との身長差がかなりあるゴバックさんは二重の意味で僕の姿を見失っていた。
そこへ隙だらけの横っ腹に木剣を振るう。
「ごはっ!?」
「あっ」
自分では軽く振ったつもりだったが、思った以上はゴバックさんは吹き飛び、観戦していた冒険者や傭兵達を巻き込んだ。
巻き込まれなかった冒険者や傭兵達は遅れて、視線を僕から右へと向ける。
「……だ、大丈夫てすかー!?」
僕もハッと我に帰り、ゴバックさん達のところへ駆け寄る。
「う、ぐおおおっ! いってぇ!? な、なんだ? 何が起こったんだ!?」
どうやらゴバックさんも、巻き込まれた人達も無事なようだ。無傷ってわけじゃないけど。
「す、すみません。力加減が難しくて」
ゴバックさんは、かなりがたいのいい人だったから多少は強くいっても大丈夫だと思っていたんだけど……か、完全に化け物みたいに思われちゃうかも。
「さすがは主様です! スキルなど使わずにこれほどの強さ! まさに圧倒の一言です!!」
「だ、大丈夫ですか? 回復いります?」
僕のことを褒めてくれるレンに、吹き飛ばされたゴバックさん達を心配するミィヤ。
回復術をかけようとするが、ゴバックさんはそれを手で制す。
「だ、大丈夫だ。これぐらいなんてことはねぇ」
と、僕が木剣を叩き込んだところを押さえながら、立ち上がる。
こ、骨折とかしてないよね?
「いやぁ! まったく見えなかったぜ! 本当にすげぇ奴だったんだな、ライカ!!」
「あの、骨とか大丈夫ですか?」
「おう! 結構頑丈なほうだからな! この通り大丈夫だ! いつっ!?」
僕を心配させまいと、攻撃されたところを力強く叩くが、明らかに大丈夫そうな反応じゃないんですが。
「もう、やせ我慢しないの。ほら、そこに座って休んでなさい」
それを心配してか、ラメサさんがゴバックさんに肩を貸して、壁際まで連れていく。
「皆さんも巻き込んでしまってすみませんでした」
「い、いや良いって。これぐらいの方が、お前の実力を実感できるからな」
「舐めてたぜ……幼女にあんな力があるなんてな」
「聞いた話によると、そこに居るリーグは幼女に背負われたそうだぜ?」
「なんだと!? なんて羨ましいことを!!」
あっ、なんかリーグさんに矛先が。
「ま、待ってください皆さん! 別に俺は望んでやったことじゃ。それに、結構恥ずかしいですよ! 自分よりも小さな。それも女の子に背負われるなんて!!」
確かに、最初は凄く抵抗してたなぁ……だけど、時間が惜しいという理由で無理やり背負ったんだ。
僕だってリーグさんと同じ立場だったら、恥ずかしいって気持ちになるだろうから、わかる。うん、幼女に背負われるのは、普通に恥ずかしい。
「おいおい、恥ずかしいだってよ?」
「これだから、美少女幼馴染みが居る奴は困る……」
「え? ど、どういうことですか?」
本当にどういうことだろう? ……あっ、まさか。
「自分よりも小さな子に持ってもらえるなんて最高のご褒美だろうが!!」
「この小さな体で、大きな物を持っているギャップが最高なんだよ!!」
「え? え?」
や、やっぱりそういうことだったのか……僕もそこまで詳しくはないけど。じいちゃんからそういう特殊な性癖を持った人達が居るって聞いたことがある。
「しかも? お前、運ばれてる時どうしてた?」
と、上半身裸の男が問いかける。
「落ちないように、しがみついて、いましたけど」
「ほほう? てことは、こうやってしがみついていたと?」
明らかに嫉妬の炎を燃やしている。さっきとは別の人がリーグさんの背後に回り込み首を締めるような形で両腕を回す。
「は、はい……! そうですけど」
「いい匂いはしたか?」
「へっ?」
思わず声を出してしまった……! これには周囲の女性陣の大半が引き気味な感じ、離れていく。
中には、僕を護ろうと前に出る人達も。あっ、レン。飛びかかっちゃだめだよ。どう、どう……。
「いい匂いはしたかって聞いてんだよぉ!?」
「わ、わかりませんよ! そんな余裕ありませんでしたもん!?」
「お、おい。お前ら、やっぱりさっき頭でも打ったのか?」
大分回復したのか、暴走している仲間達を心配して声をかけてくる。
「いたって正常だ!」
「これが俺達だぜ!!」
「なお、心配するわ!?」
「大丈夫だ! さすがに、現実で幼女を襲うことなんて、犯罪行為はしない」
「俺達は、ただ見守るだけ……幼女とは、そういう存在だ!」
「まあ、たまには妄想が暴走することもあるがな!!」
だ、大丈夫なんだろうか? この人達。結局、彼らの暴走は一時的なもので、当初の予定通り鍛練に勤しむのだった。




