「メリンダの料理屋の裏庭で」
元社畜として、仕事に忙しかった合間の通勤と帰宅の電車で揺られる時間にスマホで読んでいたラノベや家に帰った後、狭い部屋に一人でスマホやノートパソコンでサブスクの異世界転生アニメをたくさん観るのが数少ない楽しみの一つだったタック。
(今後、こういうのって色々と良い評判が広がり過ぎて、お偉い貴族やしまいには王族の耳に入ったりして小さな店が大繁盛していく反面、ライバルの同業者やその他よく思わない連中からひどいいやがらせを受けたりする展開が王道ストーリーなんだよな・・・)と心配した。
『システム解放!! “デリバリーシステムオープン”、“パス変更システム可能となりました。”』
と、急にタックの眼の前に青白い四角いスクリーンと共にどこからともなく声が響いてきた。
(異世界転生キタ~!!)と喜び上がるタック(タカオ)
「どうしたんだ、タック。突然飛び上がって喜んだりして?」と、不思議そうに見つめるアレックスとメリンダの二人。どうやら二人にはこのスクリーンはみえないようだった。
「いや、なんでもない・・」と平静に戻ったふりをするタック。
(デリバリーシステムはなんとなくわかるが、“パス変更”ってなんだ!
?)
システムに密かに心の中で質問してみる。
“パス変更”とは、今まで現代日本の定食やとこの異世界の川辺にある古びた小屋とを“扉”で結んでいたが、その異世界の出入り口を古びた小屋から別の場所へ自分が思うがままに変更できる機能だそうだ。
この街から門番たちに挨拶し城門を抜け、川辺の小屋まで毎日往復するのはとても大変だと不便におもっていたタックにとってとてもありがたいスキル(機能)だった。
「アレックス、この店の敷地でちょっと空いている場所とかない?」と聞いてみた。
「うちの店はみてのとおりこんなに小さいが裏庭があり、そこに使っていない物置小屋がある。まさか、お前そこで寝泊まりしようと考えているんじゃなかろうな?あそこは狭いし暗いぞ。」と警告するアレックス。
「違うよ!ちょっと食材を保管したりしたいんだ。」などと適当なウソをついた。
どうしてもというタックに二人も折れ、小さな裏庭にある、これまた小さく古びた物置小屋にタックを案内した。
「ありがとう。そしてごめん、自分でやりやすいようにちょっと片付けたいからちょっと二人は店内に戻っていてくれないか?」とつげられるアレックスとメリンダの二人。
「別に、ほとんど使っていない小屋だし、メリンダの命の恩人だからこれくらい別にいいけど・・・」とちょっと不思議がるアレックス。
アレックスとメリンダに戻ってもらい(追い払ったというべきか)、誰も付近にいないことを確信したあと、タックは(システム!「この小屋にパス変更!」)と唱えた。
すると、タックの眼の前にそれまで川辺の小屋にあった扉が、小さな物置小屋の奥の壁に現れた。
システムによれば、異世界側の扉は現時点はどこか一箇所しか解放できず、今まであった川辺の小屋の扉は封鎖されているそうだが、今後何かあった時にいつでも戻せるそうだ。
試しにアレックスたちの物置小屋の奥に転移した異次元の扉を通過してみた。普通に通過し、現代日本の見慣れた定食屋に戻れた。
最近はずっと“準備中”にしていて良かったと思えたタック。特に店の前では通行人が店をチラ見する程度でクレームなどは一切なかった。
とりあえず、定食屋の冷蔵庫にあった、マヨネーズ、ウスターソース、ケチャップなどの調味料とパン粉、生卵数個をバッグに詰めた。
異世界への扉をくぐり、アレックスとメリンダの元へ戻ったタック。
「おい、えらい時間がかかったな・・」と心配そうなアレックス。
「この店で昨日食べたボアの肉とパン、それと・・・“オーク”の肉とかまだある?」と、適当に尋ねるタック。
「オーク肉か!あんなもの安くてそこら中に売ってるぜ。」
(オーク肉あるのか。異世界キター)と再び心の中で舞い上がるタック。
「うちの店でもいくらか在庫があるが、小さな氷室の箱にいれてある。」と、調理場にある木製の箱を見せてくれた。この箱は蓋をしめると冷凍効果を発生させる魔法が付与されたマジックボックスで、結構値段がかかったそうだ。
「この箱ほしいか?」と問うアレックス。
「いや、箱は今はいい。中に保存しているオーク肉を少し分けて分けてほしい」と告げた。
メリンダの命の恩人で、まだ金銭的にお返しをしていなかった二人にとって少しばかりのオーク肉など大したことはなかった。
「あと、わずかばかりの昨日たべたパンとキャベなんとかという野菜があれば・・」とタックは言った。
「“キャベット”ならあるよ。」とメリンダが、パン二切れとともに、こちらの異世界のキャベツに似た野菜を見せてくれた。
タックは日本の自分の定食屋から持ってきた、パン粉と油と卵を持ってきたバッグから取り出した。
「なんだそりゃ!?」とみたこともない食材に驚くアレックスとメリンダの二人。
木製の深いボウルを用意してもらい、薄切りにしたオーク肉に卵とパン粉をまとわせ、あらかじめ加熱しておいた油の中に投入した。
《ジュワ~。》と、少ししていい音を立てきつね色に揚がるオーク肉。
観たこともない調理法に目を丸くするアレックスと興味をそそられるメリンダ。
十分に揚がったオーク肉の衣の油をきり、ナイフで切り分けていき、これまた持参したウスターソースをかけた。このままでも十分に美味しいのだが、今回は用意してもらったパンにキャベットとともに上下からプレスするように挟み、お好みに合わせて味変もできるように、別にマヨネーズとレインボーソースも小皿に用意した。
初めて見る“オーク肉のカツサンド”にヨダレが止まらないアレックスとメリンダの夫婦。
「ちょっと、食べてみな」とタックは早速すすめてみた。
待ってましたと言わんばかりに食らいつくアレックス。普段から慣れ親しんでいるオーク肉とキャベットに加え、初めて見る調味料たち。
サクッという音とともにオーク肉の肉汁がアレックスの口の中に溢れ出た。
「なんだこれ!うますぎるぞ!」
と、飛び上がらんばかりのアレックスと静かだが幸せそうに味を堪能するメリンダ。二人の様子にとても満足するタック。
「これをメリンダに作ってもらい、この店で手始めに販売していこうと思う。作り方はゆっくりと教えるから。」
「いいわよ!」とやる気まんまんのメリンダ。
「食材はそちらの町でできるだけ用意してほしい。調味料などは当面こちらで用意する。」と告げるタック。
すべてを用意してあげると、町にない食材で料理していると他の同業者たちのやっかみを買い通報され城の城主や兵士に目をつけられたら困ると考え、あえて“目立たない”ように商売するように心がけた。また、食材を今まで通り、この町の市場で仕入れることで、町の経済の発展にも一役かえると自負できた。




